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FAKE HERO  作者: 月江堂
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怪人ノースフィスト

「無礼な奴ですわね!」


 館林エポナが人差し指を怪人ノースフィストに向ける。ノースフィストは両手を重々しく持ち上げてアップライトに構える。彼女の指先の微細な動きに合わせて、相手の動きを探るようだ。


「フッ」


 視認するのが難しいほどの微細な動きで手を振ると人差し指から金属の鞭が奔る。先端の速度は音速も越えようという斬撃。しかしノースフィストは最小の動きでそれを避ける。


「甘いですわッ!」


時間差で他の指からもグラインドクローを発射。だが今度は少し大きめに動いて、危なげなく躱した。


 しかしそれで終わりではない。敵の動きに合わせるように今度は左手を振る。


「エルヴェイティを三人組のチームだと思ったら大間違いですわ。十二人と思ってくださいまし!」


 視界を埋め尽くすほどの金属の鞭。しかしノースフィストはまったく臆することなく、逆に突っ込んできた。


「その程度でいい気になれるとは幸せもんだな」


 悠々と攻撃をかわし攻撃態勢に入る。エポナの攻撃手段は彼の遠く後ろに回り込んでしまっている。人の頭ほどもある巨大な拳が、襲い掛かる。


「ぬぅん!!」


 しかし怪人の拳はハンマーでたたき落とされた。エルヴェイティの男二人も、数合わせでいるわけではない。


「お嬢に手は出させないぜ」


 衝撃でバランスを崩した怪人に手槍の攻撃が繰り出される。しかしこれも大きく旋回して躱された。


「くっ、キング、邪魔だ!」


 一直線に手槍の男と怪人の間にハンマーの男、キングが入ってしまった。これでは数の利を生かせない。


「寝てなッ!」


 兵装の上からみぞおちへの一撃。だがただの拳ではない。まさしく鈍器と言える一撃にキングは沈んだ。


 その間にようやくエポナのグラインドクローが戻り際の攻撃を仕掛けるが、これも当たらない。


「おのれ……」


 遠い間合いで手槍を構える。ガチリと金属音がした。


 その刹那、手槍の刃の部分だけが突如として射出されたのだ。それはスペツナズナイフのようなばね式の射出武器であった。


「狙いのつけ方がまるわかりだぜ」


 しかし、力みすぎか、完全に攻撃が読まれていた。これも躱した怪人は兵装の頭部を殴り倒し、手槍の男も昏倒した。


「どうした? 十二人とか、言ってなかったか? もしかしてそっちのカメラと荷物持ちも戦えんのか?」


「くっ……」


「わかるか? てめえの致命的な弱点」


 しかし問いかけには答えずにエポナは両手を広げ、四方八方にグラインドクローを飛ばす。今度は技を大きく使い、囲むように攻撃を仕掛けたのだ。


「情けねえ、それでもトップ配信者かよ」


 だがやはり、ノースフィストはグラインドクローの隙をつくように最短距離で間合いを詰めて攻撃を仕掛けてくる。万事休す。


「そこまでだッ!!」


 もはや勝敗は決したかに思えたが、稲妻のような怒号とともに空を切り裂く飛び蹴り。すんでのところでノースフィストはそれを弾いた。


「お前の相手はこの俺だ」


「あなたは、さきほどの」


 黒と赤を基調とした兵装にヒーロー然とした赤いマフラー。


「ケイオスレッド参上!」


「青い稲妻、ケイオスブルー!」


 ジョーの速さについてこれなかったのか、少し遠いところでアキラがポーズを決めながら叫ぶ。


「え、えと、ピンク! ケイオスピンク!!」


 急に名乗りが始まるとは思っていなかったのか、全くアドリブの効かない様子でミカも慌てて叫んだ。


「三人揃って! キャプテ」


「やめろやめろ! 誰が名乗り上げろなんつった!!」


 ヒーローの名乗りを妨害するとはなんとも無粋な怪人である。


「あなた達! なぜ来たんですの!? 危険ですわ!!」

  

「義によって助太刀致す」


 きわめて簡潔な答えをジョーが返す。助けられたのだから、今度は助ける。しかし実際、彼女の言う通りではある。ジョー達を追い詰めた蜘蛛を、エポナは一瞬でバラバラにした。そのエポナ達が三人がかりでまるで歯が立たなかった相手がこのノースフィストである。


 先ほど倒されたキングと、手槍の男はイニスというのだが、あの二人とて決して添え物ではない。トップ配信者の呼び名にふさわしい実力者である。


「まあ、お嬢ちゃんよりは歯ごたえがありそうだな。ついでだからお嬢ちゃんの弱点も教えといてやるか」


 数の上では完全にノースフィストが不利であったし、さらにエポナのオールレンジ攻撃の手数も厄介だったはず。しかし実際全く歯が立たなかったのだ。その秘密はどこにあるのか。


「簡単に言やあ、おめえの攻撃は意外と単調なのさ。仲間のいる位置だとか、指同士の攻撃が絡み合わねえ範囲となると、注意を払わねえといけねえ攻撃はおのずと限られてくる。たいして怖かねんだよ」


「くっ……」


 アキラがジョーの方をちらりと見る。ジョーが気づいていた「致命的な弱点」とはこのことだったのだろうか。


「あともう一つ、こっちは本当に『致命的』な弱点があるんだが……まあ教えてやる必要はねえか。俺とこいつが戦ってる間に逃げられでもしたら、また戦うこともあるかもしれねえからな」


「気になりますわ! 教えなさい!」


 こんな言われ方をしたら誰だって気になる。エルヴェイティとキャプテンケイオスの配信、両方の画面にコメントの嵐が吹き荒れる。それはそうだ。今まで綻びさえ見せなかったトップ配信者に、致命的ともいえるほどの弱点が果たしてあるのか。


「対人戦闘の経験の少なさだ」


 しかしその嵐を打ち消す一言。発したのはジョーだ。


「攻撃の際に、前触れとして腕の振りと指の動きで刃の軌道が全て予測できる。テレフォンパンチになってしまっている。動物相手なら詰将棋のように動きを封じられるだろうが、戦闘巧者が相手であれば、どれだけ手数で圧倒していても事前に『読める』攻撃。もっと予備動作にフェイントを入れたり、動作中に変化を入れるなどしないと、当たらないだろう」


「そんな……そんな弱点が」


「ちっ、バラしちまいやがってぇ」


 つまらなそうな表情で耳の穴を掻きながらノースフィストがぼやく。


「しかしまあ、こいつらには感謝しねえとな」


「何?」


 ジョーの問いかけにニヤリと笑う。


「実を言うとよ、俺がわざわざこんなカビ臭ぇところに来たのは、てめえが目的なんだよ」

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