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FAKE HERO  作者: 月江堂
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反転攻勢

「エライねェ♡ ちゃんと来たじゃん♡ 昨日の感じだともっと抵抗するかと思った♡」


 相変わらず挑発的な表情を見せる飯垣(メシガキ)博士。対するジョーとナツキは落ち着いた表情で彼女を見据えている。


「俺は……お前の、味方だ」


 言葉少なにジョーは答える。それは、メガデスに絶対服従という事を意味しはしない。


 助けが必要なのだ。


 メガデスの連中は能動的に世界征服に向かおうとしているから別としても、少なくとも飯垣博士には助けが必要だと。彼女はまだ「救える」のだと思ったからだ。そして、それができるのは自分であると。ヒーローが助けねばならないと考えたからである。


「あのAIはどうしたの?」


「お兄ちゃんのこと?」


 ナツキは積極的に前面へとは出ないものの、やはりジョーにはついて行くと決めたようで、飯垣博士のことをそれなりには心配しているようである。


「AIは消してないわよ♡ 今日は持ってきてないわ。アジトに置いてあるわよ♡ 昨日あの後大変だったんだから♡ あたしまで全員の寝床確保に肉体労働したってのにお前ら先に帰りやがって♡」


 どうやら一般職員も含めたメガデスの社員はマルサーPPの襲撃後、そのままばかうけの中の陣地を拡張して避難所を設けたようである。


 それでもまだメガデスの支配領域、パンティーラインは崩れていないようであるが。そこまでの事態になっていると国側が把握していないのか、国税局とその他の行政の連携が取れていないのか、これが縦割り行政というものである。


「で? ここはもうパンティーラインの内側ギリギリぐらいの位置関係だと思うんだが、どういうつもりなんだ?」


 自衛隊が防衛している点と線のおおよその防衛ライン。緊急の事態にもパンとお茶だけで頑張ってくれていたことから誰かがパンティーラインと呼んだものがなぜかそのまま定着してしまったものであるが。


 何か目に見えて陣地が築かれているわけではないが、彼らが今いるのはぎりぎりそれに触れない程度の位置である。


 その、彼らにとっての「安全地帯」に飯垣博士とジョー達、そしてメガデスの怪人にニンジャダイナソー達が陣取っている。


「反転攻勢よ♡」


当然そうだろう。だがどこへ?


「自衛隊の基地か警察署か?」


「所沢税務署よ♡」


 まさかの税務署への意趣返しである。


「なぜ⁉ そんなところ襲撃してもしょうがないだろう! 税務署には金は保管されてないぞ」


「甘いわね♡ 現状自衛隊は私達メガデスの強敵じゃない。気を付けるのは兵装を持っているヒーローとかマルサーPPよ♡ ヒーロー達は民間人で国との連携も取れてないし、だったら居場所のはっきりしてるマルサーPPを潰す方針よ♡」


 なるほど。戦略としては理解できる。


 一瞬破れかぶれの攻勢に出るのかと思われたが、基本に則った各個撃破による戦力の削りを狙っているようである。メガデスはまだ冷静だ。


 とはいえ、ジョーからすると複雑な気持ちではある。飯垣博士を助けるという目的はあるものの、メガデスに協力したいわけではない。


 さらに言うなら具体的にどうやって彼女の心を救うのかという案があるわけでもないのだ。現状、流されるより外にないのが正直なところだ。


「さあ♡ 進軍はもう始まってるわよ♡ ついてきなさい♡」


 どうやらこの作戦の指揮官は飯垣博士ではなく、誰か別の者が率いているようである。先頭にいるのはメガデスの、別の怪人のようだ。確かにニンジャダイナソー達の進軍が始まっている。


「しかし、上手くいくのか? 以前の襲撃とは違って今度は向こうも警戒している状態だぞ」


 作戦自体は上手くいってほしくない、というジョーの希望的観測も入っているが、ジョーの言っていることに理はある。確かに物理的に構築されている防衛線を突破するわけではないが、前のように上手くはいくまい。


「ざこお兄さんは心配ばっかして大変ねぇ♡ そんな心配ばっかしてるとハゲるわよ♡ 現状自衛隊が手も足も出ないんだから大丈夫よ♡ ヒーローどもが出てきてもこの数なら圧倒出来るし♡」


 会話をしながら最後尾について行くジョー達。その間にも一行はパンティーラインの外側へとずんずんと進んでいく。まるでここが自分達の庭だといわんばかりに。


「俺は……どうすべきなんだ」


 誰にも聞こえないような声で、ジョーが呟く。その言葉が聞こえたのは、ナツキだけのようだった。


 彼女は静かにジョーの肩に手を置いて、無言で頷いた。


 今は耐え忍ぶしかない。たとえ民に弓引くようなことしかできないといえども、それしかないのだ。


今の自分は、ヒーローとして行動できているだろうか。便宜上とはいえ、ヒーローと名乗る資格が本当に自分にあるのだろうか。考えても考えても悩みは尽きない。


「ボクが、ついてる」


 ジョーの問いかけへの答えには全くなっていない。そもそも彼女はその問いに答えを出そうとなど考えていない。ただ、何があっても寄り添うと、そう宣言したのだ。


 その言葉こそが、何よりも心強かった。


「しかし、このまま進んでいけば、本来協力すべき他のヒーローと戦うことになるかも……」


 その危惧は、おそらく差し迫ったものだろう。こうしている今にも起こりかねない事態である。


 そんな時前方の集団の方から大きな爆発音が聞こえた。まだ税務署までには距離がある。それほど長い時間行軍していたわけではない。思っていたよりもはるかに早く戦闘が始まってしまったのだ。


「どういうことだ? 作戦がマルサーPPの方に気取られていたのか?」


「わ、わかんないわよそんなこと♡ あんたもさっさと加勢に行きなさいよ♡」


 飯垣博士に促され、ジョーは前方に視線をやる。


 危惧していた事態がこんなにも早く……しかし、何かおかしい。先ほどの爆発音は、マルサーPPの砲撃音とは違うように感じられたのだ。


「自衛隊だッ!!」


 前方の一団から叫び声が聞こえる。


「自衛隊? いまさらそんなのが出てきたっての?」


 拍子抜けしたような間抜けな声を上げる飯垣博士。


「うふふ♡ ちょうどいいじゃん♡ 防衛ラインに慎重になってる奴らもいるみたいだけど、自衛隊なんて敵じゃないってことをはっきり自覚させてやろうじゃないの♡ やっちゃえ♡」


 しかし調子こいた博士の声の直後、再び爆発音がする。


「つ、強い! 隊列が崩されるぞ!!」


「え……どゆこと?」

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