ニンジャダイナソー
「しかし、三連休だけあって本当に中で別のヒーローに遭遇するとはな」
警戒は解かず、慎重にダンジョンの中を進みながらもジョーが呟く。
宇宙船「ばかうけ」は全長1キロ以上の巨大なものであり、内部はまさに迷宮の様相を呈している。一部は地中の岩盤と癒着して境界があいまいになっているところもあり、もはやその全体の大きさは誰にも把握できないほどだ。
その中でまだ入り口に近いといえども別のヒーローに遭遇するのはそう頻繁にはない。
「まあ、連休と言えば稼ぎ時だからな。休みだというのにWowtube見るくらいしかすることのない暇人が大勢いる」
:てめえいつか殺すからな
:投げ銭だけじゃなくて奪う機能もあればいいのに
:低評価↓
ナチュラルに視聴者をディする発言を垂れ流すアキラを視聴者がやんわりと注意する。
「なんかダンジョンに入るたびにエポナを見ている気がするが、他の奴らに会うこともあるのか?」
「ダンジョンにいる危険な生物はドグマだけではない」
まっすぐ前を見て歩きながら、ミカが答える。
「野良のヒーローというものがいる……」
「野良の……?」
ジョーが聞き返す。今まではヒーローと言えば町で悪人を倒すフィールドワーカーと、ダンジョンを徘徊する探索者だけだと思っていたが「野良」のヒーローとは聞いたことがない。
:ああ、野良の、ね……
:遭遇することはほぼないけどな
:噂は聞くよな……
視聴者からも歯切れの悪いコメントが流れてくる。いったい野良のヒーローとはなんなのか? それほど珍しいものなのか。
「配信をしていない、正体不明の野良ヒーロー」
「配信をしていない? じゃあ何を目的としているんだ?」
「それが分かれば苦労はない」
なんとも要領を得ない回答だ。歩きながらジョーは少し考える。「配信をしていない」という事は収益を目的としていないということである。
物事を単純に考えるきらいのある彼の脳内ではこう結論付けられた。
「それはつまり、完全に善意のみでヒーローをしているということか。それこそが真のヒーローじゃないか」
しかしこれに対してミカは少しあきれたような表情で返した。
「ヒーローの絶対条件は市民を助けること。対価を受け取るかどうかなんて些末」
「む……」
反論したいが言い返せない。「金」を「穢れたもの」とすぐに結びつけてしまうのは日本人の悪い癖である。
「十分に収益化を達成して何年もヒーローをやって市民を助け続ける人と、対価を決して受け取らず、数回活動して消えてしまう人では、どちらがヒーローとして市民の助けになっている?」
そう言われてしまうと返す言葉もないのが事実である。
「それに、何の対価も受け取らずに自主的にヒーローやってる奴が『まとも』だと思う?」
言われてみれば。
「そ、それは……純粋な、正義の心を持っているわけであって……」
答えながらもジョーもだんだんと不安になってくる。
例えばよほどの大富豪で生活の不安のない人物であるとする。そんな人間が慈善活動として正義のヒーローをやっている。
少し無理のある設定ではあるが、物理的には可能。しかし、果たしてそんな人間が「まとも」であると言えようか。
:要は、ちょっとおかしい奴が多いんだよ
:メガデスの方がまだ話が通じるらしい
:あいつら目的ははっきりしてるからな
実も蓋もない言い方ではあるがその通りだ。どんな行動原理で活動しているかわからない人間には、出来ることなら遭遇したくないというのが人情というもの。
「む、センサーの調子がおかしいな……レッド、ピンク、気をつけろ」
「センサー?」
「収音マイクだけは機能しているが、他はダメだ」
アキラの言葉を聞いてジョーは耳の後ろに手を当てる。ヘルメットの耳の部分には意識を集中することである程度指向性を持って音を増幅して収集する器官がついている。
「これは……さっきのニンジャラプターの足音……」
「おっと、ようやく会えたな、キャプテンケイオス」
目の前には少し広い通路が展開されている。その奥から現れた声の主は、ジョーと全く同じ外見を持つヒーロー、クローンレッドであった。
「さっきは俺の手勢を一匹葬ってくれたようだな」
クローンレッドは馬具のように手綱をつけられた大型のニンジャラプターに騎乗していた。暗くてよく見えないが、後方には多くの恐竜をしたがえているように見える。
「出たな、クローン!」
ジョーの言葉に力がこもる。
「来い、決着をつけてやる」
しかしレッドの言葉に対してクローンはそれを鼻で笑った。
「決着? 変なことを言うな。決着なら既に前回ついてるだろう。あれだけ無様に敗北しておいて、今更何を決着付けるっていうんだ」
実際彼からしてみればその通りであろう。ジョーから見ればリベンジを仕掛けたいところなのは当然だが。
「今日は、レッドじゃない。キャプテンケイオスと決着をつけに来た。お前らを蹂躙するためにここへ来たんだ。部下のニンジャダイナソーシリーズを引き連れてな」
ギラリと闇の奥に殺意の光がいくつも煌めく。今度は一体ではない。元々ラプターは群れで狩りをすると言われているし、ラプター以外のニンジャダイナソーもいるようだ。
「お前はどうなんだ」
「なに?」
言葉の意図が読めず、クローンレッドが聞き返す。
「クローンなら、お前には俺と同じ血が流れている。一対一の勝負を挑まれて、それでもなお無視して数で圧し潰す戦いができるのか?」
「痛いところを突くな」
ひらりと舞ってダンジョンの床に着地した。
「そこまで挑発して、この間と同じ結果じゃ目も当てられねえぜ」
構えをとる。クローンと言えども、悪の組織メガデスの手先であるとしても、自分と同じ存在であるなら、必ず乗るはずだ。たとえ安い挑発とわかっていても。ジョーはそこに賭けたのだ。
「いいだろう。一騎打ちだ。但し、俺とお前だけだ。ピンクとブルーの相手はニンジャダイナソーがやる。悪いがこれが俺の仕事なんでな」




