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FAKE HERO  作者: 月江堂
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君はヒーロー

「やはり自衛隊も苦戦しているようだな」


「通常想定されている軍事侵攻とは違う。重火器は破壊力はあっても市街地で軽々にぶっ放せない」


 アキラの独り言にミカが答える。


 ドグマや怪人、怪獣は兵装に装備されているハチソン効果によく似た重力操作装置によるブリッツキャンセラーを使うことができる。これは軽量な飛翔体、たとえばそう、小口径の火器に対してその軌道を捻じ曲げ、弾道を逸らすことができるのだ。


 とはいえ時速一〇〇〇キロを超える速度である。正面から着弾することはなくとも弾丸は当たることもある。だが彼らはそれに加えて強固な外皮も併せ持っている。このため大口径の銃か気による攻撃でしか有効なダメージを与えられないのだ。


 しかしそれでも自衛隊の武力は健在である。メガデスの侵攻を一定の場所に押しとどめていることは十分に評価できる力だ。


「強固な防衛力を持っていても、内部からの攻撃には弱いと言う事か。この状態を打破するためにはやはり、ヒーローが……」


「ちょっと、ちょっと待ってくれ」


 何やら思考モードに入り込もうとしているアキラをジョーが止める。


「その話も重要だと思うんだが、ちょっと待ってくれ。いいか。重要な話だ」


 治療を終えたジョーは左腕を三角巾で吊っている。幸いにも傷は骨には達しておらず、深いものではなかったが、しばらくは動かさないようにと注意をされた。周囲を見てみると同じように怪我をした市民や自衛隊員がぽつぽつと散見され、戦場のよう、とは言わないまでもやはり大きな災害の後のような様相となっている。


「その、俺は武石ジョーではない、というか……」


 先ほどのアイデンティティの揺らぎをまだ持っていたようである。


「何を言ってるの。あなたは武石ジョー。さっき自分でもそう言ってたじゃない」


「いや、そうなんだが、そうじゃないというか」


 なんとも奥歯に物の挟まったような言い方である。


「クローンジョーということか?」


 さすがはこのチーム随一の頭脳派のアキラである。呑み込みが早い。


「さっきの激しい戦いと、高速飛行で脳が揺さぶられたことによって、また記憶が混乱している可能性が高い」


「いや待て、違うんだ。俺には確かにクローンジョーとしての記憶があるんだ」


「なるほど。武石ジョーの記憶はないのか」


「いや……あるけど」


「どういうことだ」


 どういうことだと言われても、クローンジョーとしての記憶、そして武石ジョーとしての記憶、両方ともある。ただそれだけである。


「ジョー、元々君は正義感の強い普通の高校生だった。それが偶然も重なって兵装を手に入れてヒーローになったんだが、その記憶は?」


「……ある」


 記憶の底を掘り返すように、ジョーはゆっくりと話し出す。


「ミカが、ばかうけの近くでドグマに襲われているところに偶然出くわして、俺が助けたんだ。その時に彼女が持っていたのが、この兵装だ」


「その記憶があるなら、まず間違いなく君は武石ジョーだ」


「ま、待て、違う。おかしいんだ。俺が自分のものだと思っている、この武石ジョーの記憶は、もしかしたらクローンとして作られたときに植え付けられた偽の記憶かもしれない」


 ジョーは自分の持っていた記憶の矛盾点をそう結論付けてあまり考えないようにしていた。いや、そうとしか説明できないから、そう決めつけていたのだ。


「だとしたらメガデスはその記憶をどこで手に入れたというんだ? ジョーの細胞を手に入れることはできても『記憶を抜き取り、他人に移植する』なんてことはできない。RNAに記憶が刻まれるという学説もあるが、そんな細かい記憶までは無理だろう。それは君自身の記憶に間違いない」


 説明されても納得がいかない。自分がクローンとして作られたのでないならば、では自分があったジョーにそっくりな人間は一体何だというのかあちらの方がクローンだと、いまさらそんなことを言うのか。


「世界五分前仮説というものがある」


「な、なんだそれは」


 説明しよう。世界五分前仮説とは仮に世界の全てが五分前に発生したものであり、その時に五分以上前の記憶や、その証拠となるものが全て作られたとした場合、それを確かめる方法も、実証する方法も存在しない、という思考実験である。


「何を言いたいかというと、記憶に頼るということはそれだけ安定性のないものだと言う事だ」


 アキラはジョーの真正面から、力強く両肩を掴み、彼の瞳を覗き込む。


「だが私は君の本質を先ほど見た。自分の体を犠牲にしてまで、縁もゆかりもない市民の命を救っただろう」


「あ、あれは、自然に体が動いただけで……」


「それだ! それこそが君が武石ジョーであることの最大の証明なのだ。ヒーローの心は君の体の中心にある。それともあんな訳の分からない冗談みたいな怪物を使って無辜の民を襲うのが君の本質なのか?」


 そう言われてみると、反論するすべがない。自分の心を噛み潰し、自分は悪の組織に作られたクローンだから仕方ないのだと言い聞かせ、苦悶に耐えながらニンジャダイナソーを指揮していたのは確かだ。


「むしろ、その『クローンジョーとしての記憶』の方が先ほどの戦闘中に精神攻撃か何かで植え付けられたものなんじゃないのか? そちらの方がよほど信憑性がある」


「本当に、そんなことが……?」


 信じられない。あの戦いのさなかにそんなことがあったというのか。自分はクローンではなく、それを倒そうとしていた方なのだと言う事が。


「ジョー、あなたは流されやすくて思い込みが強すぎるところがある」


「ぐっ……」


 そういわれるとぐうの音も出ない。加えて言うなら物覚えの悪さにも自信がある。


 自分の記憶の中にあったことが本当にあったことなのかどうか、確信が持てないことが多いのだ。あったと言われればあったような気がするし、無かったと言われれば、そんなことなかったような気もしてくる。


 だがたった一つ。「信念」だけは変わらない。


 アキラを助け、市民を守ったあの行動。あれは間違いなく自分の信念から出た行動であった。あの行動に嘘はない。


「迷うな。たとえ記憶を失っていたとしても、君は間違いなくヒーローだ」

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