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FAKE HERO  作者: 月江堂
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ファムファタール

(おそらくジョー君は、別の家庭の、赤の他人と入れ替わっている)


 相藤ナツキはそのからくりに気付いた。


 しかしいくつも矛盾点が浮き上がってくる。


 矛盾点1、何故母親が気づかない?


 自分の子供が別人と入れ替わっていて、気づかないものか? 普通は先ず外見で分かるだろうし、仮に外見で見分けがつかなかったとしても言動……こちらは「記憶喪失」だと思っているようだが、それでも性格で分かるはず。


 矛盾点2、周りの人間は何故気づかない?


 母親よりはハードルが高いかもしれないが……それでも別人だぞ。そもそも名前はどうなっているんだ? 認識改変でも行われているのか?


 矛盾点3、()()()()はどうなっているのか?


 入れ替わったのなら、元々の武石ジョー君の方も別人と交代しているはずだ。そちらはどうなっているんだ? そちらの方も同じように気づかないのか? 周囲も、本人も。


 これらを不整合なく結びつけると、状況はいくつか絞られてくる。


 一番現実的な答えとしては、実はこの埼玉県には「武石ジョー」という名前の人物は二人おり、外見も性格も全く同じ。その人物が自分をクローン人間だと思い込んでおり、初詣の時に現れたのはその人物であった。


 そして、その人物と、武石ジョーが入れ替わった、というもの。


 武石ジョー本人はまさか自分にそっくりな赤の他人など存在するとは思わなかったから、「多世界宇宙論」などという無茶なものの存在を提唱して整合性をとろうとしている。


 さらに、もう一人の武石ジョーの方も全く同じ状況に陥っている。


(これが、一番現実的な答え……?)


 相藤ナツキは頭を抱える。


 百歩譲って、ジョーと全く同じ外見で同じ性格の人間が埼玉県に存在する、まではいい。そんなこともあるだろう。


 しかしそれが名前も武石ジョーで? 自分が他人と入れ替わっている事にも気づかないド級のアホ? そんな事があり得ようか。


「どうかしたのか? センパイ」


 ジョーが不安そうな表情でナツキの顔を覗き込む。


「あ、いや……」


 他に考えられる可能性としては、ジョーの言う通り多世界宇宙に迷い込んでしまったか(しかもジョーだけでなく自分も)、催眠術など、何らかの認識改変能力を持つ怪人の攻撃を受けているか。しかしそうだとして目的が分からない。


 ならば現実的には、おそらく彼女の母校、聖一色高校には偽物のジョーがリンやミカ達とスクールライフを送っているはず。


 ナツキは、とりあえずジョーのスマホから鈴木リンやキャプテンケイオスのメンバー達を片っ端からブロックした。


(いつまでもこんな状態が続くとは思えないが、とりあえずはこれで、事態の発覚は格段に遅くなる)


 さらにWowtubeアプリから、キャプテンケイオスの登録チャンネルも解除して、新作動画や配信の通知が来ないようにする。


「何か、分かったのか?」


「大丈夫」


 何の答えにもなっていないが、とりあえず精神力の弱まっているジョーを安心させることはできる。


「何があってもボクだけは君の味方だから。ボクを信じて」


 典型的な「何か言っているようで何も言っていない」発言である。


 それは人のロゴスから成り立つ言葉というよりは動物の鳴き声にも等しい。何の解決にも、質問の答えにもなっていない。しかしそんな()でも人を安心させることはできる。


 何一つ頼るもののない今のジョーにとって、ただ一人自分の事を知っている正体不明の美少女である自分はまさにファムファタールの如く映っているだろう。ならばそう振舞ってやろうというのだ。


「行こう、ジョー君」


 ジョーの手を握って立ち上がる。


 会計を終えて店の外に出て、力強く歩き出す。謎を解決する必要などないのだ。事実彼女も分かっていない部分も多い。ただ、不安を解消してやれば済むし、寧ろ解決すれば彼女にとっては邪魔者が増える可能性すらある。


 だったら自分は「ミステリアスお姉さん」として振舞って、思う存分ジョーを振り回し、キャプテンケイオスには接触させない。それが最善手であるとナツキは判断した。


 手を引いて先導するナツキが振り返り、微笑みを投げかける。


 ジョーはそれに縋るような目線を送る。


 何より相藤ナツキは、楽しくて仕方なかった。


 まず初めに、強敵として対峙した彼が、怪人とヒーローの区別なく自分という一人の人間を公平に扱ってくれた、彼女にとってはまさに「救い」の存在であった彼が、自分を頼るべき最後のよすがとして崇めている。


 それがうれしくてうれしくて仕方がなかった。快感であった。この時よ、永遠に続いてくれ、とさえ思った。


「ちょっと」


 しかしその時間はあまりにも短い期間で終わった。


「ちょっとあんた達ぃ♡ こんなとこでなに油売ってんのよぉ♡」


 鼻につくような甘ったるい子供の声がジョーとナツキを呼び止めた。


 軽やかに前を歩いていたナツキの脚が止まり、体が硬直する。


 ゆっくりと、ゆっくりと首をまわして後方を確認する。もう過去の事だと思っていた。まさかこのタイミングで遭遇することなど思っていなかった。この甘いひと時を邪魔する者が、よりにもよってこの声の主になるとは思ってもみなかった。


「め……飯垣(メシガキ)博士」


 振り向いたナツキの視線の先にいたのは、間違いなくメガデスの研究者、飯垣博士であった。いつもの白衣ではなく、ダウンジャケットにジーパンという服装ではあるものの、その挑発的な表情に間違いはない。


「あんたら、まさかメガデスから逃げられるとでも思ってたのぉ♡」

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