新しい家族
「はじめまして、ジョー君。今まで挨拶できなくてすまないね。相藤幸次郎です」
「あっ、はっ、はじめまして……」
青い顔で武石ジョーが挨拶する。
「フフ、こういった形でははじめまして。いや、そんな挨拶はおかしいか。ジョー君」
家に帰る途中、突如として新しい父親との初顔合わせをセッティングされた武石ジョー。青く、げっそりとやつれた顔をしているのは、そのあまりの展開の早さについていけてないからだけではない。
案内されたファミレスで武石親子を待っていた人物は二人。
一人は母親の再婚相手、相藤幸次郎。まあ、取り立てて説明が必要な特徴的な人物ではないが、普通の会社員といった風情の男である。
そしてもう一人。予想外の人物がそこにはいた。
「こんなところで会うことになるなんて。これはもう『運命』と言っても差し支えないと思うね」
ふわりと柔らかいショートカットの髪をかき上げる仕草はまさに王子様といった風情。
ほんの一か月ほど前まで自分の通う学校の先輩であった、現在は退学処分となり、すでに今年の浪人が決定した元女子高生、相藤ナツキであった。
「おや、ジョー君とナツキは知り合いなのかい?」
「いや、その、まあ……どうなんだろ? よくわからない。知っているような、知らないような……知って、る、のかな。俺は、何を知ってるんだ。俺は誰なんだ」
「ど、どうしたの、ジョー君!?」
当然、彼の身に何が起こっているのか全く理解していないナツキは狼狽する。(というか、この時点でジョーの身に何が起こっているのかは、本人含めここにいる誰一人として理解していないのではあるが)
「あ、あの、大丈夫なの。その、ジョーはちょっと記憶が混乱しているみたいで。少しそっとしておけば、じきに記憶も戻ると思うから」
かばうように母親がジョーを抱きしめながら擁護する。それが家族として息子を守ろうとしているのか、それとも今の相藤家も含めた関係性を守ろうとしているのかは分からない。
「とりあえず、座ってください。ほら、料理も来てますから。おなかを満たせば、少しは落ち着くでしょう」
うめき声をあげながらジョーは着席する。しかし情報過多で、今にも感情があふれ出しそうな危険な状態に見える。
「まだ籍は入れてないんだが。実は今、私の家で一緒に暮らしているんだ」
「は?」
「待って。聞いてくれ。君が行方不明になって、由紀子さんはすごく落ち込んでいて、私も何とか力になれないかと思っていてだね……」
別にそれを責めるつもりはないのだが。今はとりあえずこれ以上情報を増やすのをやめてほしい。ジョーが願うのはただただそれだけであった。
「そういうわけでジョー君。ボクのことは『お姉ちゃん』って呼んでくれていいんだよ」
父の隣に座っている相藤ナツキが微笑む。情報。
「どうぞどうぞ、食べて」
指示されてジョーは目の前にある料理に目を落とす。オレンジ色の……チキンか何かか。
「バッファローウィングだよ」
「ば、ば、バッファロー?」
知らない料理。無駄に情報が一つ増える。バッファローに羽が生えているなど初めて聞いた。見た目は手羽先だが。
「んむ……辛酸っぱ!!」
滅茶苦茶辛くて滅茶苦茶酸っぱい。食べたことのない味付け。情報がどんどん増えていく。
「か、辛……酸っぱ……辛酸っぱ!!」
「というわけで、食事が終わったら私達の家に帰ろう。ジョー君も帰ってきたことだし、家族四人で再出発するんだ」
「今日から?」
「今日から」
勘弁してほしい。いったい今日という日にどれだけのイベントを詰め込めば気が済むというのか。もうジョーの脳はパンク寸前なのだ。いやもうパンクしているかもしれない。
とはいうものの、もはやジョーには抵抗する力もなく、ミニバンに乗せられて市内の道を進むこととなった。ジョーはぼうっとした頭で窓の外を見ながら呟く。
「ここ……危険区域では?」
ジョーにとって今日という日は突然新しい家族ができた日でもあるが、世間的にはメガデスが地上侵攻を開始した日でもある。そして今車を走らせているこの場所は、ばかうけに近い、パンティーラインの内側のような気がした。
「そうだけど?」
幸次郎の反応に目をつぶるジョー。二の句を告げられない。
「避難指示は出てるけど、別に強制力はないしね。何より、私の家はあそこだけだ。なあに、いざとなったら私が家を守るさ」
頭が痛くなってきた。
「いざとなったらボクもいるからね。それにジョー君も」
耳元で相藤ナツキが囁く。
確かにそうなのではあるが、そういう話ではないのだ。
しかし何事もなく無事に家に着いたジョーは、家に案内される。
見たことのない家、見たことのない玄関。今日初めて見る母親に、突然できた父。そして一人だけ前から知っているものの、赤の他人だったはずの姉。
見知らぬ廊下を歩き、見知らぬ階段を上って、見知らぬ自分の部屋に案内され、見知らぬベッドに寝ころび、見知らぬ天井を眺める。
「ジョー、お風呂冷めちゃうから早く入って」
部屋の外から見知らぬ母の声が聞こえる。
いやだ。
今風呂場に行くと、おそらくは十中八九相藤ナツキが着替えている最中で「キャーえっち!」なんてイベントが起こるに違いない。
別にそんなイベントが起きてもいいのだが、今のジョーの精神状態ではそのイベントに対していいリアクションを返せる自信がない。
ゆえに少し時間を置いてからシャワーだけ浴びよう、と考えた。今はそんなことよりも……
少し首を上げて部屋の中を見回す。
グルナヴェのトランクケース以外は一切見覚えのない私物にあふれた部屋。引っ越し直後の部屋のように(実際そうなのであるが)物が乱雑に置かれており、これもいずれは整理せねばならないだろう。
再び仰向けにベッドの上に寝ころび、両掌で顔を覆う。
今はそんなことよりも、気持ちを少し整理したい。
さっきも言った通り、今日はいろんなことが起きすぎた。
ダンジョンへのアタック、ニンジャダイナソーやクローンジョーとの戦い。メガデスによる地上侵攻、そして母親の再婚。
しばし無言で顔を覆ったまま考え込む。いや、考え込もうとした。
「いろいろありすぎて、何から考えたらいいのか全く分からない!!」




