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FAKE HERO  作者: 月江堂
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入院患者

「実際君達の言う通り……」


 時間もすっかり遅くなり、外の景色は真っ暗である。キャプテンケイオスのアジトのある場所はばかうけからは離れており、メガデスの襲撃の影響を受けてはいないが、やはり普段よりは人の通りが少ないように感じられる。


「本物かどうか、なんかよりも、真に大事なのはその心根がどうあるか、なのかもしれないね」


「何か誤魔化そうとしてないか」


 頭脳派アキラの鋭い指摘が飛ぶ。


「いや誤魔化すとかそういうんじゃなくってね。君達がさっき言ってた事じゃないか。ジョーは身を挺して市民を守っていたって。元々キャプテンケイオスは過去の詮索などしない。そういう集まりだったじゃん?」


「明らかに誤魔化している。マイナンバーがどうとか言っていたはず」


 ミカも追撃に出る。


「ああ、マイナンバーね。マイナンバー。あ、カード返しておくね」


 いつもの雰囲気に戻って内田レンがマイナンバーカードをジョーに手渡して返した。ジョーは何が何だかわからずぼうっと突っ立ったままそれを受け取る。


「照合の結果どうなったの。ジョーは偽物だったの?」


「いや……前見たときは確かに違ってたような気がしたんだけどさあ」


 内田レンは申し訳なさそうに目をそらして言葉を濁す。要するに、本人だったと。ジョーのマイナンバーは間違いなく本人のそれであったというのだ。好機と見たのかミカの方はさらに追撃をする。


「そもそも、もしジョーが偽物と入れ替わっていたというなら、なぜそれを言い出してこないの。クローンジョーは自分のことをクローンだと言っていた。もしあれが本人だったというのなら、あれは嘘をついていたというの?」


 武石ジョー本人が「自分はクローンである」などと言って得することなど一つもないはずである。


「それじゃあジョーが『自分が二人いるからどちらかがクローンに違いない。向こうは本物と言っていたから、じゃあ俺の方がクローンなのか』と思ったとでも言うの? それじゃジョーがただのバカじゃない」


「ん、いやあ……ミカ、そろそろ、ね。内田博士の方もいろいろ考えてそういう結論に達したんだろうし、ね。あんまり言うのも、ギスギスするし、ね」


 なぜか疑いをかけられたジョーの方がこの件を丸く収めたいようである。


「それに病院の時に入れ替わったっていうなら『偽物のジョー』っていったいなんなの? 同姓同名で、外見もそっくりな人間がたまたま同じ病院に同じ日に入院したとでも言うの? そんな偶然なろう小説でもないわ」


「世の中には自分にそっくりな人間は三人はいるっていうし、ね。絶対ないとは言い切れないから、ね? もう疑いも晴れたんだし、ね。いいじゃん、もう」


 ミカの話す内容に死ぬほど思い当たるところのあるジョーは何とかしてこの空気を丸く収めようと奮闘する。


 三人がもめていると、少し離れたところから電話のコール音が聞こえてきた。


「もしもし、神戸(かんべ)アキラというものですが」


 電話をかけていたのはアキラである。この非常時にいったいどこにかけているのだろうか。


「ええ。去年の十一月八日のことです。そちらに、武石ジョーという少年が入院していましたね?」


 無為に言い争いをするよりは直接物証を確かめればよい、と、そう考えたのだろう。アキラは言い争う三人をしり目に、直接病院の方へと確認の電話をかけていたのだ。


「ど、どうだった、アキラ」


「ふふふ……」


 通話を切って、アキラが笑みを浮かべる。何かわかったのだろうか。


「今それどころじゃないからどうでもいい内容で電話をかけてくるな、と」


 当たり前である。


 ほんの少し前まで非常に混乱した状態が続いており、通話すらもろくに繋がらなかったのだ。


 市内がそんな状態であるというのならば、怪我人が運び込まれてくる病院に至っては推して知るべし。おそらくは未だに多くの怪我人が押し寄せており、また救急対応でてんやわんやの大騒動であろう。


 そんな時に二か月も前に誰かが入院してたかどうかだとか、くだらないことで電話してくる者がいたらキレられるのもむべなるかな。


「何がしたかったのあなたは」


 当然の疑問である。


「結構ぴりぴりしてる感じで、気圧(けお)されてしまったのだよ」


 たのだよ、ではない。この空気の中で中途半端なことをするくらいなら最初から耳目を集めるような思わせぶりな態度をとらなければいいのだ。


 しかし電話への期待感からか、すでにミカは刺すような視線をアキラに投げかけたまま、不動の構え。「それで引き下がるのか」というところである。もはやこの空気をどうにかせねば頑として動かぬ。


「もしもし」


 再びアキラはスマホを手に取る。ヒーローがこんなに意思が弱くて流されやすいようなことでいいのだろうかとは思うが、事実確認が優先されることも事実である。


「はい……あ、いえ、たびたびすいません。神戸アキラと言いますが」


 しきりに恐縮してペコペコと頭を下げながら電話をするアキラ。どうやら先ほどと同じ人物が電話ととったようである。


「すみません。その、とても重要なことなので。はい。申し訳ありません」


 枕詞が長い。


「ええとですねえ……」


 しかしようやく本題に入ろうというところでアキラは固まってしまった。


(待てよ……そもそも何を聞けばいいんだったのか。さっきの私の質問、『武石ジョーという人物が入院していたか』って質問はおかしいな。実際私とミカ君が面会に行っているんだから)


「あの……武石ジョーという人物が……ですね、いや、違うな」


 どう質問したら自分の望むような答えが得らえるのか。それが分からない。


「武石ジョーという人物が入院していましたが、それ以外にも武石ジョーは入院していましたか?」


 我ながら「何を言っているんだ」と思う。


「いや、そうじゃなくてですね。ええと……そうだ、武石ジョーは、二人入院していましたか?」


 これだ、と思ったのか、質問を言い切った瞬間ほんの少しの間だけアキラは光が差したかのようにさわやかな笑みを見せた。


 しかしすぐに眉がハの字型になって謝りだし、とうとうそのまま電話を切ってしまった。


「ちょっと、アキラ?」


「いや、その……患者のプライバシーに関することは答えられないそうで」


 何のために電話したのだ。

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