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FAKE HERO  作者: 月江堂
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確定申告

「確定申告は……たしか一か月くらい期間があるんじゃなかったか」


 恐る恐るジョーが口に出す。学生のジョーはもちろん確定申告などしたことはないが、SNSなどで年が明けるころから三月頃まで社会人が右往左往していることは知っている。


 もう一月も半ば。確定申告が始まるまでにそう間もない時期である。


「あんたざこのくせに詳しいじゃん♡ だからASAPでメガデスの支配領域を強化したいのよね♡」


 何という恐ろしい計画!


 世界征服を目論むと大言壮語する悪の秘密結社メガデス。意外と現実的に事を進めようと企んでいたのである。


「私達は税金を取られる側からとる側になるのよぉ♡ あなた達も税金を納めてね♡」


 それはまさに国家への反逆行為。何という大それたことを考えているのか。


「ま、まさか……」


 ジョーの脳裏に恐ろしい考えが浮かんだ。


「俺はもしかして今年、自分で確定申告をしなきゃならないのか?」


 たとえ未成年であろうとも年間の収入が四十八万円を越えれば当然そうである。それどころかジョーの場合現在はまがりなりにもトップ配信者である。年収の関係から親の扶養控除を外れる可能性が高い。


 それ自体は別に問題ない。問題ないのであるが。


「めんどくせぇぇ~……」


 地面に跪いて本音をこぼす。


 何の準備もしてこなかった。当然である。両親に対してもヒーローのことは公然ではあるものの、秘密であったし、それに伴う収入のことも相談していなかった。確定申告をするとなれば医療費や必要経費の控除に伴う書類もとっておかなければならない。そういった準備が何一つできていないのだ。


「おのれメガデスめ」


「確定申告は別にウチのせいじゃないわよ♡ それに、メガデスの支配下に入れば社会福祉もベーシックインカムに一本化、税制も今よりもはるかにシンプルに洗練された社会を約束するわ♡」


「急に政治家みたいなこと言いだしたな」


「それはともかくとして♡」


 飯垣博士は再びスマホを取り出して、まるで催眠アプリのように画面をこちらに見せる。


「あんたたちがウチに逆らえないのは理解したぁ?」


 抵抗が無駄であることは火を見るよりも明らかである。例えば一瞬のスキをついてスマホを取り上げたところで、重要な機能はバックアップがあるか、クラウド上にあるだろう。ジョーはちらりとナツキの方を見た。


「先輩……あんたは逃げるんだ」


 飯垣博士とナツキの間に遮るようにジョーが立ちはだかる。先ほどの話通りならば、自爆装置が現在取り付けられているのは自分だけ。ナツキは逃げても問題ないはずである。


「ジョー君、ボクも一緒に行くよ」


 しかしナツキはそれを良しとしなかった。


「家族を見捨てて日常の生活に戻るなんて、出来ない」


 表面上はそう言うが、それが全てではない。


「バカ言うな。俺はクローン人間なんだ。本物の武石ジョーじゃないんだぞ。俺なんかに義理立てしたって何も得るものなんかない」


「荒唐無稽な話だ。ジョー君、君は本気で自分がクローン人間だなんて思っているのか」


 相藤ナツキはほぼ確信に近い思いを持って言っている。今目の前にいる武石ジョーはクローン人間などではない。間違いなく正真正銘の武石ジョーなのだと。


 その強い言葉を受けて、ジョーは飯垣博士の方に視線をやった。


「あなたはあたしが作ったクローン人間よ♡」


「ほら! 作った本人がああ言ってる!」


 言ってるからなんだ。


 お前にはお前の考えがないのか。どれほど自分の脳に自信がないのか。正義のヒーローとして戦っているときはあれほど信念と決意にあふれた目をしているというのに、記憶力の話になるとこれほどまでに弱気になってしまうものなのか。


 だがナツキは知っている。先ほど自分をかばって逃がそうとした時だってそうだ。やはり彼の心の中心には正義が大きな位置を占めている。決して悪の組織が作り出した生体兵器などではないのだ。


 それよりも何よりも彼が本当にクローン人間だとするとあまりにも矛盾点が多すぎる。少なくとも相藤ナツキは両方の母親に直接会っているのだ。二人は似ても似つかない全くの別人であった。


 もしこれがクローンとして作った人間を赤の他人に自分の子供として育てさせたというのならまた話は別であるが、少なくともそんなことをにおわせるようなことは飯垣博士は一切言っていない。


 それにナツキも以前は下っ端とはいえメガデスの一員であったが、クローン人間を開発しているなどと言う話は一切聞いたことが無かった。


「とにかく、あんたが帰る場所は家なんかじゃないわ♡ このままメガデス本社まで来てもらうんだから♡ 言い訳は許さない♡ ざぁこ♡」


「くっ……」


 思った以上に猶予がない。


 今日一日でいろいろと事態が動きすぎる。ナツキはもう少し余裕を持って色々と頭を整理してから動きたかったのであるが、事態がそれを許しそうにもない。


 こんな事ならば一週間もの間モラトリアムを楽しむことなどせず、すぐに事実関係の把握に努めるべきであったが後の祭りというものだろう。


「ボクも行く」


 もはやジョーが反対しようとも関係ない。既に彼はナツキにとっては家族の一員なのだ。そして想い人でもある。


 何よりこんな面白そうなこと見逃すことはできない。


 明らかにジョーはクローン人間などではない。それを「自分が作った」とまで言い切るこのメスガキはいったい何を考えているのか。どういう経緯でこんなことになったのか。


 偶然武石ジョーにそっくりな武石ジョーを発見してそれをクローンと思い込ませるような催眠術でもかけていいように操っているという事なのか。(それをあっさり信じてしまうジョーのことは一旦置いておいて)


 興味は尽きない。


「ジョー君、君はいったいどこまでおもしれー男なんだ」


 熱い視線を送る。


 相藤ナツキが把握している武石ジョーの事。


 自分をクローン人間だと思い込み、メガデスの手先となる。しかし彼は本来、何かのはずみで入れ替わってはいるが、聖一色(ひじりいっしき)高校に通う武石ジョーであり、ヒーローなのだ。


 相藤ナツキから手編みの教科書や野草弁当を送られたのもこのジョーである。そしてビーバークサリガマと戦ったのも。


 それより前の事は彼女には分からない。


 だが一つ、確実に言える事。


 武石ジョーはヒーローである。

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