表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAKE HERO  作者: 月江堂
PR
63/79

自爆装置

「このメスガキは……」


 ジョーが身構える。グルナヴェを携える右手に力がこもった。今までディスプレイ越しにしか見ていなかった人物が、突如として目の前に現れたのだ。


「やっぱり私ってついてる♡ 勝手に警察に投降した怪人と、逃げ出したクローンに偶然出会えるなんてね♡」


「クローンだと!?」


 自分は怪人ではない。それ故飯垣(メシガキ)博士の言った「クローン」とは自分の事を指しているのだろうとジョーは判断した。


「そうよ♡ あんたわぁ♡ 私が作り出したクローンよ♡ まさかまた忘れちゃったのぉ?」


 だがこの一週間色々可能性を考えてみてはきたが、自分がクローンであるなどというのは全くの埒外の考えであった。


「????」


 これにジョー以上に首をひねったのは相藤ナツキの方であった。


 確かに「クローンジョー」と名乗る人物は存在しているものの、そもそもあれはいったい何なのか。あの人物の元の家庭こそが、彼女の父の再婚相手のシングルマザーなのだろうと彼女は考えている。


 クローンジョーが、ジョー1と同じく思い込みの激しい人物で自分の事をクローンだと誤認しているとして、何故メガデスの人間はそれを当然のように受け入れているのか。これが分からない。


「ジョー君は、クローン人間なんかじゃない。ちゃんと今まで生きてきた人生の記憶があるんだ」


 軽く牽制してみる。


「その記憶を信じちゃってるわけぇ? それはあたしがあんたのざこ脳みそに植え付けた偽の記憶なんですけどぉ♡」


「ちょっ、ちょっと待ってちょっと待って」


 ナツキは一旦頭の中で情報を整理する。


 何かおかしい。


 武石ジョーが一人しかおらず、飯垣博士の言う通り「もう一人のジョー」がクローンならば、「武石ジョーの家庭」は一つしか存在せず、どちらかが「偽の記憶」であり、実在しない筈なのだ。


 しかし彼女は知っている。


 武石ジョーの両方の母親と会っているのだ。一人とは一緒に初詣に行き、もう一人とは義母と娘の関係。両方とも確かに存在する。


(このメスガキ……フカシこいてやがる)


「飯垣博士、本当に君がクローンジョーを作ったの……?」


「え? ……え~」


 妙な間が続く。


「……当り前じゃない」


 死ぬほど怪しい。


 ナツキは確信した。やはりこの埼玉県には「武石ジョー」は二人おり、そのうちの一人をメガデスが「うちが作ったクローンです」と言い張って利用しているに過ぎない、と。


 そしてジョーの方にちらりを視線を送る。彼は額に汗して激しく狼狽していた。当然だ。自分がクローンだと分かり(嘘だが)、今まで信じていた記憶を「事実ではない、偽の記憶だ」と宣言されたのだから。アイデンティティがぐらぐらと崩れていっているのだ。


(なんで、ボクが気づけることに、本人である君が気づけないんだ……)


 とは思うものの、気づけないのだから仕方ない。自分の中にある確かな記憶が「偽物です」と言われたらそれを証明する手段などないのだ。世界五分前仮説というものである。


「たとえクローンであろうと、俺は俺だ。悪の手先になどなるつもりはない」


 しかし、アイデンティティの危機にありながらもジョーは絞り出すように声を出した。ヒーローとしての矜持だ。たとえ自分の生み出された事に明確な目的があったとしても、目の前にいるのが生みの親であったとしても(実際にはどちらも違うのだが)、自分の心を裏切ることはできない、と。


「ところがそうはいかないのよねぇ♡」


 飯垣博士はスマホを取り出して何か、アプリのような画面を見せた。


「これが何かわかるぅ? うちの手掛けた怪人には、全部自爆装置が取り付けられてんのよ♡ 知ってるでしょ♡」


 確かにジョーは知っている。今まで倒したメガデスの怪人は全て、倒した後、情報の隠蔽のために自爆して粉々になっていた。


「ぼ、ボクには効かないぞ。逮捕された時に警察病院で自爆装置を解除されている」


「知ってるわよ♡ でもクローンジョーは違うわ♡ 逆らったら木っ端みじんにしてやるんだから♡」


 自信満々に言うが、ナツキは少し悩む。


 仮にその自爆装置を起爆させたとして、爆発するのはもう一人の方のジョーなのではないか? と、そう思ったのだが、だがまあそれはそれで困るし、状況も分からずにいきなり自爆させられるもう一人の方のジョーも可哀想ではある。とりあえず黙っておくことにした。


「く……俺に、メガデスに協力しろというのか」


「協力しろっていうか、私が生み出したんだから私の言うこと聞くのは当たり前でしょ、ってことよ♡ あんたのざこ脳みそじゃそんなことも分かんないの?」


 飯垣博士はスマホをしまって、両手を大きく広げながらジョーに話しかける。


「今このばかうけ周辺はメガデスの支配下にある♡ 警察や自衛隊が立ち入れないだけでとりあえずは日常生活を送れるようになってるけど、いずれはこの支配領域を広げ、独立宣言をすることになるわ♡」


 今ジョー1が暮らしている相藤家は博士の言う通りメガデスの支配領域である。


 政府は市民に対してパンティーラインの内側から出るように(こう書くと変な意味に取られそうだが、要するに避難するように)指示しているのだが、緊急事態に於いての法整備ができていないため、強制力はない。それは憲法違反になってしまうのだ。


 生活基盤を手放すことのできない市民は今もパンティーラインの外にはみ出ることを嫌がっているのである。


 そしてそれは、行政を立ち入らせないものの、これまでと同様の生活を保障するようにメガデスが配慮しているせいでもある。


 要は、市民側からすると「メガデスの支配領域にいる」という事以外には今までと何も変わっていないのだ。だから普通に会社に通って、普通に学校に行って、生活を続けている。清浄かバイアスここに極まれり。


「近いうちに行動を起こす指示を出すわ♡」


 それに協力しろというのだ。飯垣博士はジョー達の方に指を三本立てて見せた。


「三月♡」


 それまでに支配力を強化するというのか。いったい何を企んでいるのか。


「今年の確定申告までに、支配力を強化して、日本政府じゃなくメガデスに納税してもらうわ♡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ