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「な……なんだって?」
煌々と照明の点けられたアジトの中に緊張した空気が流れる。
「君は、本物の武石ジョーじゃない。そろそろ正体を現してもらおうか」
「はあ……」
「ふう……」
アキラとミカが大きくため息をついて首を振り、肩をすくめる。
今更か。
今更そんな話か。
という心持ちである。
もうその話は終わったのだ。頼むから今更蒸し返してくれるな。同じ話を何度も刺せるな。という二人の気持ちが滲み出ている。しかしそれを知らない内田レンは二人のリアクションに戸惑うばかりである。
かなりの衝撃的発言だったのだから、全員が驚くと思っていたのだが、狼狽えているのはジョー本人のみ。
「あのですねえ、内田さん。その可能性にはすでに私達も気づいていて、結論が出ているのです。彼は間違いなく本物の武石ジョーだ。間違いない」
「ま、待ってくれないか。そうは言ってもこっちもちゃんと根拠のある話なんだ」
「こちらにだって根拠はある。ほんのついさっきだ。ジョーは身を挺して私や、市民の命を守るために行動を起こしたんだ」
ただでさえ今のジョーは記憶が混乱しているのだ。余計な茶々を入れないでくれ。アキラの考えとしてはそういうところであるし、ミカもそれは同じ気持ちである。
「ちょっと待って。一旦話を聞いて」
少し興奮気味になっているアキラを制するように内田レンが両手を前に出す。「頭脳派」を自認するアキラはムッとしながらも一旦口を噤んだ。
「君達の前にクローンジョーが何度か現れてるよね」
もちろんそれは理解している。今日も対峙したところであるし、初めてそれを見た時は内田レンも含めて大層狼狽えていた。
ジョーは内田レンの言葉を聞きながら少し身を震わせる。「自分は、まさにそのクローンジョーではないのか」という考えが頭をよぎったからだ。
「あれはクローンなんかじゃない。あのクローンと言われていた奴こそが本物の武石ジョーで、今僕達の目の前にいる方こそが、偽物なのさ」
ニヤリと笑いながら内田レンがジョーの方を見る。ジョーの方は思わず目をそらしてしまった。
「なに……?」
「そんな」
アキラとミカは内田レンの言葉に覆いに狼狽えている。二人のその態度を見て、内田レンの方は自分の言葉に確信を強く持った。
「入れ替わったのは、交通事故のあった日。あの日にジョーと、偽物が、入れ替わったんだよ」
「あの日に……? じゃああの時からずっと、私達がジョーだと思っていた方こそがクローンで、クローンだと思っていた方が本物の武石ジョーだったと、つまりそういう事か?」
「おかしくない?」
しかしミカが口を挟む。
「そもそもクローンジョーはメガデスが怪人『サトリ』を倒されたことでキャプテンケイオスを警戒して研究に着手した、という話だったはず。ジョーが『サトリ』を倒したのは退院した日。時系列が合わない」
言われてみればそうである。何故その時点でクローンが存在するのか。
「それは……ん、確かに。まあ、その辺のところははっきりとは分からないんだけど、もしかしたら『メガデスが作ったクローン』っていう情報自体に誤りがあるのかも……」
腕を組んで考え込む内田レン。彼もはっきりと事情を把握しているわけではないようである。
「バカバカしい。じゃあクローンでないならいったい何だというんだ」
アキラが肩をすくめて内田レンに尋ね、さらに言葉を続ける。
「たとえば、武石ジョーと外見と身体能力が全く同じで名前も同じ武石ジョー。そんな人間が偶然存在していて、ジョーと入れ替わったとでも? まさかそんな事を言うつもりなのか?」
「ま、まあ。そうなるね」
アキラはレンの言葉を聞くと大声で笑いだした。あまりにも荒唐無稽。一顧だにする価値のない仮定だと。つまりそう言いたいのだ。
「本人に聞いてみれば分る事。ジョー。今の内田博士の言葉、その通りなの?」
ミカが尋ねるが、正直言った本人もそこははっきりと言い切れないのだ。記憶が混乱していると、先ほども言っていたはずである。
確かに彼の言う通りあの入院の日を境に入れ替わってしまったような気もする。だが今となってはどこからが本当の記憶で、どこからが植え付けられた記憶なのか、それすらも分からない。
あるのはただ一つ。「自分は武石ジョーだ」という思いだけである。
何より、自分と全く同じ外見と身体的特徴を持っていて名前も同じ武石ジョーだという人間が同じ日にたまたま同じ病院に入院していたなどと、そんな小説のような話があるはずがない。いや、むしろ小説ならなおのことそんな話にはしないだろう。読者がついてこられないからだ。書いている作者も混乱する。絶対にそんな設定にしてはいけない。
「俺は……武石ジョーだ」
静かに、独り言のように、呟くようにジョーは言葉を発する。強く言い切ることが出来なかった。まだ自分で自分が信じられない状況なのだ。
「一つ、確実に真贋を判断できる方法があるんだよ」
しかしジョーの言葉を聞いて内田レンは笑みを浮かべながら言葉を発した。
「博士、これは私達全体のミスでもあるが、グルナヴェには生態認証が登録されていなかった。前科もないからジョーの指紋登録などから確認することもできない。『確実』な判別方法などないのだ」
それは内田レン自身も知っているはずである。初めてクローンジョーが現れた時に通信で内田レンも状況を把握していたのだから。
「あの時には失念していて確認できなかったけどね、一つだけ確実に判別する方法があったんだよ。ジョー君」
内田レンに呼ばれてジョーはびくりと身を震わせる。
「マイナンバーカード、見せてくれる?」
マイナンバーカード。国民総背番号制ともいえるIDナンバーである。たとえ全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児であろうとも、このナンバーが被るなどということはあり得ない。絶対にありえないのだ。
「ま……マイナンバー……」
「そ。見せて」
内田レンに促されて、ジョーは自分の財布から震える指でカードを取り出す。
「兵装には銀行口座とマイナンバーが紐付けされる。前に確認した時、以前に確認したマイナンバーと数字が変わっていたんだ。その時は登録に不備があったのかと思ったけど、よくよく考えてみればそんなことはあり得ないんだよ」
内田レンは手のひらを上向きに見せてヒラヒラとそれを振って見せる。ジョーは努めて震える指を制し、やっとの思いでマイナンバーカードを彼の手の上に置いた。
内田レンはそれを手にオフィスチェアの上に座り、パソコンの画面に向き合う。
「ここに初めてグルナヴェに登録した時のマイナンバーが記録してある。この数字と照合すれば、間違いなく……ん?」
パソコンをカチカチと操作し始める内田レンであるが、奇妙な声を上げた。
「あれ? っかしいなあ……」




