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FAKE HERO  作者: 月江堂
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確かみてみろ

「記憶を確かめに行く?」


 ミカがジョーに聞き返す。


 どうにも拭えない違和感。その正体を確かめないわけにはいかない。ジョーはそう判断した。


 あのメガデス侵攻の日。(当時のジョーの感覚からすると彼は侵攻する側であったが)あの日以来全てが変わってしまった。他人に別の記憶を植え付けられたと言っても、そんな似通っているが、少し違う記憶などだれが何のために植え付けたというのか。


 これを確認しなければ何も始まらない。ジョーはそう考えた。


「リンの言う通り、幼馴染のこともクラスメイトのことも、全く覚えていないというのはやはりおかしい」


「でしょ?」


 鈴木リンは鼻の穴を膨らませてドヤ顔をする。


「確かめて、どうするつもりなの。もしそこにあなたの記憶通りの生活があったとして、そこに戻るつもり?」


 そしてミカの指摘も尤もだ。確認して、自分の記憶通りのものがそこにあったとしても、無かったとしても、いずれにしてもすぐに解決というわけにはいかない。


「とりあえずは、確認する。『知る』ことは『知らない』ことよりも一歩前進しているのは間違いないはずだ」


 それよりも何よりも、彼の心自身がすでに限界だった。交通事故での入院以来家族にも会っていない。こうしてミカやアキラには再会できたものの、まだ少年と言える年頃の人間が、家族に会えないというのは精神衛生上よくない。本来なら退院した時点で確認しておくべきだった。


「これは……俺自身の問題だ。たとえ反対されても、俺は一人でも確認しに行く」


「何言ってるんスか、武石君」


 ポン、とリンがジョーの肩を叩く。


「私も偽物の武石君を排除するために協力するッスよ」


 にこやかに語りかけてくるリン。もはや彼女は武石ジョーが偽物であるということに疑いようのない確信を抱いているようである。


 仮にそれが正しかったとして、本物のジョーがどこにいるかまで考えているのだろうか。


「私が思うに、多分武石君は全然別人の赤の他人と入れ替わっちゃって、今は代わりにその人として日常を送ってるッス。そこを辿っていけば本人に会えるはずッス」


「バカなこと言わないで。人一人そう簡単に入れ替わるはずがない。仮に入れ替わったとして、周りの人間がすぐに気づく」


「私が気づいてるじゃないッスか」


 記憶を頼りにあらぬ方向へと下校の道からそれて歩き出すジョーの後を追い、ミカとリンの二人が言い争いながらついて行く。


「ていうか、こないだいたじゃないッスか。クローンとかいうのが。あんだけ似てたら周りの人も気づかないッスよ」


 そのクローンがここにいるジョー本人なのであるが。


「私は賛成できない。今現状でこれでうまく回っているんだからごちゃごちゃと動き回る必要はない」


 ミカの言葉を聞いてジョーはギョッとした。


「だいたい一週間も問題なく過ごせているんだから、仮に誰かと入れ替わっていたとしても大きな問題じゃない。大して違いなんてないと言う事。違う?」


 何を言い出すのだこの女は。


 この生活になってからすぐにジョーはミカ本人から「自分とジョーは付き合っていた」という事実(?)を聞かされた。


 彼にはクローンジョーとしての記憶の他に、交通事故にあう前にヒーローとして活動していた武石ジョーの記憶もあるが、もちろんミカと付き合っていた記憶などない。この彼女の発言が彼の記憶の混乱にさらに拍車をかけた原因の一つであるが。


 それはそれとして、付き合っている相手が仮に偽物だとして「一週間も誰もそれに気づかないんならどっちでも同じだろ」は酷い暴論である。ここまでディスられては黙っていられない。


「ミカ、俺にとっては大きな問題なんだ。島根と鳥取のように入れ替わっても誰も気づかない互換パーツなんかじゃないんだ」


 出雲大社がある方が島根、水木しげるロードがある方が鳥取である。


「だから、私が気づいてるって言ってるじゃないッスか」


「リン……」


 リンが、ジョーの肩を叩いてウィンクをした。たとえ周りの誰が気づかなくとも、子の幼馴染だけは自分のことを分かっていると、そう言っているのだ。


「私が絶対、今の武石君がなりすましのニセモノ野郎だって暴いてやるッスよ」


 そうだった。この女は彼のことを排除しようとしているのであった。


 がくりと項垂れ、再び歩き始めるジョー。詳しくない人間が外から見てみると、まるでハーレムのような状況、二人の美少女に言い寄られる高校生という構図に見えるのだが、実際には「こいつらには人の心はあるのか」と言いたくなるような言葉を投げかけられている。


「ジョー、このニセ幼馴染の言うことを気にしても仕方ない。あなたと別人が入れ替わっているなんて妄想もいいとこ」


「そういうこと言うんスか。女の勘は当たるんスよ」


「バカバカしい。別人と入れ替わっているなんてことはあり得ない。こっちはちゃんとマイナンバーで本人の照合をとっている」


「じゃあきっと二回入れ替わったんスよ。照合したときは元のニセモノに戻ってたんス。確か武石君二回記憶喪失になってるッスよね?」


 もはやジョーは二人の雑談は完全にシャットアウトして歩き続けている。実際あてずっぽうで喋っているこの時のリンの言葉がかなり芯を食っているのだが、それに気づくのはもっと後のことである。


「待ってジョー。どこへ向かっているの」


 行先の具体的な場所を告げずに進むジョーにミカが問いかける。「記憶にある場所に確認しに行く」とは言っていたが、実際にどこへ行くとは一言も言っていない。実際、転校してくるよりも前、キャプテンケイオスのメンバーは互いにどこに住んでいるのかもよく知らなかったのだ。


「この先にまっすぐ進むと……」


 ミカはジョーが進もうとしている方向を見やる。


「ああ。パンティーラインの内側だ」

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