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FAKE HERO  作者: 月江堂
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金の力

 フィン、と風を切る音がダンジョンの中に静かに響く。


 ジョーは静かに最小限の動きでそれを躱す。


:おいおいマジでやるのか


:どっちが強いんだ?


:てかヒーロー同士で戦っていいのかよ


 通常、ヒーロー同士での戦いが起こることなどありえない。ともに「悪」と戦う仲間であるのだから。しかしそれが絶対のタブーというわけでもない。元々ヒーロー同士はどこかの組織に属しているわけでも、法的な枠組みがあるわけでもないのだから。路上の喧嘩と同じだ。ましてや法が用をなさないこのダンジョンの中では言うに及ばず。


 ならばこれは純粋な術比べ。


 ジョーは初撃のグラインドクローを躱すと半身に構えたまま拳の届く範囲に踏み込もうとするが、腰を深く落として構えたエポナは足をスイッチしながら下がり、二撃めの爪を放つ。


 以前あった時には派手にダンジョンの内壁を削りながらの攻撃だったが、今回は最短距離で飛んでくる。構えにしてもそうだ。以前はほとんど棒立ちに近かった立ち方。しかし今は攻撃は爪に集中し、両足は体を支えるために大きく開いている。そして深く構えた状態でのスイッチングによる後退は通常の立ち方での移動では二歩分にも相当する。


「工夫してきたな」


「おかげさまで」


 だが攻撃の肝は変わらないはず。両腕の指十本の攻撃が同時行えるオールレンジ攻撃だとしても、爪同士が絡み合わないようにするにはある程度の攻撃予測地を絞ることができる。


 初対面の時、ジョーはエポナに助けられたが、その後、怪人ノースフィストに全く歯の立たなかった彼女はジョーに逆に助けられることとなった。いったいどちらが強いのか。


 再びダンジョンのちに降り立ったと言う事は、その弱点を克服してきたという事なのだろう。


 十指全てを使った攻撃を発動する。時間差をつけての連続攻撃。先端の速度は音速の二倍にも達する。彼女のグラインドクローは両側にバンドソーのような鉤が無数についており、ほんの数舜触れただけで鋼鉄をも真っ二つに切断するのこぎりだ。


 しかしジョーは冷静にそれを目視して躱し、距離を詰める。


(わたくし)の弱点である退陣戦闘経験の少なさ、克服していないと思いまして?」


 グラインドクローを発射している彼女の指が微細に揺れる。


「むっ!?」


 その揺れは当然ながら指先からグラインドクローに伝わり、そして増幅されてうねる。


「やるな!」


 一度躱したクローがのたうちながら進路を変えたのだ。ジョーは地面に這いずるように倒れ込みながらそれを打ち払い、何とか攻撃をしのいだものの、四方をクローに囲まれてしまった。


「これで分かっていただけたかしら?」


「ああ、ずいぶんと工夫してきたみたいだな」


 バイザーの奥でジョーがにやりと笑みを見せると、すべてのグラインドクローが彼女の指もとに戻った。


「ジョー、怪我はない? 味方どうしで、手加減ってものを知らないの? 乳に栄養が取られて脳が未発達なんじゃない?」


「いや……」


 ジョーはゆっくりと立ち上がりながらミカを諫める。


「カッターの()()の部分を当てるようにして、最低限の手加減はしていたようだ。なかなかやる」


「ちなみに、あのまま戦ったら私、勝てていたかしら?」


「どうかな?」


 静かにジョーは答える。


「戦いが続けば、俺はグラインドクローを掴んで、巻き取って無理やり距離を詰めるつもりだった……しかし、そう簡単にさせてもらえるとは思えないな。以前とは何かが違う」


「あら、わかりまして?」


 エポナは満面の笑みを浮かべて高笑いをダンジョンの中に響かせる。


「実は私、大口のスポンサーが付きましたのよ。その資金力で兵装自体は変えていませんが、反射速度と出力を大幅に上げることができましたの」


:やはりか……前よりも乳の迫力が違うと思ったぜ


:乳はかんけーねーだろ


:大手はやっぱり地力が違うわな


 以前にジョー達は秋葉原のショップでダンジョンからの出土品を見ている。当然ああいった店はあそこだけではない。ソフトウェアのバージョンアップだけでも兵装の最適化はなされるし、それだけではない。


 以前にジョーが内田レンから聞いた話、マイナンバーカードと紐づけた口座の残高によって兵装がパワーアップされるという機能もあるのだ。金は力なり。


「なるほど、これは我々も負けていられんな」


 突如としてアキラが会話に割り込んできた。


「我々にも、『いいね』評価がもらえたりチャンネル登録によって広告収入が入るのだがなあ。まさか三連休で見に来てくれている人たちの中にチャンネル登録せずに見ている人がいるとは思えないが……そして投げ銭をもらえればより強い力を得て、ドグマどもなど一ひねりにできるのだがなあ!!」


:アピール下手か


:ほらよ¥140 ジュースでも飲め


「お~ほっほっほっほ、それではごめんあそばせ。この三連休、ダンジョン攻略に乗り出しているヒーローも多いですわ。出し抜かれないように注意することですわね」


 ひとしきり高笑いを決めると、エルヴェイティの一団は去っていった。相変わらず声量も含めて嵐のような女であった。しかし、確認するまでもなくやはり三連休という事でダンジョンの攻略に乗り出している人間が多いようだ。


「……金か」


 何気なく独り言をつぶやきながらジョーが自らの右腕を見る。


「なぜ、金で兵装がパワーアップするんだろうな……全く理解できん」


 技術的な云々ではない。なぜそんな仕様にしたのかが心の底から理解できない、といった風である。


 実際日本人は他国の人間に比べて()()を忌むきらいがある。清貧と正しさが強く紐付けられ、金を「(よこし)まなもの」と考える性質が強いのだ。


「人を、平等に評価するのは難しい」


 小さな声でミカが彼の自問に答える。


「主観の入らない、人を評価する指標を考えたとき、必ずしも最善ではないけど、それよりも優れたものが無いからじゃないかしら」


 今は分からずとも、いずれ分かる時も来よう。いずれにしろ、その仕組みがあろうとなかろうと、ヒーローは進むだけである。

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