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FAKE HERO  作者: 月江堂
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手作り弁当

「おいしい? ジョー君」


「お、おいし……」


 ぼそりとした食感。雑穀米は食べたことがあるものの、まさか雑穀だけで食わされる羽目になるとは思わなんだ。


 おかずを食べてみる。苦みとえぐみが、隠しきれていない。短時間ではアク抜きも不十分だったのだろう。えぐみというよりは、もはやまずみ。


「ん……うぉぇ」


「うえ?」


「あ、いや、おいしいです」


 本来ならば男女問わず敬愛の情を集めている王子様系デカパイボーイッシュ娘、相藤ナツキの手作り弁当を食べるジョーに嫉妬と怨嗟の炎が巻き上がっているはずであったが、ふたを開けた瞬間からそれは一気に冷え込み、発火点を下回った。


「よかったぁ。他人にお弁当作るのなんて初めてだったから、心配だったんだ。さて、ボクもお弁当食べようかな」


 ふわりと良い香りがする。鶏の照り焼きに卵焼き、ほうれん草のおひたしにブロッコリー。そして、白い米(ギンシャリ)


 知識として知ってはいても、江戸や明治の庶民の白米への憧憬はジョーには今まで分からなかったが、今分かった。


 野菜もだ。


 おいしく食べられるために品種改良を繰り返され、研鑽を重ねてきた農家の作る野菜が、そこいらで勝手に生えてきて、犬の小便ひっかぶりながら成長している野草と比べてどれほどにうまいものか。そのありがたみを理解した。農家に感謝。


(カエルの肉が一番うまい……)


 一口ずつ口に運ぶたび、栄養を摂取しているのに顔がやつれていくジョー。


「あ、よかったらボクのも少し食べるかい?」


 ナツキが卵焼きを箸でつまんで差し出す。


 決して彼女が料理が下手なわけではないのだ。それがはっきりとわかるほどに、その卵焼きは黄金色(こがねいろ)に輝き、芳醇な香りを纏っていた。


「それはよくない」


 しかし無情にもミカの小さな手が二人の間に入る。


「さっきジョーが言った通り、それはあなたが食べるべき弁当。それを食べることはジョーの心意気が踏みにじられることになる」


 余計なことを。とは口が裂けてもジョーは言えない。自分が言ったことなのだから。


 いずれにしろ「あ~ん」が阻止されて安堵した生徒も多かっただろう。その後はひたすら無言でぼそぼそとジョーは弁当を食べ切った。快挙である。


「お気に召したようでよかった。よかったらまた作ってくるよ」


「もう二度と……いえ、その」


 ジョーにいつもの歯切れの良さがない。何かあったのだろうか?


「……なぜ、弁当を? 俺は、あなたに施しを受ける理由なんてない」


 そこだ。野草弁当の圧に押されて流してしまったが、そもそもこのお弁当イベントの意味が分からない。彼の言葉のまま。施しを受ける理由がないのだ。


 というか無いということにしたい。こんな弁当を明日からも持って来られたら迷惑千万といったところである。


「その」


 少し頬を赤らめながら、ナツキは短い髪の先を弄ぶように触り、目をそらし、答える。


「君に興味が湧いたから……って理由じゃ、ダメかな」


 ダメ。


 そんなあやふやな理由であんな逆飯テロをされたのではたまったものではない。


「あのッスねぇ」


 そんなやり取りをしているときに助け船、ではなかった、会話に割り込む者があった。


「センパイ何やってんスか。そこ私の席なんスけど」


 総菜パンと牛乳を手に、鈴木リンが戻ってきたのだ。ナツキが座っていたのはジョーの前、リンの椅子である。


「ああっ、すまない。すぐにどくから……」


 もはやナツキの方の弁当も空になっており、何かこみあげてくるものを涙目で我慢しているジョーのもとにある弁当箱とともにそれを片付け、彼女はすぐに席を立った。


「じゃあね、ジョー君。また明日」


 明日も来るのか。


 勘弁してくれ。いやまともな弁当なら彼もそこまでは思わないのであるが。


「ちょっと待つッス」


 しかしそれに待ったをかけたのは鈴木リンであった。地味な外見の彼女であるが、いろいろと外部の組織や施設に新聞部の活動で取材に行くことが多く、実は非常に度胸がある。


「センパイ、今年大学受験スよね? それも国立大の一般枠」


「あっ、うん」


 なぜそんなことまで知っているのだ、とは思うが顔には出さない。なんとなく、形勢が悪い事だけは分かるのだ。


「年明けには共通テスト、それが終わったらすぐ国立前期。野草なんて摘んでる場合ッスか」


「いや、あの……はい」


「センパイが三年間積み上げてきたものの、集大成なんじゃないんスか? 筑波大、行きたいんスよね?」


「……はい」


 なんだかだんだん先生と話しているような気になってきた。志望校まで把握されている。


「下級生と遊んでたまに息抜きするのもいいスけど、学生の本文を忘れたらいけないスよ」


「ハイ」


「じゃあもう、行っていいスよ」


「ハイ」


 すっかり意気消沈してとぼとぼと帰っていくその背中に、杉山ミカは何かデジャヴのようなものを感じたが、その時は気のせいだろうと考えた。


「ったく、油断も隙もないスね」


 舌打ちをしてから、パンの包みを開封してジョーの方に向かって座り、昼食をようやく食べ始める鈴木リン。


「油断?」


「あのあばずれスよ。朝初めて武石君に会ったはずなのに、休み時間利用してその日のうちに野草を集めて手作り弁当用意するとか、さすがデキる女はフットワークが軽いスね」


 そのフットワークの軽さのせいでジョーは甚大な被害を受けたのである。これが春先であればもう少しましなものもあったのかもしれないが、正直あんな弁当は二度と食べたくないのが正直な気持ちである。


「あの女、何とかして排除できないスかね……」


「それには私も同意」


「待ってくれ。排除? なぜそんなことを」


 状況を全く把握していないようなジョーの言葉にリンとミカは大きなため息をつく。


「なんも分かってないスね、この鈍感男は」


「自分の魅力に気づいてない。罪な男」


 そんなことを言われても、なにも心当たりがない。なぜリンとミカは相藤ナツキを排除しようとするのか。


「なぜそんなに、相藤先輩を警戒しているんだ」


「ん~……」


 どう答えたらいいものかと、考え込むリン。


「センパイの正体はッスね、実は怪人なんス」

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