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FAKE HERO  作者: 月江堂
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王子様系デカパイボーイッシュ娘

「おはようございます、相藤先輩」


「ああ、おはよう」


 聖一色学園高校にさわやかな若者の挨拶の声がこだまする。


「ナツキ、おはよう」


「おはよう。今日もいい天気だね」


 相藤ナツキと呼ばれた少女。制服と豊満な胸から女性であることは分かるが、多くの男子生徒よりも高い身長に少年のような短い髪はその性別とは全く正反対の属性を想起させる。


「相変わらず後輩にモテてるみたいだねえ、()()()


「や、やめてくれないか。ボクも一応女の子なんだけど?」


 クラスメイトにからかわれて苦笑する相藤なつき。そんな時、視界の端に小さな影が見えた。


「おっと、失礼」


「…………」


 小柄な少女だ。相藤ナツキよりは二〇センチほども身長が低いだろうか。病的なほどに青白い肌に、ところどころ包帯を巻いている。


 見た目には、無口で控えめな、病弱そうな少女といったところであるが、しかし、おそらくは上級生であろう相藤ナツキに謝りもせずにちらりと視線をやっただけで、すたすたと通り過ぎて行った。


 ただ街を歩いているだけで男も女もみな振り返る。そんな日常を送っている彼女からすれば、無礼ではあるが新鮮な対応であった。


「何あの女。相藤先輩にぶつかっといて挨拶もなしなんて」


「最近話題になってる二年の子だ。かかわらない方がいいよ」


 別に取り巻きというわけではないのだが、周りに従者のように付き従う少女たちがひそひそと話し合う。周りにちやほやされるのは気分がいいが、こういった攻撃性には辟易とする。


「杏、あの子って有名な子なの?」


「ああ、なんかヒーローやってるとかいう転校生……」


「ヒーロー?」


「キャプテンケイオスとかいうの。知らない?」


 ナツキの瞳孔が猫のように広がる。それはまさしく獲物を狙う獣の瞳だ。


「へぇ、あの子が」


「ちょとナツキ? 変な噂がある子だからあんま近づかない方がいいよ」


「ちょっと挨拶するだけだよ。杏は先に教室に行ってて」


 好奇心が半分。そしてもう半分は全く別の目的。先ほどは無視されたものの、自信に満ち溢れた歩みで包帯の少女に近づく。


「ねえきみ、ちょっといいかな?」


「おはよう、ジョー」


 再度無視。


(おもしれー女!)


 周囲の状況から明らかに自分に話しかけていることは分かっていたはず。それにもかかわらずクラスメイトへの挨拶を優先した。ここまで自分が袖にされたのは初めてである。


「おはようミカ。なんかその人に話しかけられてないか?」


 ナイスアシスト。ナツキは心の中でガッツポーズをとる。


「知らない人。教室に行こう」


「いや、知らない人かもしれないが、話しかけられてるんだろう?」


 ナイス。話の分かる男。


「知らない人に話しかけられてもついて行っちゃいけないといわれている」


 二十五歳の女性の発言である。


「それともジョー、あなたの知り合い? このメスブタは」


「あんまり他人のことを気軽にメスブタとか言うな。この人はな……」


 転校生ならば知らないのは仕方ない。しかしこの男子生徒は知っているだろう。ここまで傷つけられた自尊心をようやく回復させてくれる時が来たか、と安堵する。


「俺も知らん。誰だこの人」


 おもしれー男。


「ミカの知り合いか?」


 そんなわけがあるか。今までの流れを見ていなかったのか。


「同じ学年じゃなさそうだな。今まで見たことない人だし。確かにミカの言う通り急に話しかけてきて怖い……早く教室に行こう」


「同意。教室の中までは追ってこないはず」


 もはやホラー映画のモンスターの扱いである。これにはさすがのナツキもおもしろくなくなってきた。


「ま、待ってくれないか。ボクはただ」


「ミカはヒーローとして顔バレしているから、特に理由もなく寄ってくる人間には十分注意した方がいい」


「鈴木リンの話をしている?」


「してない」


 一旦話が止まり、二人がちらりとナツキの方を見る。ナツキは話しかけようとしたままの姿勢で硬直していた。


「で、結局なんなんだ? 何か用があったんじゃないのか」


「あっ、いや」


 二人の視線はもはや「無関心」から「猜疑心」へと変貌している。ただのミーハーなファンなのか。それとも何か邪な考えがあって寄ってきた人物なのか。何か心当たりがあるわけではないが、しかしそれでも何の理由もなく声をかけてくる人物というのは怪しいものだ。


 一方ナツキの方はまるで当てが外れたといったところだ。


 スポーツ万能で成績も優秀。高い身長に目を引く外見のため教師からも一目置かれる存在であり、まさか学校の中に自分の存在を知らない人がいるとは思ってもみなかった。


 こうしている今も周りの生徒が何かひそひそと話している声が聞こえる。「杉山ミカと知り合いなのか」だとか「ヒーローと知って声をかけたのか」とか「あんなミーハーなところがあるとはショックだ」だとか、そんなところである。


 普通に生活しているだけで周囲の耳目を集める自分が話しかけてみれば、何の問題もなく受け入れられるだろうと高を括っていたのだ。


 さてどうするか。


 何の用で話しかけたことにするのか。そこまで考えていなかった。理由もなく受け入れられると思っていた。


(この三年間で築き上げた、ボクのイメージを毀損することは許されない)


 一瞬の間に嵐のように頭の中に思考が駆け巡る。


「まさかとは思うが、メガデスの関係者だったりしないだろうな」


(知られるわけにはいかない。ボクの正体を)


 そしてなつきは、ミカを追いかけてきて話しかけるという行為における、最も不自然でない最適解にたどり着いた。


「てめえ、人にぶつかっといて挨拶もなしかァ!!」


「!?」


 突如としてミカの胸ぐらをつかみ上げ、大声で怒鳴りつける。


 なるほど。自然だ。


「ちょ、ちょっとちょっと! 何があったんスか! 落ち着いてくださいス!!」


 登校中の鈴木リンが二人の間に割って入った。


 突発的ではあったが、行動に不自然な理由はなかったはず……そう思いながらも自分のとってしまった行動に驚くなつき。


 だがそうしてまでも、彼女には守らねばならないものがあった。


(バレるわけにはいかない)


 自分に言い聞かせるように。


(ボクの正体が、クソダサ怪人ビーバークサリガマだということだけは、絶対に)

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