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FAKE HERO  作者: 月江堂
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姉として

「ジュラシックジーザスってなんなんだろう」


「俺に聞かないでくれ」


 ナツキとジョー。


 一夜明けて次の日の夕方、自宅の部屋にて。


 異様なものを見た。彼らが理解できたのはそれだけであった。国税局のアルバイト(イリーガル)、マルサーPPの襲撃を受けて避難した先で目にしたもの、それはキリストのような古代ユダヤ風の服に茨の冠を被ったティラノサウルスであった。


 時系列的にはジョー2とミカ、リンがメガデス本社前でジュラシックジーザスに遭遇した数時間後である。


 その後ナツキとジョー1は一旦自宅に帰ったものの、メガデスの社員達がどうなったのかは確認していないので分からない。


「結局メガデスは壊滅した、ってことでいいのか? 少し違う気がするが……」


「今日の街の様子を見た限りだと、そういうわけじゃなさそうに感じるね。むしろ今後はメガデスに手を出しにくくなったと思うよ」


 本拠地を攻撃されて本社が破壊され、ばかうけ内部に避難した。これは事実上メガデスの敗北と見ていいだろう。それがジョーの考えであったが、ナツキはそう見てはいなかった。


「今回の件でメガデス社内にすら、奴らのテロにかかわってない一般社員が大勢いるって分かったんだ。政府は攻撃しづらくなったと思うよ。それよりなにより、あのマルサーPPとかいう傍若無人な男が、警察や自衛隊と連携が取れてるとは思えないんだよね……」


 暴力装置としての機能を備える警察や自衛隊はその規範において無茶な行動はとりづらい。税務署だからこそあれほどの動きが取れた、とも言えるのだ。


 税務署ってそんな無茶苦茶な組織だっけ? という疑問は置いておくとして。


 そして何より、一日たった今でもパンティーラインの内側に自衛隊などの行政側が事態の解決を宣言しに来ない。と言う事は未だメガデスの支配が続いていることだろう。


「それよりも、あのジュラシックジーザスとか言うふざけた生き物はなんなんだ」


 二人は腕を組んで考え込む。しかし答えなど出てこない。


「社長は、あんな胡散臭い生き物を神輿にして世界征服をするつもりなのか? あれもメガデスが生み出した怪人なのか?」


「分からない……けれど、あれをメガデスが作り出したとは思えない」


 ナツキの言葉にジョーは疑問の視線を投げかける。ジョーからすればニンジャダイナソーからの自然な開発の流れにあのジュラシックジーザスは見えたのであるが。


「あまりにも発想が幼稚すぎる。普通恐竜とキリストなんて結びつける?」


 それもその通りだ。各所から怒られる危険性もあるキャラクターである。


「ジョー君、あの時のジュラシックジーザスの演説、覚えてる? 税金がどうのこうのと言ってたの」


「ああ、覚えてる。徴税人とファリサイ派がどうのこうのとか。キリスト教ってそういうものだったのか?」


 ジョー2が聞いた説法の内容というのはジョー1が聞いたものとほとんど同じである。大前提としては悔い改めることによって神の愛をもって全ての罪が許される。敵を憎んではならないというものではあったのだが、それ以前にファリサイ派と徴税人を異様に敵視した前提があり、少なくともファリサイ派についてはその場にいる誰もがポカンとした表情で聞いていた。


 しかし徴税人については別である。


 実際あの場にいた人達は勤め先の本社を目の前で徴税人に破壊されたのだからさもありなん。


「どうなんだ? センパイ。俺は政経の科目を選択してないからあんまり分からないんだが、あいつの言ってることは正しいのか?」


「お姉ちゃんって呼んでくれていいのに……あいつの話、って、税金は全て廃止して、必要な分は全て国債の発行と、金を刷って賄えばいいってやつだよね? 無茶苦茶言ってると思うよ」


 やはりそうか、と得心するジョー。あまりにも堂々というものだから「そういうものなのか?」と疑問符を抱きつつもジュラシックジーザスの説法に()されてしまったものの、やはり全ての税金を廃止などかなり無理がある。


「なんであそこまで徴税人を敵視してるのか……」


「まあ、モチーフが二〇〇〇年前のキリストだからじゃないかな?」


 徴税というものが権力者の収奪に過ぎなかった時代というものは確かにある。二〇〇〇年前のローマ属州ユダヤなどはまさにそうだ。集められた税金は全てローマに吸い上げられ、支配体制の維持のみに使われ、公共事業などには分配されない。さらに徴税人は割り当てられた租税額以上のものは私物にできるというシステム。これならば徴税人を敵視するのもむべなるかな。


 定義の問題にもよるが、税金がきちんと市民に分配される公共物として機能するのは中世どころか近世でも成り立っておらず、使用用途の透明性が確保された現代になってからである、とする説もあるほど。


 そんな感覚での説法で、あの場は収められてしまったのだ。人間の熱狂とは恐ろしい。


「ジョー君、思うんだけど、やっぱりメガデスからは手を引いた方が……」


「だからこそだ」


 ナツキの言葉をジョーは最後まで聞くことなく止めた。


「あの場にはクーデターにかかわっていない社員もいた。飯垣(メシガキ)博士はかかわってるけど……まだ子供だ。助けが必要な人がいる。それがあんな怪しげな連中に騙されている状態は放っておけない」


「いや、今自分でも言ったじゃん。飯垣博士はかかわってるって。自業自得だよ。キミがそんなことまで背負い込むことはない。それに話の内容からするとあの博士ってそこまで子供じゃないっていうか……」


「いざとなれば内側から押さえるという事もできる。俺はしばらくメガデスの中で動くつもりだ」


「ジョー君……」


 ナツキの言葉には諦めの色が滲んでいた。だがそれは決して落胆一色と言う事ではない。彼女は苦笑の表情を見せる。


「まあ、そう言うだろうとは思っていたよ。ボクは、キミのそういうところが好きになったんだから」


「なっ……」


 今までも好意がある素振りを見せてきたナツキ。ジョーも全くの朴念仁というわけではない。そうなのかもしれない、とは思いつつも異性と付き合った経験などないゆえ、それを意識の外において接してきたのだが、とうとう直接的に言われて大いに狼狽えてしまった。


「ジョー君は、自分の思うように行動して。ボクはそれをサポートする。姉としてね」


 そう言ってにっこりと微笑み、ジョーの手を優しく包み込むように両手で握った。


 ジョーは赤面しつつも、どうしたらいいのか分からず、手を引くこともできず、だからと言ってナツキの目を見ることもできずにただ自分の手を見つめていた。


 その時、スマホが振動する。


「噂の飯垣博士からだ」


 メッセージには、明日、ばかうけ内部のアジトに集合するようにだけ指示があった。しかしこのタイミングだ。何か動きがあるとみて間違いあるまい。


 スイッチが切り替わるようにジョーの表情が変わった。

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