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FAKE HERO  作者: 月江堂
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万事仲良く

「ひぅ……いッ……ごめ、なさ……」


 大声を出されたショックで杉山ミカは大粒の涙をぽろぽろとこぼす。普段ふてぶてしい性格をしているが、どうやら強く出られるとびっくりしてショック状態になってしまうようだ。


「あれ、相藤先輩じゃないスか。何があったんスか」


 鈴木リンはどうやら今になってやっと自分の押さえている人物が多くの生徒が憧れる王子様系女子、相藤ナツキだと気づいたようである。


「あっ、いや、その、なんというか」


 慌てる相藤ナツキ。ようやく今になって自分が何をしでかしてしまったか分かったようだ。


 まず第一に自分がメガデスの怪人、ビーバークサリガマだということだけはバレてはいけない。次に周りにミーハーだとも思われたくない。


 そう考えた結果出した「杉山ミカに近づいた不自然でない理由」がぶつかったことへの因縁づけであった。きっと彼女もパニックに陥っていたのだ。


「だいたい分かるッスよ。どうせ杉山さんがまた失礼な事言ったんじゃないスか? メスブタとか」


「それ……言った、けど……」


「やっぱ言ってんじゃないスか」


「待ってくれ、違うんだ。ボクは」


「ひぃッ、ゆるして」


 どうやらミカに強い「恐怖」が刷り込まれてしまったようで、もはやナツキの言葉は届かないようである。涙を流しながらジョーに縋りついている。


 窮地を脱するために思わずとってしまった行動であるが、ここまでの事態になるとは思わなかった。周りの生徒もひそひそと話をしている。


「相藤先輩があんなオラつき方するなんて」

「うわ~、幻滅」

「二十五歳児を泣かしたんだって」


 ガラガラと、足元が崩れていく感覚。三年間、努力に努力を重ねて築き上げてきたものが、壊れていく。


「ま、待って、違うんだ。軽い冗談のつもりで……」


「待ってくれ、相藤先輩は悪くない。ここは平和的解決を望む」


 そこで助け舟を出したのは武石ジョーであった。敵を暴力で打ちのめすだけがヒーローではない。


「いろいろ思うところはあると思うが、ここはひとつ水に流してほしい」


 ジョーはそのままミカの手とナツキの手を引っ張って重ね合わせ、若干無理やりではあるが握手をさせた。ミカの手は、少し湿度が高かった。


「ごめんね」


「いいよ」


「幼稚園児とかがよくやるあれッスね」


「仲良く。万事仲良く」


 鼻をすするミカ。ようやく気持ちが落ち着いたようである。周りの生徒のざわつきも収まってきた。大事ではなかったのだ、と理解し、ホームルームの時間も近いためか、それぞれの教室へと戻っていく。


 とにかく、事なきを得たのだ。ナツキは、自信の正体も知られることなく、周囲の評判も落とさずにこの場が納められたことに、ほっと一息安堵する。


「ありがとう、ジョー君、って言ったっけ?」


「武石ジョーだ。俺は何もしてない。ミカが無礼を謝って、あんたがそれを許した。それだけだ」


「おもしれー男……」


「ナツキ! いつまで下級生達と遊んでんの。ホームルームそろそろ始まるよ」


「おもしれー、おもしれー……」


 何やら熱っぽい視線をジョーに送りながら、クラスメイトに引っ張られて消えていった。まるで嵐が来たかのような鮮烈な衝撃の上級生であった。


「何だったんスかね。あれスかね? 三年生って今の時期受験で大変だから、精神的にキてるんかもしれないスね」


「あのメスブタ、私のジョーに色目使ってやがった……」


 ミカはあまり反省してはいないようである。表面上は大変恐縮していたが、のど元過ぎればなんとやら、だ。


 さてその日、昼休みの時間に少し周りの興味を引く事件が起こった。


「武石ジョー君、君のためにお弁当を作ってきたんだ。一緒に食べないかい?」


 ジョーは普段、弁当などは持ってきておらず、購買でパンを買って済ましている。その情報はさほど労せずとも手に入るものであり、本人としては誰かが弁当を作ってきてくれた、などといえばまさしく渡りに船のうれしい提案なのであるが、持ってきた人物が問題だ。


「相藤、先輩……」


 朝あったばかりの相藤ナツキその人。同じく購買でパンを買うために先に席を立ったジョーの前の席、空になっている鈴木リンの席に座って彼の前に弁当を二つ出した。当然自分の分と、ジョーの分である。


 此は如何なることか。


 ジョーに選択肢などない。まだ昼食を手に入れていないのだ。そこへ好意による手作りの弁当を持ってきたとなればこれを袖にするのは非常に難しいし、まず理由がない。


 そして周囲の視線も痛い。言い方は古臭いが学園のアイドルである相藤ナツキの手作り弁当を袖にするなどということができようか。いやできまい。


 だが、嫉妬の視線のほかにもう一つ、不審の下りあり。


 いったいこの弁当、いつ作ったというのだ。ジョーとナツキは今朝会ったのが初対面であったはず。ならこの弁当は一体どこから湧いて出てきたというのだ。


「あの、すまないが、もしあなたの弁当からのおすそ分けなら貰うわけにはいかない。それはあなたが食べるべきものだし、作った親御さんも……」


「大丈夫。お弁当は自分で作ってるし、食材は野草から食べられるものを探して採取しているから」


「え……」


 弁当のふたを開ける。


 緑。


 冬のこの時期にどうやって集めたのか。様々な野草がてんぷらやおひたしになっている。


「お弁当は模型部のプラ板を加工して作ってみたんだ。さすがにイネは生えてなかったけどキビを見つけたから炊いてみたよ」


 全てが自給自足。


「この……鶏肉に見えるものは」


「解剖実習用のカエル」


 武石ジョー、生まれて以来最大のピンチである。

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