鏡写し
「なんで俺の偽物がいる! 何企んでやがる!?」
問いかけはするものの、誰一人としてその答えを持ち合わせていないのだ。ジョーも、ミカも、アキラも、そして内田レンも。誰も分からない。
「偽物? 俺は俺だ。お前の方こそ何者だ」
:どういうことなん? 生き別れた双子の兄弟とか?
「俺に男の兄弟などいない。しかも双子だと?」
珍しくジョーがコメントに反応する。しかしやはり心当たりはない。
:ものすごい速さで動いて二人に見せてるんじゃね?
:なんか敵の能力とか? ドッペルゲンガーみたいな
:そういえば兵装って生体認証とかあるんじゃなかった?
:おお! それでどっちがホンモノか分かるじゃん
「生体認証? そんなものがあるのか、ブルー!」
「……え? 生……なに?」
:なんで知らねんだよ!
:視聴者に教えられてんじゃねえよ
:盗難や鹵獲防止のために生体情報を登録して本人以外が使えなくしてんだよ
「指示厨は黙っていてくれたまえ。当然知っている」
:うそつけ
:パソコン開いて今調べてんじゃねーか
「ふむ……」
タフノートを開いて何か入力をしているアキラ。おそらくはネットで何かを調べているのだろう。
「生体認証かっこせいたいにんしょう、かっことじとは、バイオメトリックかっこばいおめとりっくかっことじ、認証あるいはバイオメトリクスかっこばいおめとりくすかっことじ認証とも呼ばれ、人間の身体的特徴かっこ生体器官かっことじや行動的特徴の情報を用いて行う個人認証の技術やプロセスである。注いち」
:wikiの内容丸写しじゃねーか
:かっことじまで読んでんじゃねえよ
:注1とかまで読んでなんかおかしいとか思わねえのか
「つまり分かりやすく言うと、絶対に間違えない本人かどうかわかるシステムが搭載されていると言う事だ」
:分かりやすすぎる……
:さっさと確認しろ
「つまり兵装『グルナヴェ』を装備している時点でジョーは偽物ではないという事だ。念のため確認してみよう。グルナヴェ! ジョーの生体情報をチェックしろ!」
『はい? 生体情報?』
電子音声のような声があたりに響く。しかし、なんとも頼りない声色である。
『登録されてませんが』
:兵装までポンコツなのかよ使えねーな
:認証登録せず今まで使ってたのかよ
:ちゃんとチュートリアルしてやれよ……
:取説読まないタイプだな
結局、話は何も進まなかった。分かったことは、何一つない。
「敵が作った、クローンではないの?」
「クローン?」
もし全く同じ遺伝子を持つクローンと言う事であれば、外見が全く同じことも説明はつく。メガデスはキャプテンケイオスをたいへん危険視していることはすでに分かっている。クローンなどの方法で対策をとってくることは、可能かどうかは置いておいて、理解は出来る。
「ま、待て。俺がクローンだと? 俺にははっきりと、今までの人生の記憶も、ヒーローとして活動してきた記憶もある。これが嘘だっていうのか」
「ふん、口では何とでもいえるさ」
アキラが一歩前に出て不敵な笑みを浮かべる。どうやら彼に何か考えがあるようだ。
「本当に記憶があるのか? 例えば交通事故にあう前の日、君と私は夕食を共にしたが、何を食べたか覚えているか?」
「オムライスだ!」
もう一人のジョー、もう分かりづらいのでジョー2と表記するが、彼がほとんど間を置かずに即答すると、沈黙の時が流れた。
どうなのか。この答えは正しいのか。もし彼の言うメニューがアキラの記憶と違っていれば、ジョー2は間違いなく偽物だと言う事になる。
「お、オムライス……だと」
アキラの顔が青ざめ、額には冷や汗が浮かんでいる。これは、まさか記憶と合っていると言う事だろうか。だとすれば、彼らは今まで偽物のジョーとともに戦っていたことになる。
「オムライス? クッ……こんなことなら答えの分かる問題を出すべきだった」
:自分が覚えてねーのかよ!
:じゃあなんで質問したんだよ!
:死ねお前もう
非難轟々。それもむべなるかな。結局時間の無駄遣いでしかなかった。膠着した事態の中、ジョー2が憤怒の形相で前に出る。
「ごちゃごちゃ細かいこと言っても水掛け論。実力で分からせてやる」
殺気を纏う。
「俺は兵装を着用している。勝ち目はないぞ。それでもやるのか」
「お前は勝てる確信がある時しか戦わないのか? それがヒーローと言えるか?」
ニヤリとジョー1が笑みを見せる。
「着装解除!!」
その時、彼は突如として自分の兵装をすべて解除した。体を守っていた外皮ははじけ飛び、待機時のトランクケースの形態に戻る。
「その意気や良し」
二人が、構えをとる。外見だけでなく、その身のこなしはまさしく鏡写しの如し。
ジョー1はいつも通り慎重に距離を詰める。しかし、ここからの二人の動きは対照的であった。
一気に近づいて力の限り拳を振り回すジョー2に対し、ジョー1は決して相手の射程距離には入らずに遠間から先端を奔らせるようなローキックで相手の動きを制御し続ける。怪人ノースフィストと戦った時と同じだ。
「ちっ、逃げ回りやがって。それがヒーローの戦い方か!」
いらだちを隠せないジョー2ではあるが、これこそがヒーローの戦い方ともいえる。強さや力……人々に希望を与えることもヒーローの仕事だろう。だが何よりも、ヒーローとは「負けてはいけない」のだ。
そして、逃げ回っているだけではない。遅効性の毒のように、ジョー1の攻撃は確実にジョー2を蝕んでいる。ジョー1も突如として兵装解除した一般人同士の戦いを見せられる羽目になった視聴者も、それに気づいている。
「決めてやる!」
このままでは埒が明かないと考えたのか、ジョー2がスタンスを大きく取り、背中を見せるほどに体を捻転して右拳を引く。
「あの構えは、まさか」
:知っているのか雷電
:ブルーが急に解説キャラに……
:俺は古参だから知ってる
「メガスマッシュの構え」
だが、ジョー1は一切警戒することなく間合いに入っていく。ジョー1はその技を見たことがないのだ。どんな技なのかも知らない。
「メガスマーッシュッ!!」
だが結果はあっけないものであった。
「ぅ……お……」
無警戒に間合いに入ろうとしているように見えたジョー1は実際には直前で動きを止め、ジョー2の攻撃を誘発した。
予備動作だけで、ジョー2が何をしようとしているのかも、攻撃のタイミングも、すべてが明白であった。
正拳突きの間合いの外からジョー1の必殺の左中段廻し蹴りが右腹部にめり込む。肝臓を直撃した衝撃はジョー2の体を麻痺せしめ、呼吸を止め、言葉を発することもできずにその場にうずくまることしかできなくなったのだ。
「どちらがクローンだろうと、俺は自分自身の正義のために戦う。それだけだ」




