パンティーライン
「これは……ひどい」
命からがらダンジョンから逃げ延びたジョー達はダンジョンの外で信じられない光景に遭遇した。
市民がドグマの攻撃を受けているのだ。ゴーレムタイプや蜘蛛など、今までにダンジョンの中で見かけたタイプのドグマもいれば、ダンジョンの中では大きすぎて活動できないようなさらに大きなドグマもいる。
それだけではない。メガデス所属と思われる、明らかにニンジャダイナソーシリーズであろう恐竜型の怪獣も多く見かけられる。
「アキラ、襲撃の規模は? ばかうけの周辺だけじゃないの?」
「待て」
すぐにアキラはパソコンを開く。ジョー達もスマホを立ち上げて情報を確認しようとするものの、しかしどうにも通信が安定しない。非常時のために負荷がかかっているのだろう。
「む……待て、内田博士と繋がった」
ジョーとミカがパソコンの画面の前に集まってくる。
「内田博士、そちらの状況はどうなっている? 襲撃はどの程度の規模なんだ? まさか日本全土が……」
『いやいや落ち着いて。そこまでじゃないよ。襲撃を受けているのはあくまで現状バカ受けの周辺だけ。自衛隊の朝霞駐屯地と大宮駐屯地の自衛隊が防衛ラインを築いて何とか持ちこたえてるんだけどねえ』
「自衛隊が出てきているのに苦戦しているのか?」
『市街戦だからねえ、しかも急襲だったから、なかなか重火器の射線が取れない中頑張ってるみたいよぉ。朝からパンとお茶だけで頑張ってて、パンティーラインって呼ばれてるんだけど……』
「そんな話はどうでもいい。政府から協力要請などは出てない?」
『出るわけがないだろう』
当然と言えば当然の仕儀ではある。
人間を十分に殺傷しうる兵装を所持していることは条件さえ整えば犯罪にも該当しうる。凶器準備集合罪の構成要件としては行政側がどう判断するかによるところが多いものの、暗黙の了解でそれを許しているところに公的に応援を要請したとなればその立場は極めて微妙になる。
実際同じものを犯罪目的に使用するメガデスのような連中が今回の騒ぎを起こしているのだから。
『ただ、フィールドワークのヒーロー達はあくまで自発的に自衛隊に協力している。君達も、パンティーラインに参加してほしい』
「パンティーラインって言いたいだけじゃないのか」
ジョーがツッコミを入れた時、後ろ、つまりダンジョンの中の方から物音がした。後から追ってきている連中、と言えば思い当たるところがある。
「追いついたぜ、キャプテンケイオス。地上組の方も上手く行ってるみたいだな」
「クローンジョー!!」
『クローン……か』
クローンジョーとニンジャダイナソー達が追い付いてきたのである。
「どうする? まだ抵抗するか? 投稿して協力するなら悪いようにはしないぞ」
そんな言葉に色よい返事が来るとでも思っているのか。
「ジョー、戦闘になるなら、配信を再開……」
ミカの前にスッと手を出してジョーが制する。
「この非常時に、通信リソースを無駄に使う必要はない」
ジョーはゆっくりと立ち上がる。
「お前はこの光景に、何も思わないのか?」
手を広げて後方を指差す。
「罪もない市民が大勢怪我をしている。死者も出ているかもしれない。ヒーロー達や、自衛隊が戦っている。この光景に」
クローンジョーは黙して語らない。
「お前も、思うところがあるんじゃないのか」
もしも相手が自分と同じ遺伝子を持つクローンであるなら、この光景に何も感じるところがないなどという事などあるはずがない。ジョーはそう考えた。
事実、クローンジョーは眉間に皺を寄せて、苦悶の表情を浮かべている。
「黙れ」
言葉少なに。
「黙れ。俺はメガデスの生物兵器として生み出されたんだ。お前にこの気持ちが分かるか?」
分かるはずがない。分かりようもない。
「ニセモノとして生み出され、あらかじめ決められた運命をたどることしかできない者の気持ちがお前に分かるのか。俺は」
ニンジャラプターから飛び降りて、クローンジョーは前に出る。
「俺は、お前を殺して、ホンモノのヒーローに成り代わる」
「なればいい」
一切の予備動作なく、最速の正拳突き「メガスマッシュ」が放たれる。ジョーは、それを両手で受け止めた。衝撃波で周囲のオブジェクトが吹き飛ぶ。
「ヒーローになんて、いつでもなればいい。誰かを倒さないとヒーローになれないなんて、誰が言い出した」
「恵まれた環境にいながらッ!!」
クローンジョーの渾身の右廻し蹴りを三角筋でガードする。
「偉そうに説教するなッ!!」
蹴りの跳ね返る衝撃を利用し、全体重をかけた乾坤一擲の左ロシアンフック。ひび割れるような、鈍い音が響く。凄まじい運動エネルギーを転嫁されて、舗装されたアスファルトを削ぎ取りながらジョーが後退りするが、それでも体の芯は全くブレない。
「来い。お前の全てを受け止めてやる」
「悪いがもう一騎打ちなんてする気はねえぜ。タイムセールはもう終わりだ」
ジョーとクローンが交錯しようと前に出るが、それより数舜早く、巨大な円盤状の何かが縦回転しながら降下してきた。
「むうッ!?」
これは危険だと判断したジョーが後ろに跳躍して円盤の直撃を避ける。
その円盤は回転しながら地面に突き刺さり、そして少し遅れて時間差でモーニングスターの鉄球のような突起物が降ってきた。
苦悶の声を上げながら、ジョーはかろうじて十字受けでそれを受ける。
「ヴオオォォォ……」
強大な咆哮とともに円盤の脇からにゅっと長い首を備えた恐竜の頭部が現れた。
「あれは……ステゴサウルス!」
アキラの声がこだまする。
説明しよう。ステゴサウルスとはジュラ紀の草食恐竜の一種であり、四足歩行で移動し、装盾類と呼ばれる分類に属する特異な外見を持っている。その首から尾にかけて帆のように何枚ものプレートが直立している。
このプレートはディスプレイであるとも放熱板であるとも言われており、何に使われていたのかは判然としない。つまり、今回のように大きく跳躍し、自身の体を手裏剣のように回転させながら攻撃に使っていた可能性もあると言う事だ。
「行け! ステゴシュリケン!!」
「ヴオオォォッ!!」
ステゴシュリケンの回転攻撃をかわすと時間差で尾についているスパイクが襲ってくる。強力な二段攻撃である。
「クローン、これがお前の望む戦いなのかッ!!」
ジョーの魂の咆哮がこだまする。




