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FAKE HERO  作者: 月江堂
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家族

「ええかみんな、この会社に所属してる社員は、みんなワシの家族じゃ!」


 秘密結社メガデス、第Ⅱ研究室の中で社長の金田徳雄は多少大げさにも見えるアクションをとりながら大声で宣言した。


 第Ⅱ研究室、というとイメージと少し重ならないかもしれないが、体育館ほどのスペースがこまごまとパーティションで区切られた広い場所である。しかも一番外の壁はむき出しの岩壁。そう。このメガデス第Ⅱ研究室は宇宙船「ばかうけ」の内部に存在するのだ。


「えらいことになってしまった……」


 国税局による株式会社メガデス醸造への監査から三時間後。早くも武石ジョーの表情には後悔の色が乗っていた。


「完全にハマッちゃったね……」


 ジョーの隣で相藤ナツキが苦笑いをする。


状況としてはこうだ。国税局のエージェント、マルサーPPの襲撃を受けたメガデスはジョーとナツキの活躍により重要な設備と人員の避難を何とか成し遂げることができ、こうしてばかうけの中にある秘密施設に避難してきたのである。


 この流れなら、当然ながら本来は組織と無関係であるはず(無関係になったはず)のジョーとナツキも同行せざるを得なかった。時はすでに九時過ぎ。本来なら家に帰って、食事と風呂を終え、寝る前に勉強なりなんなりをしている時間。


「俺は所詮クローン人間だから別にいいが、先輩はよかったのか?」


「ん……」


 小さくナツキが唸る。いろいろとアイデンティティクライシスを迎えているジョーに対してどう声を掛けたらいいかという悩みからの唸り声だ。破天荒な彼女自身は今の自分の境遇に特に不満はない。


「たとえクローンでも、ボクにとって君は家族、大切な人だ」


 我ながら百点満点の回答。ナツキは心の中でほくそ笑む。自分の過去があやふやになり、自己同一性を失いかけているジョーにとってこれほど刺さる言葉はないだろうとふんだのだ。


「木村さん大丈夫か? 堀田さん、怪我ないか? たとえ赤の他人でも、ワシにとっては社員は家族、大切な人なんや」


 しかし直後に社長が全く同じセリフを社員に対して吐いたためになんとも微妙な雰囲気となった。


 さて、改めてジョーは周囲を見回してみる。


 白衣の者はおそらく最初にジョー達が居た研究室の人達だろう。それ以外の人達は少しデザインの違う作業着を着ている。おそらくはどちらかが秘密結社メガデスの人間で、もう一方が醸造会社メガデスの人間。


 もしかすると両者が同一であると知らずに醸造会社に勤めていた完全な一般人もいるかもしれない。そうすると彼らは完全に「巻き込まれただけの不幸な一般人」と言う事になる。


「ジョー君、気づいた……? さっきから社長が声をかけてる人達……」


 どうやら同じことを相藤ナツキも考えていたようだ。


 社長が先ほどから声をかけ、励まし続けている人達は作業着のデザインが一方の方に偏っている。もしくは一般的なスーツ、OLの服といった様相。これはおそらく醸造会社側の人間だ。


「ええかみんな。あんな横暴な真似をする国家権力に屈することはないんや。メガデスがきっちりみんなのことを考えた社会を作るからな!」


 やはり、この一連の動きは悪の秘密結社側の「取り込み作戦」なのだろう。一般の社員はそもそも国税の強襲など無視して帰宅すればよかったのだ。それを上手く避難誘導して取り込んだのだ。こういう時のために会社の避難訓練は存在するのである。


「俺達は! 負けへんどー!!」


「おおーッ!!」


 社長の号令に社員たちがワッと沸き上がる。何という人心掌握術か。ヤクザのような風体であるが、あの社長、相当のやり手である。


「ジョー君、ボク達はこれでおさらばしよう。大丈夫、自爆装置のことは何とかなる。ボクも取り外してもらったんだから」


 ナツキの自爆装置は実は内田レンに解除してもらっている。彼にコンタクトをとると言う事は本物のキャプテンケイオス達と接触すると言う事でもあり、そうするとナツキの方の「ジョー取り込み作戦」が瓦解する恐れがあったが、背に腹は代えられない。悪の手先になるよりはマシである。


「そうだな……」


 不穏な空気を感じ取っていたジョーもこれには賛成のようであった。少なくとも次の瞬間までは、だが。


『大丈夫だよ、アイラ。もう泣かないで』


「ううっ、お兄ちゃぁん、無事でよかったぁ……」


 飯垣博士とその兄(AI)である。業務用の台車の上にバッテリーとともに乗せられた胸像のような少年。それに縋りつく少女という異様な光景にジョーは足を止められた。


「ジョー君?」


 ナツキが心配して声をかける。たとえ誰であろうが、他人の不幸を見捨てておけない。それが彼の良きところでもあり、悪しきところでもあり、彼女が惚れた原因でもあるのだ。


 だが今はそれが良くない方向に作用している。そう感じてナツキはジョーに語り掛ける。


「ジョー君、何を考えているかは分かる。だけど、君が寄り添ってあげたところで彼女は救われない」


 何より、彼女自身あのAIを破棄しようとしていたはずだ。今更それに縋りついて精神の安定を図るような都合のいい女に、寄り添う必要などあるのか。


「そもそも、彼女は『救うべき人間』か?」


 これが相藤ナツキの頭の中にある一番強い思いだ。


 いかにAIとはいえ人に近い自律思考を持つ「生き物」を弄ぶ先ほどの様はまさに「マッドサイエンティスト」と言えるものであったし、実際彼女自身命の危機を助けてもらったとはいえ、まさに命を弄ぶように怪人に改造され、大きく人生が狂ってしまったのだ。


 そのことで結果的にジョーと知り合い、今こうして一緒にいるのだから、そこをいつまでも掘り返すつもりはない。しかし感情的には「この女に助ける価値などない」という気持ちがある。


 さらに言うなら小学生くらいに見える彼女の外見は大いに同情を誘うが、十年前に兄をなくしたと言っていた。ならば実年齢はおそらくジョー達と同じか、ヘタすればそれよりも上。自分の足で立って歩く年齢なのだ。


「だからこそだ」


 しかしジョーの考えは違った。


「だからこそ。今の環境のままでは彼女はいつまでたっても救われない。誰かが、支えてやらなければだめなんだ」


 この分からず屋め、そう思う一方で、これこそがジョーの魅力なのだと、一方では諦めにも近い納得を得た自分がいることをナツキは感じていた。


「それにな、ワシらには救世主様がついとるんや。だから絶ッ対に、負けへんのや」


 社長の演説は未だ続いている。異様な空気を孕みながら。

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