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FAKE HERO  作者: 月江堂
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そんな偶然あるまい

『修復モードに移行するため、兵装を解除します』


 あまり感情の感じられない音声が流れ、ジョーの兵装、グルナヴェがトランクケースの形状に戻る。クローンジョーやステゴシュリケンとの戦いによって大きく傷ついたための処置である。


「ぐうっ……」


 戦闘モードから解放されると一気に体に疲労が襲ってきて、ジョーはその場に四つん這いに崩れ落ちる。


 痛み、疲労、精神的ストレス。それらは兵装着用中神経系と接続された制御によって軽減されている。そのダメージが一斉に襲い掛かってきたのだ。


「み……みんなはどこへ行ったんだ」


 ようやっと土煙が収まってくる。幸いなことに、どうやら周囲にはニンジャダイナソーはいないようだ。生身の状態であの化け物たちと戦うなど、ぞっとしない話である。


 ジョーは痛みをこらえて立ち上がり、歩き出す。とにかくここは敵の総本山。じっとしていればいつまたドグマ達が襲ってくるかわからない。


「無事逃げたのか……?」


 アキラとミカの身を案じる。


 今考えうる「最悪の事態」は二人が逃げ遅れ、すでに死亡、その上で自分が孤立している状況であろう。


 だがそれを心配しても仕方ない。いずれにしろ二人はここにいないのだから、自分もここから離脱しなければ。そう考えてジョーは痛む足を引きずって歩き出す。


 うっすらと「ホントに置いてくなんてひどいじゃないか」と思いながらもその気持ちを打ち消す。この状況では他に選択肢などなかったのだ。


 それにしたって、普段も自分ばっかり戦っているのに、と一瞬考えるが頭を振って霧散させる。力を持つものが持たぬもののために戦う。それこそ彼の考えるヒーロー像だ。


「おーい」


 誰かを呼ぶ声が聞こえる。


「おおい、君、大丈夫か?」


 どうやら呼ばれているのは自分だったようだ。二人組の警官がジョーの前に走ってきた。この危険地帯の中、よくよく考えれば戦っているのは自分だけではない。それを生業として糊口を凌いでいるのだとしても、彼らとて生技のために戦っているのは変わらないのだ。


「君、怪我をしているのか? 救急車を呼ぼうか」


「いえ、大丈夫です」


 傍から見れば当然彼がヒーローであるとは分からない。仮に分かったとしても警官の行動は変わらなかったであろう。おそらくは市内を巡回して状況の確認や、逃げ遅れた市民がいないかを見て回っている警官だ。


「俺は一人で歩けます」


 警官の負担にはなるまい。自分は助ける側なのだ。そう思ってジョーは歩き出すが警官が彼を制止した。


「佐々木さん、この子、捜索願いの出てる子じゃないですか? 特徴が一致します」


「捜索願い?」


 聞き返したのはジョーの方である。自分に捜索願が出ているとは知らなかった。自分の感覚では気を失っていたのはほんの一瞬で、すぐに復活したつもりであったのだが、もしかするともう何日も経っていたとでもいうのか。


 それともアキラ達は避難した後すぐに捜索願いを出していたという事なのだろうか。そもそも捜索願いとはそんなすぐに出せるものなのか? と訝しんでいると、佐々木と呼ばれた警官がジョーに声をかける。


「君、もしかして武石ジョー君かい?」


 間違いない。一瞬人違いなのでは、と考えたジョーであったが。名前が一致するのだ。間違いあるまい。


 まさかこれが同姓同名の赤の他人で外見もたまたまそっくりな別人の捜索願いである、などという非現実的なことなどあろうか。いやあるまい。


「はい。俺の名前は武石ジョーです」


 その後、生年月日を確認すると、警察官は顔を見合わせてこくりと頷いた。


「とりあえず状況が状況だ。一旦警察署に保護して、顔写真を照合したらすぐにご家族に連絡して確認してもらうから」


 そう言って警官はジョーを先導して歩き出した。どうやらパトカーなどの移動ではないようである。この非常事態だ。道路の方も混雑しているだろう。


「さっき『状況が状況だ』と言ってましたが……? 町の状況はどうなっているんですか」


「ああ、そりゃまあ気になるよね。メガデスとかドグマとか言う連中だっけ。何とか自衛隊が押しとどめてはいるものの、災害みたいな状況だよ。おかげで家族とはぐれた人が大勢出てる。署内にも大勢そんな人がいるからね。申し訳ないが略式での確認になるけど」


「まあ、名前と生年月日、年齢が合致してるんだからあとはもう家族に確認に来てもらって問題ないだろう。すまないが警察も今は手一杯でね」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 ようやく()の大まかな状況を知ることが出来た。アキラ達には後から連絡をとればいい。それよりは先ず、同じ市内にいるのだから家族の状態も心配だ。


 ヒーローである前に一人の高校生でもある。まず家族の事が気になるのも仕方ない事である。


 そうやって数十分も歩き続けると警察署に到着した。彼らが言った通り警察署には人がごった返している、とまではいかないものの、普段よりは人が多いようであった。


「すぐにご家族を呼ぶから、座って待っていてください」


 ふう、とため息をついてジョーはベンチの上に座る。


 体を動かして歩いているうちは少しは収まっていた体の痛みが、再びジワリと体に染みこんでくる。少し俯いて体を休めようとすると猛烈な眠気が襲ってくる。辺りはもう夕闇が支配し始める薄暗がりの時間だ。結局ダンジョンの未踏破領域に達するという目的は叶わなかった。それでも自分の目の届く範囲では犠牲者が出なかったのだからよしとする他あるまい。


 そんなとりとめもない事をうとうとしながら考えていると、ふと目の前に誰か女性が立っていることに気付いた。


「ジョー……」


 四十代初めころ、といった風情の中年の女性である。その双眸にはじんわりと水分が蓄えられている。


「よかった、ジョー。急にいなくなって、本当に心配したんだから」


 ベンチに座ったままのジョーを、抱きしめてきた。震える声。どうやら涙を流しているらしい。


「……誰?」

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