ビーバークサリガマ
「ゲッゲッゲ、さあ、巻き込まれたくない奴は早くビルから避難しろ! もし、素直に兵装を全て差し出さないなら、こうしてやる」
怪人ビーバークサリガマは大きく口を開き、つるはしのような前歯をビルの外壁に突き立てる。そのままガリガリとせわしなく口を動かし、あっという間に通りに面したビルの外壁を削り取ってしまった。
その間もビルの出入り口からは夥しい数の一般人が脱出していく。
「おいおいマジかよ。俺の店が目当てだと? 商品全部取られたら首括るしかなくなっちまうぜ」
ヒーロー用の兵装を取り扱う店「グラウンド・ゼロ」の店主クラウツは顔をしかめる。
「ゲッゲッゲ、言うことを聞かないならここいら一体のビルを全部刈り倒してスーパー堤防を建設してやる」
それだけの力はある。そう思わせるだけのパフォーマンスを見せた。
「おい内田。あんたたちヒーローチームなんだろ? どうにかできねえのか?」
「窓を開けてくれ」
クラウツが振り向いたとき、すでに三人は兵装を着用していた。クラウツがおそるおそる窓を開けると、ジョーが凄まじい速さでそこから飛び出る。
「ゲッゲッゲ、従わないなら仕方ない。ビルを倒して残骸から兵装を回収……」
「くらえィッ!!」
ジョーの飛び蹴り! しかしビーバークサリガマは股の間から平板状の尻尾を廻し、縦にしてガードした。
怪人が大きくノックバックするとジョーの後ろにミカとアキラが降り立つ。
「ぐっ……貴様は!」
「赤い情熱、ケイオスレッド!」
「冷徹なる頭脳、ケイオスブルー!」
「今年から女子高生、ケイオスピンク!」
「三人揃って! キャプテンケイオス!!」
決まった。町中のため爆発のエフェクトはない。
:おお! すげえタイミング!
:今北産業
:今度はフィールドワークか
直前に飛ばしたミカのドローンカメラにて配信が開始される。休日の昼間に突然始まった配信であるが、もはや一万人以上の登録者がいる大手配信チームである。視聴者数がぐんぐん増えていく。
「ゲッゲッゲ、まさか兵装の調達に来てメガデスの仇敵、キャプテンケイオスまで始末できるとはな」
:こいつもメガデスなんか?
:なんかこう……
:今までと雰囲気が違うというか
確かに視聴者の言う通りではある。今までの怪人、サトリ、ノースフィストと同じ人型ではあるが、ビーバーのつぶらな瞳に大きな顔、突き出した前歯に鎖鎌というマイナーな武器。これまでと少し雰囲気が違う。具体的に言うと、スタイリッシュさがない。華がない。
「気をつけろ、ジョー。AIの解析によると奴はおそらく手に持った鎖鎌と、鋭い歯によって攻撃を仕掛けてくる」
:お前はいつも分かり切ったことしか言わねえな
:マジでお前は何の役に立ってんだ
「確かに今までの奴らとは雰囲気が違うが、いずれにしろ悪事を見逃すつもりはない」
「フン、今までのような雑魚どもと一緒にするなよ」
鎌の柄についている鎖分銅で攻撃を仕掛けてくる。
だが、それこそ館林エポナのグラインドクローと同じように事前に予備動作で攻撃の軌道が分かる。円運動によって連続して攻撃を仕掛けてくるが、やはり何度トライしようともジョーは危なげなく回避する。
:地味だけど、やっぱ強いなこいつ
:でも地味なんだよなあ
だが、回避はしているものの、攻めあぐねている。攻撃の合間に距離を詰めようにもすぐさま次の攻撃が飛んでくるのだ。
たとえうまい事距離を詰められたとして、その先には鋭い鎌が待っている。それをかいくぐって攻撃に転じたとして、先ほどの尻尾の盾と、そして鋭い牙が待っている。
「チッ、隙が無い」
それでも距離を詰めようと、分銅を躱す。いけるか。まずは下段回し蹴りで様子を見よう。そう考えたとき、ビーバーの視線に異様なものを感じた。
「!?」
素早く身をかがめる。頭上を何かがかすめ、空を切り裂く。
まだ伸び切っていないはずの分銅が、こちら側に巻き込むように戻ってきたのだ。
「チッ、今のをよく躱したな」
全く予想していなかったことではないが、やはりただの鎖鎌ではなかった。空中であろうと自在に制御することができるのだ。
しかし、相手の奇襲にこそ活路を見出す。
尋常であれば相手の隠し玉を見せつけられ、一旦距離をとって作戦を立て直すところ。そう考えたからこそビーバークサリガマも無駄口を叩いた。しかしジョーは地面に倒れ込んだ姿勢のまま脛に蹴りを撃ち込む。
さらに立ち上がりながら胴へと右廻し蹴り。異様な感触。すぐにジョーは距離をとる。
「勘の鋭い奴だ。あとコンマ五秒あれば貴様の兵装を引き裂いてやれたものを」
ガチガチと鋭い牙を鳴らす。
:めっちゃ黄色い
:黄色っていうかオレンジ
:なんだあのきたねー歯
「説明しよう」
突如としてアキラが割り込んできた。
「ビーバーの歯が黄色いのは決して歯垢がたまっていて汚いわけではない。ビーバーの歯は人間のようにエナメル質で保護されているわけではなく、さらに強い強度を持つために鉄分によって保護されているのだ」
:くわしい
:ビーバー博士
「また、あれだけ固いものをかじり続けていると当然歯も削れてくるが、齧歯類のご多分に漏れずビーバーの歯もやはり一生伸び続ける。武器を失うことは決してないのだ」
「それはそれとして、やっぱり見た目が汚い」
科学的考察があったとしても、ミカの言う通り、見た目が汚いのは動かない。
「今までの怪人と方向性が違いすぎる。もしかしてメガデスのデザイナーが変わった?」
ミカの言葉に、ひゅんひゅんと振り回していた分銅の手が止まる。ごとりと分銅が落ちる。
確かに今までの怪人と方向性が違うところはある。剛毛の多層構造はジョーの蹴りを受け止めても無傷だったようであり、強固だが、今までの頑強な外皮とは違う。
何よりその外見。愛らしいモフモフの外見に汚い歯がきらりと光る。その両手には鎖鎌。はっきりといってサトリやノースフィストのような恐怖感のある外見に比べると、なんというか、シュールだ。
「はっきり言って、クソダサい」
つぶらな瞳が絶望の色に染まる。
「ビーバークサリガマって……だっっっさ」
:容赦ないなミカカたん
:でもまあだせえのはだせえわ
:今まで見た怪人の中でも頭一つ抜けてダサい
「クソダサ怪人ビーバークサリガマ」
ビーバークサリガマは、くるりと背を向けると、とぼとぼと帰っていった。




