ニンジャランフォリンクス
「以前とは違うな」
拳を交えて、すぐにクローンジョーは気づいた。前の戦いからそれほど期間が経ったわけではないというのに、明らかにジョーの実力はクローンの力の前に押し負けることなく、拮抗していた。
戦闘技術では、ジョーが圧倒している。兵装を用いての戦い方、出力ではクローンが上だ。前回はギリギリのところでクローンが上回ったものの、元々両者の間にそれほどの実力差があるわけではない。
ジョーが空手の妙技で細かく技を当ててくれば、クローンは派手な大技で一撃を狙いに来る。たとえ外れても衝撃波によって完全にノーダメージにはならないほどの攻撃でだ。
「くそ、こいつらどれだけいるんだ!?」
問題なのはアキラとミカの方である。
「ブルー、下がって!」
アキラに噛みつきを仕掛けようとしたニンジャラプターをミカが高推進のチャージで吹き飛ばす。
:おいおいやべえじゃん。あいつら戦えんのかよ
:レッド! 一騎打ちなんてしてる場合じゃねえぞ!
言われずともわかっている。しかしクローンジョーは彼でなければ止められない強敵であるし、早く決着をつけて彼らに加勢する余裕などない。
「どうした。こっちに集中しろ!」
亜音速の拳が飛来する。払う腕がびりびりと痺れる。交錯するように相手のあごに肘を撃ち込むが、ポイントを外されて胸に命中する。
並みの相手であれば胸骨を粉々に砕き散らす肘も、兵装の前ではそれほどのダメージもないようだ。
「なぜだ」
離れ際に内股に下段回し蹴りを放ち、すぐさま距離を詰めて両の拳を叩きこむ。会話を発しながらも攻撃の手は緩めない。
「目を見れば分かる。お前にも俺と同じ正義の血が流れているはず。それがなぜ悪に加担する」
「黙れ!!」
体重をかけた前蹴りがヒットする。
「お前に何が分かる! お前を倒すためだけに生み出された俺の何が!!」
自己の存在証明のぶつけ合いなのだ。戦って分かり合えなどはしない。
「フルブースト!」
一方ミカはスラスターだけでなく足も使って壁を蹴り、全速力で兵装を飛ばす。以前に蜘蛛から奪った糸を使って敵を拘束する。
「ピンク! 敵の口を糸で絡めて閉じさせるんだ。かむ力は強くとも開く力はそれほどでもない!」
「今やってる!」
アキラも兵装を纏ってはいる。しかし元々頭脳担当としての自認しかもっていない彼にはそもそも戦う手段がないのだ。以前のように人類の英知の結晶であるラップトップPCを単なる鈍器として使うという最悪の使用法で応戦してはいるものの、限度がある。しかも敵の数が多い。手数が足りない。
「ジョー! 私達は離脱する! あとから追いついてきて!!」
通路に蜘蛛の巣を張ったミカが声をかける。ニンジャダイナソー達は糸にからめとられてはいるが、そう長く持つとは思えない。
「危ない!!」
蜘蛛の巣の隙間から何かが飛んできた。ミカの前にアキラが立ちはだかり、「何か」の攻撃を腕でガードする。金属音がダンジョンに響いた。
「ランフォリンクス……」
:なんだそれ?
:小さいけど翼竜か
:こんなのまでいるのかよ
翼竜と言えばプテラノドンやケツァルコアトルスなどの大型のものが有名ではあるが、実際には小型のものの方が多く存在する。今攻撃を仕掛けたランフォリンクスなどは翼を広げても一メートルほどにしかならない小型のものである。
やはりニンジャダイナソーシリーズの例にもれず鉢金のようなものを頭に被っているが、特徴的なのはその尾だ。
体長と同じくらいの長さのある長い尾の先には手裏剣のような四つ星の形状の刃がついている。先ほどはこれによって切り付けてきたのだろう。
「く……兵装に亀裂が……」
「ブルー! まだ来る!」
次には二匹同時に飛んできた。アキラは尾の攻撃をぎりぎりでタフノートを使ってガードする。
「ぐっ、こいつ……!! 離れろ!!」
しかし尾の攻撃に失敗したニンジャランフォリンクスはアキラの体に張り付いて足止めをしてきたのだ。振り払おうにも離れない。
コウモリは親指以外の四指が羽の形状をしているが翼竜は違う。薬指だけが突出して長く、幕を張って翼の役割をしており、残りの指でしっかりと物を掴むことができるのだ。
「ブルー、傷口を抑えて!」
ミカがアキラに背中を見せ、スカートを開いた。この光景に見覚えのあるアキラはすぐさま先ほど切り付けられた亀裂を抑えた。
ドオン、という爆音とともにランフォリンクスが吹き飛ばされる。スラスターを使って吹き飛ばしたのである。
難を逃れたアキラであったが、ふと思い当たることがあり後ろを振り返る。
そう、思い出したのは以前にジョーが蜘蛛の糸にからめとられた時のことだ。あの時はミカのスラスターで糸を焼き払った。蜘蛛の糸は熱に弱い。
そして、ニンジャラプターの持ってる武器が頭をよぎる。
熱風が兵装を撫でる。炎に巻き込まれたニンジャダイナソーが二匹ほどもがいているが、その後ろから悠々とニンジャラプターが歩いてくる。
「奴ら、仲間ごと糸を焼き払ったか」
先ほどの大型犬ほどのラプターよりも大きな個体。冷血動物に仲間への思いやりなどないのか。獲物を正面に捉え、ゆっくりと口を開く。
その口蓋の奥の闇には黒光りする噴射口が覗いている。
「くそ……ミカ、逃げ……」
死を覚悟したその時であった。
人工的な轟音が鳴り響く。
いや、人工的などというものではない。これはドラムを連打する音だ。音楽が聞こえてきたのだ。
「マイティ ポリッシュ タンク!!」
その大声とともにどこからか現れた巨大なハンマーがニンジャラプターの横っ面をなぎ倒したのである。




