クローンジョー
「田中くぅ~ん♡ すごいもの見たくなぁい?」
「何ですか飯垣博士。エロ漫画の導入ですか?」
「ちょ……ガチで引くんだけど」
「それで、なんなんですか? どうせヨーグルトにサブレ突っ込んだらチーズケーキになったとか、そんなくだらない話でしょう」
ふふん、と鼻で笑ってから飯垣博士は人差し指を左右に振る。
「そんなくだらないもののわけないじゃなぁい♡ 本当に発想がざこなんだから♡ そんなんだから怪人デザインの主導権Ⅱ研にとられちゃうのよ♡」
「唐突な自分ディスり入りましたね」
飯垣博士は涙をぬぐいながらⅠ研の扉を開き、田中研究員が入室するとすぐに締めた。若干まだ「エロ漫画の導入みたいだな」と感じながらも田中が入室すると、その部屋の中で想像だに及ばなかったものを見たのだ。
「ぶ、部外者……いや、この顔、見たことある」
LEDで照らされた研究室の中で見たのは、まだ年若い少年であった。メガデスの関係者ではない。しかし見覚えがある。
「こいつ、ケイオスレッド! なんでここに!? ……まさか博士、メガデスを裏切る気じゃあ」
「ふっふっふ。いいリアクションするわねぇ♡ でも残念♡」
「俺の名は武石ジョー。メガデスによって生み出されたクローン人間だ」
「ええええ!?」
それまで彫像のように動かなかったジョーが突如として力強く言い放つと、田中は驚いて転びそうなほどにバランスを崩した。
「クローン人間? ていうかこないだの偽レッドですよね!? やっぱりクローンだったんですか!」
「こないだの?」
驚き、狼狽する田中の様子に大いに満足して鼻の穴を膨らませていた飯垣博士が疑問符を浮かべる。田中はすぐにそれに気づいて説明を始めた。
「飯垣博士、キャプテンケイオスの配信見てないんですか? っていうかその時ってドローンで中継して見てたと思うんですけど。ティラノサウルスタンクの時ですよ」
彼の話を聞いても疑問符は消えない。
確かにティラノサウルタンクがキャプテンケイオスと戦った時、飯垣博士はその様子をドローンで監視していた。しかし怪獣が敗れたときにすぐに中継を切ってしまったのでその後起こったことについては知らなかったのだ。
「あの後ですね、突如としてケイオスレッドの偽物が現れてとんでもないことになったんですよ」
「はえ~」
まるで知らない情報。それを部下で年上の男性から仕入れ、そして自分の持っている情報と紐付け直す。
「それにしても、僕の知らない間にこんなものが作られていたなんて。これⅡ研が作ったんですか?」
「はぁ♡ マヂで言ってんの? 私が作ったに決まってんじゃない♡」
「は?」
時間停止する田中。
「私が秘密裏に開発していたケイオスレッドのクローンが脱走して本物のケイオスレッドとコンタクトをとっちゃったみたいね♡ まっ、お披露目の順序が入れ替わっちゃったけど、インパクトはあったんじゃない♡」
「え、いやいや……は?」
田中は全く理解の範疇を超えた話で飲み込むのに時間がかかっているようである。十分に時間をかけ、ゆっくりと咀嚼してから問いかける。
「えっとですねえ、僕は全然知らないんですけど。同じ研究室で毎日顔を合わせてるのに」
「だって秘密裏に開発してたんだもん♡」
秘密裏に行われたとしてもだ。人一人を生み出すような実験が全く同僚にも知られずに行われるなどと言う事があろうか。倫理上の問題があったとしてもだ。クローン人間が作られたなどという話自体が聞いたことがないのに。
しかし、鉄壁。
これでもかと無い胸を張って自慢気に語る飯垣博士はこの程度では突き崩せそうにない。
「予算! クローン人間を作る予算なんて確保してないはずですけど。予算もないのに人間一人作り出せるわけないでしょう。犬や猫じゃないんですから」
「その質問ってセクハラ?」
予想外のところからの反撃。飯垣博士は「人を作る」というところだけに標的を絞って攻撃してきた。
「私も記憶があいまいだから細かいところは覚えてないのよね♡ でもこうやってクローン人間が目の前にいる!」
バチコーンと飯垣博士がジョーのケツを力いっぱい叩く。本当は背中を叩きたかったのだが、同年代の少女と比べても背が低いためこうなった。
「このケイオスダークレッドが動かぬ証拠よ!」
「いや……でも」
「じゃあなに!? 田中くんは私がどっかから人をさらってきてそいつにクローンジョーを名乗らせてるとでもいうの?」
それは非現実的だ。ドッキリでもなければ。
「武石ジョーに偶然顔も背格好もチョーそっくりな人間がたまたまいて、そいつが『自分は武石ジョーのクローンだ』と思い込んでるとでもいうの!?」
非現実的だ。
世界には自分と顔のそっくりな人間が三人はいるとはよくいうが。これほどまでに全く同じ顔と身体的特徴で、しかも名前も同じ武石ジョーだなどと言う事が果たして偶然起こりうるだろうか。
はっきりいってあり得ない。
そんなご都合主義、なろう小説でもなければあり得ない。いや、いくら荒唐無稽でしょうもない内容のなろう小説でもこんな事はあり得ないだろう。読者がついてこられないからだ。
「俺は、クローン武石ジョーだ!!」
そして本人もbotのように繰り返しこう言っているのだ。これはもう疑いようがない!
「私ね、彼にケイオスダークレッドの兵装をつけさせるわ」
説明しよう! ケイオスダークレッドとは、メガデスがキャプテンケイオスに対抗するため、ケイオスレッドの兵装『グルナヴェ』を独自に調査し、その能力をコピーしたものである。
「たしかグルナヴェとかいう……その予算は知ってます。誰に使わせるのか謎でしたが、まさかこのために開発を?」
「そうよ♡ 適当な人がいなければ田中くんに着せようと思ってたけど」
「やめてください」
「メガデスの科学力を結集したグルナヴェⅡに、同じ身体能力を持ったクローンジョー。もはや負ける道理がないじゃん♡」
研究室に鳴り響くメスガキ高笑い! もはや勝利を確信している!
「俺を生み出してくれて、ありがとう。飯垣博士」
クローンジョーの瞳に、決意の炎が宿る。
「俺は、奴を、武石ジョーを倒して『本物』に成り代わる!!」




