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FAKE HERO  作者: 月江堂
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徴税人

「この世には確かに救いようのない絶対悪というものが存在する。それがファリサイ派と、彼のような徴税人だ」


「ファリサイ派?」


 聞いたことのない単語にジョーが聞き返す。しかしどうやらジュラシックジーザスは何かスイッチが入ってしまったようで熱心に語り始めていた。


「徴税人は確かに悪である。しかし悪であるから救われないという事はありません。彼らのような罪人にこそ、神の愛が必要なのです」


 ジョーはちらりとメガデス本社の方を見る。金色のヒーローと、ニンジャダイナソー達が激しく戦っている。


「メガデスに敵対しているから……あの金色のヒーローが罪人だと……」


「違います。徴税人だからです」


 若干被せ気味に答えが返ってくる。迷いは、ない。


「徴税人とは、罪人です。聖書にもそう書いてあります」


 ちょっと待て、と言いたいところであるが、ジョーは聖書を読んだことがないので言葉が出てこない。


「人々から金をむしり取り、私腹を肥やす彼らが天国の門を通ることは針の穴をラクダが通る事よりも難しいでしょう。彼ら徴税人は地獄に送られるべき極悪人です」


「ちょっ、ちょっと待て。ちょっと待て!」


 さすがに今度は言葉に出すことができた。いくら何でも思想が偏りすぎている。


「さすがにそれはおかしいだろう! 税務署の職員だって普通の公務員だ! あの金色に光ってる奴がそうなのかは分からんが……それを議論の余地もなしに悪どころか罪人扱いはおかしくないか⁉」


 しかしジュラシックジーザスは退く気はないようである。真っ直ぐにジョーの瞳を見つめて問いかける。


「彼らは他人の金をとりますね?」


 言い方は悪いがそうだ。


「その仕事で私腹を肥やしていますね?」


 給料、という形で。言い方が悪いが、給料をもらうと言う事は私腹を肥やす、という事である。


「そしてその金の大部分は支配層へと回っているでしょう?」


 支配層というのがまずピンとこない。おそらくは政治家や公務員のことを言っているのであろうが、現代ではそのどちらにでも努力すればだれでもなれるのだ。そして集めた税金は基本的に社会に分配される。もちろん政治家への給料にもなっているのでジーザスの言うことは決して間違ってはいないのだが。


「ゆえに彼ら徴税人は罪人です。魂が汚れているのです」


 なぜそうなる。


「ちょっと待て。それは、なんというか、違うんじゃないのか」


「あなたの言いたいことは分かります」


 さすがについて行けないと感じたジョーであるが、意外にもジュラシックジーザスはこれに理解を示した。


「しかし私は彼ら罪人こそ救われるべきだと思います。徴税人という悪の道に進んでしまった彼だからこそ、救いが必要なのです」


「いや……そうじゃなくて」


 言葉を失うジョー。


 決定的に何かが噛み合っていない。


 そうではないのだ。


 救われる、救われないではなく、そもそも徴税人を勝手に悪人にすることが間違っているのではないかと。ファリサイ派は置いておいて。


「そうじゃない……? あなたは彼を許すことができないのかもしれませんが、悔い改めれば神はきっとお許しになられるでしょう」


 まるでこちらに寛容性がないかのような言い方をしてくるが、違うのだ。ジーザスは「徴税人(イコール)悪」を前提にして話をしているが、そもそもジョーはその前提を受け入れられないのである。


 このまま議論を進めようとすれば徴税人が罪人であることを認めてからの話し合いとなる。


「武石君、逃げた方がいいと思うッス」


 小声でリンが囁く。


 もはや何の目的でパンティーラインの内側に侵入したのかも段々と朧気になってきたが、彼女の言葉にはジョーは同意を示した。


「いいですか。はっきり言っておきます。天国への門は、少ししか開かなければ通りにくいが、痩せている者にはそれで充分である」


 はっきり言え。


「ど……」


 すぐに逃げようと思ったものの、彼の話が気になったジョーは脂汗を額に浮かべながらも立ち止まった。気になる。奴の話には惹き込まれる何かがあるのだ。


「どういう意味、ですか」


「天国への門は大きく開け放たれてはいない。だが大きく開ける必要はないのだ。それはただ自分自身が通るためだけにあるのだから」


 たとえ話の内容を聞かれてその説明にさらにたとえ話で解説をする。無法である。


「な、なるほどぉ……」


 そしてジョーも何となくわかった風のリアクションを返す。


 本当は全然分かっていないのだが、さすがに二度聞き返すほどの胆力はまだ高校生の彼にはない。こういうのを「煙に巻く」というのだ。


「……税金、というのは」


「ジョー」


「んぐッ⁉」


 さらに続けて何か話そうとしたジョーの体の中心に衝撃が奔る。ミカが急に抱き着いてきたのだ。いや、抱き着いたというよりは、彼の体を抱えてその場から飛び立ったのである。よくよく見ればスラスターに当たらない角度でリンもミカの体に抱き着いており、三人はそのままジュラシックジーザスの前から離脱した。


「ミカ、まだ話の途中……」


「武石君! 取り込まれてるッスよ!!」


 必死でミカの体にしがみつきながらリンが叫んだ。やがて、ほんの数秒のフライトを経てミカは着地した。まだパンティーラインの内側、先ほどの場所からそれほど離れたわけではないが緊急回避としては十分だ。


「取り込まれてる?」


 小走りで安全圏、パンティーラインの外側へと移動しながらジョーがリンに先ほどの言葉の真意を聞く。


「あいつの戯言に付き合う必要なんてないッス」


 体力的に二人よりも劣るリンは息を乱れさせながらも答える。ジョーとミカは少し速度を抑えながら彼女の話を聞く。


「まずジュラシックジーザスなんてありえないッス」


 一番大きなところはそれである。あまりにも荒唐無稽すぎる。


 しかし宇宙人の船が埼玉県に不時着して侵攻を受けている今でもそれを笑い飛ばせるだろうか。何か大きな上位存在がいて、この世界を作ったと言われても鼻で笑えるだろうか。


 実際大いなる意思のインテリジェントデザインによってこの世界は作られているのではないか。何らかの意図や知性によって宇宙が設計されているのではないかという考えを持つ人も多いのだ。


 そしてジョーに至っては「ここは今まで生きてきた現実世界とは違う平行世界なのではないか」とすら思っている。


 ならば、「この世界にはそういうものがあるかもしれない」と思う事への障壁も少ない。


 しかしリンが続けて言葉を繋げる。


「百歩譲って神だとか、ジーザスが各時代にいたとしても、ジュラ紀にファリサイ派と徴税人は絶対いないッス」


 それはそう。

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