マイティポリッシュタンク
「マイティ ポリッシュ タンク!!」
歌うような大声とともに現れて巨大なハンマーでニンジャラプターを叩き殺したのは白銀のフルプレートアーマーに身を包んだ大男であった。
何らかの音源から録音された音楽を鳴らしているのだろう。激しいドラムとエレキギターの音が聞こえる。
― 時は二〇二〇年 ―
― 宇宙からその侵略者達はやってきた ―
― 立ち向かうのはたった一人のヒーローだけだ ―
「何だこの歌は!?」
戦う手を止めてクローンジョーは間合いを取る。どうやら彼らも全く予想だにしていなかった展開のようである。
一方ジョーの方はというと、こちらもあっけにとられたような表情で棒立ちである。本来なら隙を見せたクローンに攻撃を仕掛ける場面であるが、驚きのあまり動きが取れないのだ。
「ま……マイティポリッシュタンク……」
ジョーが小さな声で呟く。
:マイティポリッシュタンク?
:どっかで聞いたことがあるような……
:思い出した! 前にクロノワールと盛り上がってたやつだ
:真のヒーローとか言ってた奴か
以前にティラノサウルスタンクと戦った時、ジョー達は危ないところをクロノワールのプラズマ攻撃に助けられた。その時に配信動画も確立していなかった時代のヒーロー、マイティポリッシュタンクという人物の話について視聴者を置き去りにして盛り上がっていたのだ。
「マイティポリッシュタンクか、あのあと少し調べたが」
アキラがタフノートを開く。
「宇宙船が不時着して間もないころ、市民を襲うドグマと戦うために自作の鎧で敵と戦った野良のヒーローのようだな。映像がほとんど残っていないし、人物像も謎のまま消えてしまったが……」
アキラはタフノートを閉じて顔を上げる。
「市民達よ! ここは俺に任せて逃げろ!」
体のすべてを鎧で覆われているのでその人物像は杳として知れない。しかし力強い声でジョー達に呼び掛けている。
ジョー達がヒーローだと言う事を分かっていないのか。彼はこの状況を把握しているのか。
「まさか生きていたとは」
目撃情報もほとんどなく、音沙汰もないとなれば当然ドグマとの戦いに敗れ、死んでいるものと考えられていた。しかし今、こうやってジョー達の前に立っているのだ。
しかし戦いが終わったわけではない。ニンジャランフォリンクスがマイティポリッシュタンクに向かって飛翔攻撃を仕掛ける。兵装ですら大きな亀裂を負わせた手裏剣攻撃だ。通常の鉄では中身ごと切断されてしまうだろう。
「むん!」
しかしなんということか。マイティポリッシュタンクは鈍重そうに見えるそのハンマーでもって、ランフォリンクスを空中で捉えた。体の小さなランフォリンクスは爆ぜるように潰れて消滅した。
「チッ、とんだ邪魔が入ったな。マイティポリッシュタンクだと? 兵装を着用もしていないようだし、頭がイカれてんのか? 武器だけはどっかで拾った兵装を利用してるみたいだが」
戦いに水を差されたクローンジョーは再び大型のニンジャラプターに騎乗した。
「踏みつぶせ、ニンジャダイナソー達。お遊びは終わりだ」
絶望的な状況は変わらない。ダンジョンの奥からはさらに増援が押し寄せてくる。どうやらメガデスは本気のようだ。
「一つ教えてやる。俺達メガデスはドグマの助力を得ている。もう地球征服も目の前だろう」
:メガデスって地球征服が目的だったん?
:ヴィランごっこして遊んでるだけかと思てた
:おもちゃメーカーじゃないんだ……
ひどいいわれ様ではあるが、正直ここまで大した動きはなく、銀行強盗したり小さなショップを襲撃したりしていたのだからしょぼい組織だと思われても仕方あるまい。
「今日だ。今日が本格的な地上侵攻の記念日になるんだよ。行け、お前ら。ヒーローどもを踏みつぶせ!」
「ジョー! 一旦退くぞ!!」
「ま、待ってくれ、マイティポリッシュタンク、アンタも一緒に……」
「ジョー、無理言わないで」
抵抗するジョーを抱きかかえてミカがスラスターを吹かせる。アキラもそれに続く。増援は来たものの、マイティポリッシュタンクの出現によって場が混乱した今しか逃げるチャンスはない。
マイティポリッシュタンクは孤軍奮闘、今も敵の火炎放射を左手に持っていた大盾で防ぎ、ハンマーを振るっている。
まさに獅子奮迅という活躍ではあるが、しかし所詮は兵装も持たない一般人なのだ。その力がどこまでもつかもわからない。
「マイティポリッシュタンクッ!!」
ジョーの声が響くが、しかし何よりも自分の生存が優先される。ミカ達はペースを上げてダンジョンの出口を目指す。
「ブルー、ナビをお願い。私は来た道を覚えていない」
「まかせろ! ……ん?」
タフノートを開いたアキラが妙な声を上げる。それと同時に視聴者にも妙なコメントが流れ始めた。
:おいおいマジか
:埼玉県がえらいことになってんぞ
:さっきのクローンレッドの発言ははったりじゃなかった!
「どうしたの、アキラ?」
「埼玉県の各所が、何者かの攻撃を受けている……」
「なに? 地上が!?」
ジョーも声を上げる。ようやく思考が切り替わったようだ。
「ピンク、降ろしてくれ。もう引き返したりはしない」
マイティポリッシュタンクに後ろ髪惹かれないわけではないが、状況が変わったのだ。
「もし本当にダンジョンの外が攻撃を受けているなら、市民を助けに行かねばならない。内田博士と連絡は?」
「通信が重くなっていて繋がらない。いや、もう配信の通信状態も悪いな。すまないが、今日の配信はここまでだ」
手早く配信を終了させると、アキラは外の情報を集めようとする。すぐに駆け付けたいところではあるが、ある程度状況を把握できなければそれも危ういだろう。
「自衛隊が戦ってはいるようだが、なにぶん町の内側からの攻撃なうえにあまりにも変幻自在な敵の動きに苦戦しているようだ。とにかく、町が襲われているのは間違いない」
「くっ……」
ジョーが苦悶の表情を見せる。
「とにかく、外へ急ぐぞ! 市民を助けなければ」




