株式会社
「なんだ? 何が起きている……?」
闇夜の中、突然の爆発音。
「パンティーの中が、爆発した」
ミカのくだらない話は置いておいて、見たままを話すとそうなる。いくらここがメガデスの支配領域であり、日本の方が及ばない土地であるとしても、突然の爆発などさすがに非日常であろう。そこまで治安が悪いなどと言う話を聞いたこともない。
「工場地域の……あれは、確か」
「武石君、知ってるんスか?」
リンに問いかけられて、しばし考え込む。もともとこの辺りは彼が十七年間暮らしてきた地元だ。たいていの場所は頭に入っている。
「メガデス醸造という醤油会社があった場所だ」
「メガデス?」
二人がジョーの顔を凝視する。
「メガデス醸造? 本気で言ってるんスか? そんな名前の会社があるんスか?」
もちろん、何を言わんとするかは分かる。今キャプテンケイオスが激しく対立しており、埼玉県に対して侵攻をかけた組織が「秘密結社メガデス」なのだ。
もしこれが大っぴらに会社を構えて「メガデス」の名前を掲げているのだとしたら「秘密結社」でも何でもない。「株式会社メガデス」だ。
「ちょっとジョー、そんな会社の存在を知ってたなら、なんで今まで黙っていたの」
「なんでと言われても……」
困る。というのが本音である。
「今まで黙っていた」と言われても、彼自身はほんの一週間ほど前までそこにクローン人間として在籍していたのだ。黙るもへったくれもない。
「俺は元々地元の企業として知ってたから……まさか醤油会社が悪の組織だなんて、ふつう思わないだろう。デスソースみたいな激辛の醤油売り出してて、好きだったんだけど、いつの間にかスーパーから消えてたなあ」
黒煙の上がるメガデスの社屋を遠目に見ながら遠い目をするジョー。
しかし実際彼からすれば「なんか同じ名前の会社がある」程度の認識であったのは間違いない。実際彼がヒーロー活動をしていたころ(交通事故にあう前)は、メガデスはそれほど注目される組織でもなかったのだ。
「と、とにかく、行ってみるッス」
「いや、待て」
状況を確認すべきだと主張するリンをジョーが止める。確かに今回の目的は彼の記憶の中にある以前の生活の痕跡を探すためであり、メガデスとは関係のない話ではあるが、目の前で悪の秘密結社の本拠地かもしれない場所が襲撃されているというのに、それを無視するという道理があろうか。
「今日、朝納豆食べたから、蔵元に行くのは良くない」
「どうでもいいッスよそんな話!!」
「とにかく二人とも、様子を見に行く」
ミカに促されてジョーも渋々ついて行くことになった。
謎は多い。
本当に名前が同じだけの醤油会社が悪の秘密結社なのか。仮にそうだとしたら、なぜ今、パンティーラインの内側で彼らが支配したはずの場所で、本社が襲撃を受けるなどと言う事になっているのか。
「俺達がここに来る途中、検問などもなかったな」
歩きながらジョーが呟く。
つまりは、誰か他のヒーローが、先んじてメガデスに攻撃を仕掛けたのではないかと、つまりそういうことを言っているのである。
「いつでも戦える準備だけはしておいて」
ミカは手元のスマホで何かを操作しながら答える。上空を気にしているようなので、どうやら自分の兵装と撮影用ドローンの動作を確認しているようである。
「リン、何かあっても傍を離れないように。逆にいざというときはすぐに離れて逃げられるように」
相反する矛盾するような心構えをジョーは説く。だが実際その通りなのだ。また以前のようにニンジャダイナソーがスタンピードを起こすような状態になれば、すべての人を守ることは難しい。
やがて歩いているとメガデスの正門が見えてくる。やはり、思った通り爆発の震源地はこの会社であった。近づいてみてみれば、全身を黄金の装備に包んだ巨躯の男が、メガデスに対して攻撃を仕掛けている。
「なんだ……? あんなヒーロー、初めて見たぞ」
「ちょ、ちょっとジョー、あの金色のヒーローと戦ってるのって……!!」
当然、ミカが気づいたものをジョーもその視界にとらえていた。
いや、それほど意外なものではない。ここがメガデスの本拠地であるならば当然それもいるはずであろう。
「クローンジョー……」
違和感をかみしめながら言う。
クローンジョー。その名前は以前は自分が名乗っていたものなのではないのか。自分がその「クローン」だったのではないのか。
そしてまたあの考えが首をもたげてくる。あの時、やはり自分は入れ替わっていたのではないか。自分の方が偽物で、クローン人間なのではないか。そうでないと信じたい自分がいるからこそ、周りに流されて無理のある平行世界説などを持ち出したのではないか……
「いや待てよ」
だったらなんであいつの方はおとなしくクローンのロールプレイをしてメガデスのために戦っているのか。ジョーは戦っている金色の男とキャプテンケイオスを見ながら考える。
しかし考えても答えは出ない。
向こうの方も周りに流されて、ここが平行世界だと信じてでもいない限りそんなことはしないはずだ。
「愚かな……人は愛によってのみ生きる意味を与えられるというのになぜ相争うのか」
心臓が口から飛び出るかと思った。
低く、そして落ち着いた声が背後からかけられ、ジョー達は思わず飛びのいた。
しかしその退いた先でジョーとミカは即座に兵装を着用した。戦いの傍観者であったはずの自分達に、それほどの異常事態が迫っていたのだ。
「矛を収めてください……私はあなた達と戦うつもりはありません」
そう言われてもジョーは構えをとり、緊張の弦を緩めることはない。そうせざるを得ない相手であった。
「何者だ……お前は……ッ!!」
異様な男であった。
いや、声から「男」と想像はしたものの、それが男かどうか、性別があるのか。何者なのか。何一つわからない。
端的に表せば、ティラノサウルスが古代ローマ風の衣装を纏っており、頭には輪っか状にした茨を載せている。まるで何かを激しく冒涜したような格好だ。
「……私は、ジュラシックジーザス」




