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FAKE HERO  作者: 月江堂
15/20

弱点

「大丈夫か? レッド」


 ジョーはアキラの問いかけには答えず、無言で小部屋の床に座り込んだ。まだ麻痺の毒が抜けていないのだろうか?


「スラスターが臭くてへこんでいるのか? レッド」


「失礼な」


 燃料のにおいのことである。


「……情けない。お前の言う通り、俺はリーダー失格だ。そんな資格はない」


 善戦したものの、結局はスパイダータイプのドグマにやられ、敗北したのだ。そしてダンジョン探索におけるトップ配信者のエルヴェイティ、館林エポナに救われて九死に一生を得た。ほろ苦いデビュー戦となった。


:大分へこんでるな


:よかったなブルー。これでお前がリーダーじゃん


 ここまでのさんざんな醜態を見せられてか、コメントも投げやりなものが多い。おそらくは「リーダーと認めていない」云々の話については前回の配信の続きなのであろうが、それを知っている視聴者はここにはおそらく一パーセントもいないし、当のジョーも記憶喪失のため覚えていない。


 要は、みんなぶっちゃけどうでもいいのだ。


 この話題を引っ張ったところで大して撮れ高も期待できない。そう彼が判断したのかは分からない。


「バカ野郎! ジョー!!」


 アキラが急にジョーの横っ面を殴りつけた。


:なんだ急に!?


:だから本名言うなつってんだろ


 コメント欄も騒然とする。突然のフレンドリーファイア。


「いいかジョー! 自分こそがリーダーにふさわしいという私の考えは変わらない。だが、私がその座を奪うのはあくまでも君が全力で戦って、それでも私に力及ばずと納得した時だ!」


:結局何が言いたいんやこいつは


:はいはいプロレスプロレス


:最初っからリーダーやる気ねえだろこいつ


「そう……だな。お前の、言うとおりだ」


 ジョーが立ち上がる。麻痺による体の鈍りは感じられない。


「たった一度の敗北で、俺の心は折れたりしねえ!」


:これで持ち直すの簡単すぎるやろ


:これもプロレスなん?


「とにかく、無事でよかったわ」


 立ち上がった二人の輪に、ミカも加わる。ミカが右手を出し、その上にアキラが手を重ね、そして流れでジョーも手を重ねる。


「私達はチームだ。必ず、このダンジョンを攻略してみせる」


「そして、さいたまを異星人の脅威から守る」


「俺たちの戦いはこれからだ!」


:最終回?


:なんかまとめに入ってるよね


:もしかして今回これで終わりか? まだ三時間くらい?


 通常の配信で言えば三時間はそこそこの長さである。しかしダンジョン配信としてはかなり短い部類に入る。半日、まる一日という配信も珍しくないし、休憩や睡眠が入る場合は一旦配信を止めて分割することも珍しくない。


 視聴者側もずっとかぶりつきで見ているわけではないし、食事に行っている間に推しが死んでいた、ということもあるシビアな世界である。


 アキラも受傷しているし、ジョーも万全とは言い難い。ここで引き返す判断は決して浅薄とは言えないところだ。


:まあええか、今日はいっぱい笑かしてもらったからな


:ブルーがくたばるところはマジで見てみたいけどな


「今日の配信を面白いと思ってくれた方は、ぜひ『いいね』とチャンネル登録を……」


:いややっぱ弱小チームの配信なんか見に来るんじゃなかったわ


:同時にエルヴェイティの配信も見てるけどあっちはやっぱ爽快感が違うわ


 視聴者の反応は好評価と低評価が半々といったところか。興味に来てくれた視聴者の内半分でもチャンネル登録してくれれば上々といったところ。


 結局はヒーローといってもそこまで華々しい活躍は簡単にはできない。現実世界と同じだ。成功への最短の近道は、結局地道な日々の積み重ねなのである。


『喰らえッ! グラインドクロー!!』


 アキラが開いたままのパソコンの画面にはエルヴェイティの活躍が映っている。五指の指先からバンドソーのように刃物が伸び、周囲のドグマをなます切りにする。圧倒的強さだ。


 誰も何も言葉を発せずに何となくぼうっとその映像を見ていた。配信中にこれは、もうちょっとした放送事故である。


「致命的な……」


 小さい声がジョーの口から洩れた。


「弱点がある」


 小さな声であったがミカのドローンに搭載された収音マイクはその声を拾っていた。すぐに数百のコメントが流れる。


 曰く、助けてもらったのにその物言いは何だと、弱者の遠吠えだと、要は口ばかりで何もできない者が偉そうにするなと、つまりはそういうことである。


 だが、ドグマとの戦いで遅れはとったものの、ジョーは巧者である。確かに、エポナの戦い方に綻びを見つけたのだ。


『おうおう、ずいぶんと調子に乗ってんなぁ、お嬢さんよぅ』


 視聴者がそろそろ切断しようかと話し始めたころ、画面の向こうのエルヴェイティに異変が起こった。


「しゃべるドグマ?」


 日本語を話すドグマが今までに全くいなかったわけではない。しかしかなりレアであるうえに、こんな浅層に現れたという記録はない。


 アキラがドローンカメラを呼び寄せて、パソコンの画面をアップで写させる。


:これもう直接エルヴェイティの配信見た方がいいんじゃねえの?


 それはそうであるが。


『獣相手に随分と調子コいてるみてえだが、俺から見るとあんた、三流だぜ』


『なんですって!?』


 今までのドグマとはやはり雰囲気が違う。シルエットは人間そのもの。スマートで身長の高い体に、それとは対照的に人の頭部ほどもある巨大な拳。ドグマというよりは、町で見た化け物に近い。


『俺は秘密結社メガデスの怪人、ノースフィストだ』


 やはり。通常ドグマの科学力を使用する悪人たちが「ばかうけ」の中に現れることはない。当然だ。中に人がいないのに悪事を働く余地などないし、ドグマの科学力を狙ってならば、通常それは「探索者」と呼ばれるからだ。


 つまり簡単に言うと、探索を専門としているヒーローが、怪人と戦う機会はないのである。


『金にはならねえが、メガデスと俺の名を売るいいチャンスにはなるかもしれねえな。こんな雑魚狩りして広報活動になるってんなら暇つぶしにやってもいいか』


「まずい。奴はエポナの弱点に気づいているぞ」


 言うが早いか、ジョーが走り出した。

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