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FAKE HERO  作者: 月江堂
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手繋ぎデート

「ここが秋葉原か」


「ジョー、あなた埼玉なのに秋葉原に来たことないの?」


 元々はパソコンなどのマニアックな電気街、そこから二〇〇〇年頃にはいつのまにかオタクの聖地となり、今現在はそれらが混ざり合い、ラーメン屋、コンカフェなどが点在する、国内外の観光客を広くカバーする非常に混沌としたよくわからない街へと変貌している。


「記憶を失う前に一度一緒に来ているはずだが、覚えていないようだな」


 アキラが眼鏡をくい、と上げる。


「まあ~、今日はちょっと気分転換に遠出して冷やかす感じかねえ。投げ銭は結構入ったけど、広告料はまだだし、うちは金ないからねえ」


 バックヤードで兵装の研究開発をしている内田レンも同行している。チーム、キャプテンケイオスのメンバーが勢揃いである。


「で? 秋葉原にいったい何の用が?」


「なんでも受け入れる、混沌(ケイオス)の街、秋葉原。裏路地に入ると、実は兵装に関するお店もあったりするんだよね」


 内田レンを先頭に三人が付き従うように歩いていく。ふと気が付くと、歩きながらこっそりとジョーの手をミカが握ってきた。


「……? ミカ? なにを」


「アキハバラで二人きりのデート、実績解除」


「二人きり……?」


 困惑した表情で回りを見る。当然二人きりではない。すぐ近くにアキラと内田レンがいる。というか歩きながらもこの異常事態を観察している。


 観察しているが、声はかけない。もう二人ともこの女の異常性には気づいているのだろう。触らぬ神に祟りなし。


 とはいえ、二人きりではない。ほんの二、三歩の距離に二人がいるのだ。


「二人は一メートル以上離れている。別行動。今触れ合ってるここが、これこそが世界のすべてよ」


「手を放し……っ」


 手を引こうとするが、万力の如く締め付ける指力(ゆびぢから)に振りほどくことができない。この小さな体のどこに、こんな力があるというのか。ジョーの手は圧迫されて真っ白である。


「くっ……」


 ミカの手を振りほどくことを諦めたジョーは、代わりに反対側の手でアキラと手を繋ぐ。


 即座にその意図を理解したアキラは、さらに反対側の手を内田レンと繋いだ。


 これで、「四人で秋葉原散策」である。


 日曜の秋葉原の街は多種多様な人でごった返しているものの、手を繋いだ不気味な四人組を避けてモーセの海割りの如く無人空間が現れる。四人は休日の秋葉原をずんずんと進んでいった。


「ところで、前の探索から随分経ってるが、いいのか? こういう配信って間をおかないようにしないとファンが減ると聞いたが」


 歩きながらジョーが素朴な質問を内田レンにぶつける。どうやらジョーも興味ないなりにいろいろと調べては来ているようである。


「身体的な負担がでっかいからね~。一般配信者と同じようなペースで探索してたら体壊しちゃうよ」


 確かにレンの言う通りではある。しかしジョーの言うことにも一理ある。月に一度くらいの配信で視聴者を繋ぎとめることなどできようか。


「大丈夫。探索のない間は、私の配信で間を繋いでいる」


 前回の探索以外のキャプテンケイオスの配信はチェックすらしていなかったジョーは驚く。探索もしていないのにいったい何の配信をしていたのか。もしや自分が知らないところでフィールド(町)で悪党を倒していたのだろうか。


「スク水でストレッチをしたときは投げ銭がすごかった」


 ジョーの表情が恐怖に歪む。二十五歳の成人女性が、スク水を着てストレッチ。いや、割と昨今の動画配信サービスはそんなことが増えているのかもしれない。


 だが、それはヒーローの配信と言えるのだろうか。


「ふふ、ミカ君。いざ探索の配信しようとしたらBANされてる、なんてことは避けてくれよ」


「前回は聖一色学園の制服が届いたのでそれを着て配信をしたらめちゃくちゃ投げ銭が入った」


「それはBANされなくても退学とかになるんじゃないのか」


「制服の時はヘルメットだけ被ってるから大丈夫」


 さて、どうでもいい話を続けていると目当ての建物についたようである。裏路地の怪しげな雑居ビルの二階に入っていく。


「……ん、おう、いらっしゃい」


 まるで物置のような雑然とした陳列。その奥にはキャップを目深にかぶった男がカウンターに足を乗っけて昼寝をしていたようだ。


「内田さんか。最近羽振りがいいらしいじゃねえか」


「いや~、おかげさまでね」


 とても堅気には見えない男である。金髪のジャーヘッド(坊主頭)に首筋にはトカゲのタトゥーが入っている。


「ま、好きに見てくんな。気になるもんがあったら言ってくれ」


 そう言ったまま、店主はまた帽子を目深に被り、椅子に腰かける。どうやらまた昼寝モードに入ったようだ。そしてどうやらレンとは気心の知れた中のようである。


「にしても、ここまで高いものなのか……しかも何の部品なのか全然分からない」


 前回ダンジョンのゴーレムを倒した時に見たような薄いバックパックのような塊。何に使うのかは分からないが、安いものでも五〇万円、どういう基準で金額が高くなるのかは分からないが、高いものは三〇〇万、それが無造作に並べられている。


「これはどういう効果があるんだ?」


「ん~、解析してみないと分からないけど、中にあるナノマシンが今のよりも上等なものだったり特質が違う物なら、インストールすれば戦力アップになるはずだよ」


 いまいち具体的な効果が分からない。そんなものに数百万を出す世界なのである。


 それよりは別の棚にあるいくらか用途の分かる形状のものの方が食指が動いた。それは剣であったり、槍であったり、銃、そしてやはり何に使うのかわからない道具も多数ある。


「怪人やドグマに、銃は効かないんじゃ……」


「そいつには敵のハチソン効果をさらに無効化する弾丸が入ってる。クソかさばる上に装填数はたったの三発だがな」


 原理は分からないがいろいろな効果を持っているようだ。そして実際、ばかうけから手に入れられた装備のほとんどはその原理が解明されていない。


 ただ「こういう入力をすると、こういう出力が得られる」としか分かっていないのがほとんどだ。これは現在の量子力学の理屈も多くがそうである。


 しかし、いずれにしろ装備品の類はさらに金額が高い。最低でも一〇〇万だ。


「まあ~、やっぱり高いよねえ。クラウツさん、買取だけお願いできる?」


「ああ、OKだぜ。あんたんとこのはいつも……」


 店主のクラウツが足を下ろしてノートパソコンを開いた時であった。ズゥン、という轟音とともに地響きが起きた。明らかに地震とは違う振動。ガス爆発でも起きたのか。


「ゲッゲッゲ! このビルに兵装店があるのは知ってるぞ、さあ、商品を全て出せ!!」


「……まさか、怪人が?」


 二階の窓から外を覗くと、そこには確かに怪人と思しき異様な風体の人物が立っていた。


「私の名は怪人ビーバークサリガマ! おとなしく出てくれば命まではとらんぞ!」


 巨大なビーバーが鎖鎌を持っているというなんともアンバランスな姿。悍ましいとしか言いようがない。


「なにあれ……ダサ」

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