地獄絵図
「ヴオオオッ!!」
野太い声とともにとげの生えた巨大なフリスビーのような巨体が回転しながら飛来する。
「くっ、手に負えん!!」
「ジョー! こっちに!!」
ミカが叫ぶが、ジョーとアキラ、ミカはステゴシュリケンの凄まじい破壊力と突進力に蹂躙され、分断されてしまう。
「くそっ、自衛隊に合流するどころじゃない。ここから生きて帰るのさえ難しいぞ」
アキラが独り言ちる。
そしてクローンジョーはニンジャダイナソー全体に大まかな指示を与えると、自分はやはりジョーを倒すために前線に出てきた。
「ダイナソーたちの動きを止めるつもりはないが、やはりお前だけはこの俺の手で葬ってやる。メガスマッシュ!!」
大きく振りかぶっての極超音速の正拳突き。開けた場所での極超音速の衝撃波は通常よりもさらに破壊力を増す。ジョーは間合いを取りながら廻し受けで衝撃波を相殺する。
「決着をつけてやる」
一気に距離を詰める。硬い皮膚と脂肪に守られているニンジャダイナソー達にとって衝撃波のダメージは軽微であるが、アキラとミカはそうはいかない。何より周囲の市民、そしてその生活圏へのダメージは計り知れない。
オーソドックスなアップライトに構えたスタンスから下段廻し蹴り、ボディブロー、肘打ち、膝蹴りと連続して休みなく攻撃を仕掛けるジョー。
クローンジョーが距離をとろうとバックステップするとボクシングのダッキング技術を使いながら即座に再び距離を詰める。
逃がさない。逃げれば詰め、詰めては打ち、連打連打、拳の雨あられを降り注ぐ。
こんな戦い方を長く続けられるわけがない。クローンジョーはしっかりと脇を締め、今は耐える時、とばかりに堪える。やがてそんな戦い方を二分も続けていると綻びが見え始めた。
拳が軽くなってきている。そう感じたクローンジョーは後ろに下がると見せかけて逆に距離を詰め、前腕で薙ぐように肘打ちを浴びせかける。
だが戦闘巧者であるジョーがそれを想定していないはずがなかった。ジョーは肘打ちを胸で受けつつも体を捻転させ、クローンのに回り込みながら鉤突きを背面、腎臓へと打ち込んだ。
「ぐうッ……」
全身に電流が奔る。
この隙を逃すまいとさらに畳み掛けようとするジョー。しかしジョーの背面にも衝撃が奔った。
「ヴォオオ」
ステゴシュリケンのテイルスパイクが遠心力を活用して撃ち込まれたのだ。クローンジョーを巻き込みながら吹き飛ばされる。
「ジョー!!」
さらにステゴシュリケンはとどめを刺そうと跳躍したが、危険を察知したミカがスラスター最大出力で腹に体当たりをかます。
「ヴゥゥ……」
苦しそうな表情でミカを睨みつけるステゴシュリケン。
「ジョー! 離脱するわ! 退却してパンティーライン……に合流する!」
「ここから真っ直ぐ東に向かえば最短で合流できるはずだ。ミカ君、敵の足止めを頼む!」
アキラの指示によってミカは縦横無尽に周囲を飛び回りスパイダーウェブを展開する。クローンジョーがそうであるように、ミカの飛行能力もその力を十全に発揮できるのは開けた場所である。
「くそ、こざかしい真似を! ステゴシュリケン! 糸を切り裂け!!」
「ヴォオオォ!!」
ステゴシュリケンはその場で跳躍すると円盤状に体を丸め、激しく回転させる。まるで車輪のようにその回転で周囲のオブジェクトを切り裂きながら突き進む。
いや、ただ突進しているだけではない。もはや狙いなど定めず、無茶苦茶に周囲を攻撃し始めたのだ。
「おい! 待て! 止まれ!! やりすぎだ!!」
もはや阿鼻叫喚の地獄絵図。総重量四トン以上もある化け物が大車輪となって皮骨板を利用してありとあらゆるものを破壊し始めたのだ。
さらにそれに加えてテイルスパイクによる攻撃もおまけされる。
「ミカ君! もう無理だ。ここは危険すぎる! すぐに離脱するぞ!!」
アキラはもはやジョーと合流することは不可能と判断した。行き先は告げたのだ。ジョーの実力があれば同行せずとも後から合流できると考えたのであろう。考え方としては正しい。
縦横無尽に走る破壊の塊と、それによる粉塵で、もはや視界の確保すら難しい状況である。
「そんなわけにはいかない! ジョー!!」
もはやジョーとクローンの姿も視認できない。しかしミカは諦めきれないようで彼らがいた方向に突っ込む。
しかし一方ジョー達の方もお互いの視認すらできない状況は変わらない。ステゴシュリケンはミカのスパイダーウェブを打開しはしたものの、呼び込んだのはさらなるケイオスであった。
「止まれ!!」
ケイオスレッドがひときわ高く跳躍し、その全体重と脚力を利用してステゴシュリケンの回転の中心、横っ腹めがけて飛び蹴りを突き刺す。
背面は強固な皮膚と皮骨板で防護されているものの、回転もなく柔らかい腹部はまさにステゴシュリケンの急所であった。その飛び蹴りは対象の腹を突き破り、反対側に抜けた。
「ヴオオオェェェ……」
凄まじい回転と制御を失った巨体が最期の破壊の衝動を炸裂させながら事切れた。
四トンの体がどうと崩れ落ち、土煙をまき散らす。
「くっ……化け物め。制御できていないじゃないか」
全身の力を使い果たし、その場に崩れ落ちそうになるケイオスレッド。その腕をミカが掴んだ。
「ジョー、チャンスよ。この混乱の中一気に離脱する」
「ま、待て、俺は……」
ケイオスレッドが何か言おうとしたが、ミカはその言葉を無視して彼をホールドし、スラスターを吹かせ、飛翔する。
「待て、違う! 俺はああああぁぁ!!」
そのままアキラをも追い越し、ミカは全速前進、最大推進力で飛んで行った。
あとに残されたのはステゴシュリケンの攻撃に巻き込まれて肉片となったニンジャダイナソーの夥しい死体。死屍累々というものである。
そして、騒動が収まった後、一人の男が取り残されていた。
ケイオスレッド。
砕け散った皮骨板の直撃を頭部に受けて、失っていた意識を取り戻し、やっとの思いで体を支え、膝立ちになる。
「ぅ……どうなった……? みんなは?」
取り残されたのは、ジョーであった。




