拉致
「で、急にこれはどういうことなんスか?」
所沢市の市街にある雑居ビル。
「あなた、キャプテンケイオスへの取材をしたがっていたわね」
キャプテンケイオスのアジトのあるビルの一室。そこにいるのはケイオスピンクこと杉山ミカと、レッドこと武石ジョー。そして部外者の鈴木リン。ミカとジョーはヒーローの兵装を身につけた状態である。
「ということは、やっぱり、武石君はケイオスレッドだったんスね」
武石ジョーは、腕組みをしたまま否定も肯定もしない。今更否定のしようもない。しかし肯定もしない。インタビューを受けるにしても、それは「ケイオスレッド」としてであり、武石ジョーは関係ない。つまりそういうことだ。リンはいたずらにヒーローの私生活を暴いておもちゃにするような人間ではないと信じている。
「武石君は、なんでヒーローになったんスか……? どういう経緯で」
「正直に言うと」
ジョーが腕組みをしたまま静かに答え始める。
「記憶喪失になってて、その辺は全く分からん。というか、今も自分がヒーローだなんていう自覚も、あまりないんだ」
リンは、真剣に彼の話を聞きながら、スマホのレコーダーを起動した。
「武……レッドさんはそんなことで、なんで自分の命を危険にさらしてまでヒーローなんかやってるんスか。あんまり……危険な事、して欲しくない、ッス」
「ちょっと! 質問に私情が入ってない!?」
「気のせいス」
ジョーは腕組みを解き、窓から外の景色を見ながらリンの質問に答える。窓の外には、繁華街の道を歩く人々の生活がある。
「記憶はなくても、自分が『力』を持ってるなら、それを持ってない人のために使うべきだと思った。お前だって、誰か困ってる人がいて、自分に助けられる能力があるなら、そうするんじゃないか?」
「それは……確かにそうスけど、レッドさんのやってることは自分に命の危険があるワケじゃないスか……それは、一緒じゃないスよ」
いつの間にかジョーの主張に対してリンが食い下がる、という構図になっている。もはやこれはインタビューの体を成していないのであるが、おそらくそのことに本人すら気づいていないのだろう。
「死ぬかもしれない戦いなんか……するべきじゃないッスよ……」
「俺には、あこがれていたヒーローがいた」
ジョーは語りだす。
「まだばかうけが不時着して間もなかったころ、警察や自衛隊の武器が通じないドグマを相手に独自の装備で市民を守り、ばかうけの内部にまで入って戦ってた人達がいたよな。まだ敵の強さも、倒す方法も何もわかってなかった時代に」
今から十年以上も昔のこと。ジョーもリンもまだ未就学児童のころの話である。ミカは中学生くらいだが。
「あの人達は勝つ算段があったから戦ったのか? 違うだろう。俺は……自分ではまだヒーローになんかなれてないと思ってる。いつかあんなヒーローになりたいから、俺は戦う」
「武石君……」
ジョーの強い決意。それは彼の「内心」の問題であり、周りの人間が不合理だ危険だと口を出す問題ではないのだということをきっちりと示した。
「ストップ」
というところでストップが入った。
「何か、ラブコメの雰囲気になりそうな気配を検知した。真面目にインタビューをして」
「ま、真面目にしてるッスけど」
「全然信用できない。あなたはインタビューの機会に乗じて自分の汚い肉欲を満たそうと考えている。違う?」
違う。
が、ミカはジョーを押しのけて鈴木リンの正面に出た。
「ここから先のインタビューには私が答える。オーケイ?」
「はぁ、いいッスけど。別にレッドに話聞けたからもう別に聞く内容も……ああ、じゃああれッスね。ピンクさんはなんでヒーローに?」
正直もう「全然興味ないけど一応聞くわ」くらいのテンションでリンが質問をする。しかしミカはリンの態度などは特に気にしていないようである。
「よく聞いてくれた。私がヒーローになったのは、もう運命だったといってもいい。天性の素質があった。そもそもキャプテンケイオスは私が始め……」
スマホのレコーダーを終了し、SNSを立ち上げてリラックスした雰囲気でリンはインタビューを続ける。
「そッスかー、そういや今回なんで急にインタビュー受けてくれたんスか? 今までずっと無視だったのに」
適当な椅子に腰を掛け、足を組みながらスマホをいじる。どうやらもはや興味を失っているようであるが、ミカはレコーダーがすでに止まっていることにも気づいていないようだ。
「ああ、そのことね。今回はあなたから有用な情報を得られたから。市民のご協力に感謝する」
「ん? なんのことスか?」
有用な情報など提供した思いはないし、協力などもした覚えがない。
「謙遜しないで。あなたが怪人の情報を出してくれたおかげで彼らの犯罪を未然に防ぐことができた。本当に感謝している」
そう言われてもリンには全く思い当たるところがない。スマホをカバンにしまって本格的に思い出そうとして見るものの、やはり何のことか思い出せないのだ。
「ピンク、どういうことなんだ? 俺にも何のことなのか全く分からないが」
「またまた。そうやって二人して私を担ごうとして」
ミカはリンの言葉に答えず、薄ら笑いを浮かべながら部屋の隅に歩いていき、部屋の隅にあった掃除用具入れのロッカーを開けた。
どさり、人間大の大きな荷物が、いや、人間だ。両手足を縛られ、顔は紙袋を被せられて目隠しをされている、人間だ。身動きが取れないようだが、もぞもぞと体を動かしている。
「ッ……」
リンが、悲鳴を上げそうになって、声を飲み込む。
紙袋を被せられているので誰かは分からないが、服装から見るとどうやらみなと同じ聖一色学園の女子生徒のようである。
「な……何してん、スか」
小さな、震える声で、尋ねる。何が起こっているのかは分からない。しかし確実に言えることが一つ。犯罪に巻き込まれたのだ。この頭のイカれた女の。
「あなたが教えてくれたんじゃない。相藤ナツキは怪人だって」




