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翻訳を命令されました。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

まだまだ続きますよー


 翌日のお昼頃、いつもはクレメンスさんとお約束していた時間。

私の部屋の応接室に、魔王様がお渡りになさることになりました。お渡りと言っても、ここ、後宮じゃなくて、お城の塔の一室だけどね。

 私的には、もうちょっと王宮内探索してみたいから、別の場所がいいんだけど。窓から見える一部分だけでも、かなり素敵庭園が広がってるみたいだし。



「そなたには、我が国が現在所有する超古代魔術文字で書かれた文献の翻訳を依頼する」



 ルーシーさんにお茶の用意をしてもらってから、開口一番に魔王様がおっしゃったのはこの言葉だった。

 今日はとりわけ天気が良く、窓から差し込む陽光を受けてきらきらと光を振りまく魔王様がまぶしくて、直視しづらい。

 優雅にお茶を飲む姿が、凄まじく麗しいですけど、無駄に煌々しいんだよね、魔王なのに。

普通、魔王って、黒いモヤとか纏ったおどろおどろしいものだと思うのですが。まぁ、ツッコんだら負けなのかな。



「労働条件は、我が国の文官と同等とするが、そなたに行動の自由を与えることはできん」

「これは国家を守る意味もあるけれど、君の安全を図るためでもあるんだ。受け入れてほしい」


 ちなみに、この部屋には相変わらずの4人の男。この人たち、常に一緒なのか。仲良しだな。

 って、まぁ、この4人がこの国における序列上から4人なんだろうけど。


 そんなことを考えながら、いつぞやのように、私の正面に座ったお義父様が、魔王様の言葉に付け足すように言うのをなんとなしに見やる。

 正直、この“依頼”に拒否権があるとは思えない。

現時点で、監禁(軟禁?)が完了しているし、魔族と比べれば脆弱な存在である人間相手に、交渉する必要なんてないだろうし。脅迫でも強迫でも簡単だと思う。

 それを考えると、国の最高責任者が自ら赴いて、形だけとはいえ“雇う”というのは、かなり好待遇なのかな。



「一応聞きますけど、この依頼に関して、私に拒否権はあるんですか?」



 とか思いつつも、一応“拒否したいんですよ~”というにおいだけはにじみ出しておく。

あくまでにじむ程度。あんまり強く匂わせすぎて、逆鱗に触れてもやだし。逆に、全てに唯唯諾諾と従うと思われるのも、今後よろしくない気もするし。


 ルーシーさんのお茶がおいしいなぁ、とか一人で和んでいると、魔王様のあまり変わることのない表情が少しだけ変わる。ほんのちょっとだけなのだけれど、驚きとか、虚を突かれたとか、想定外のことを言われたときの顔。


 私は、父親の仕事の関係上、転勤が多かったから、場に溶け込むための必須スキルとして空気は読めるのだ。

どんな反応を求められているか、どんな反応はしてはいけないのか、なんとなくわかる。そんな感じ。まぁ、時々外すけど。

 だから、魔王様がここで驚くだろうな、というのは予測できていた。きっとこの方は、私に、というより、“格下に”自分の提案を拒絶される可能性なんて考えてもみなかったんだと思う。



「残念ながら、拒否された場合は、この城に一生することもなく監禁、という形になるかな」



そんな中で、お義父様は、いや、この場合は宰相様といった方がいいか。宰相様は、私の疑問に動じることもなく、いつもの穏やかな微笑みできちんと答えてくれる。しかも、脅迫付きで。

 義娘である私であっても、国家に仇なす者には容赦しないあたり、やっぱりこの人は為政者なのだと思う。普段奥様にデレてても、息子には少し甘くても。どれだけ、息子と同じように扱ってはくれていても。



「ふふ。安心してください、拒否するつもりなんてありませんから。ちょっと聞いてみただけです」



 笑いをもらしながら答えた私に、魔王様の後ろで驚きを隠しきれていなかったスクルドさんが、あからさまにほっとした表情をする。

 逆に、眉をピクリと上げて不快の意を一瞬だけ表に出すのはクレメンスさん。きっと、試すような物言いがお気に召さなかったんだな、きっと。

 魔王様は特にこれといった反応は示さないけれど、何か思案するような感じだった。何を考えてるのかは、さっぱりわからないけど。


 全員が、おおむね予想の範疇の反応をしてくれて、内心胸をなでおろす。

 最初の時点であんまり予想外の反応されてしまうと、交渉の余地なんてないし。

 この感じなら、かわいらしい“お願い”くらい聞いてもらえだろう。

 と、いうことで。



「でも、お義母様やクロ、-ドには会いたいです。ほんとはバステト家にいる方々全員ですけど、そこまでの我がままは言いません。それに、部屋から出られない、というのも窮屈で。たまには、窓ごしではなく、日差しも浴びたいし。そもそも、その方が健康にはいいんですよね」



にっこり笑いながら、ここまでを一気に言い切る。別に無茶な要求はしていないはず。

 私の要求は要約すると、


・特定者でいいから時々面会許可を出せ

・監視付でもいいから、庭にも出させろ


 というだけの話だ。

 このくらいの自由がなければ、本当に飼い殺しの監禁である。そんなのは、御免被りたい。


 少し続いた沈黙が、ほんのりと気になって居心地が悪いけれど、それを押してにこにこと微笑み続けて見せる。がんばれ私。ほんの少しの自由を勝ち取るために。



「……いいだろう。もともと、クロードとの面会は予定されていた。自由時間に関しては、付き添い付きで庭に出ることも許可しよう」



 ほんの少しの溜息をついた後、魔王様は許可を下さった。憂い顔も様になるとはさすがは美丈夫様。

  よっしゃ、とこころの中でガッツポーズをとりつつ、表面では穏やかに微笑んでお礼を言っておく。

勝ち取れた自由はホントにささやかだけれど、国の最重要機密トップシークレットを扱うぽっと出の小娘、という立ち位置の私に、自由が認められないのはある程度仕方ないしね。

 今後信用を得ていって、少しづつ自由になる範囲を拡張することを目指そう。うん。



「それで、私はいつから翻訳作業に入ればよろしいのでしょうか」



 とりあえずの目標を達成できて、今後の指針も立ったことでほっと一息ついてお茶をすする。

 貴族文字もだいたい覚えたのだから、翻訳もそんなに困ることはないだろうし。



「翻訳を始める前に、そなたには魔術文字を覚えてもらう」


 とか、思っていたら、また魔王様に小規模爆弾投げられた。

 ちょっぴり気管に入って、むせてしまったけれどしょうがないと思う。



 魔術文字、だと・・・。



 あれか、魔力が桁外れに強いからほとんどの人(?)は勉強しないけど、固定魔術(魔法陣による範囲継続魔術だとか魔道具だとか)を使うときにのみ使われる、汎用性が低い割に難易度が高く、平均習得期間が5年単位以上(クロ談)の、超絶めんどくさい(一度クロに教本的なものを見せてもらった)文字を覚えろ、と?


 げほげほしていたら、ルーシーさんが優しく背中をさすってくれてるさなか、宰相様が説明してくださったことによるとこうなる。


 超古代魔術文字は最高機密トップシークレットなので、普通の人が読めるようにしてはならない。(貴族文字、でさえも読める人が多すぎると)

 かといって、私の貴族文字→他の人の魔術文字による二重翻訳をすると、どうしても原文との乖離かいりが激しくなってしまう。

 今後超古代魔術文字を読める者を増やす(かつその量を管理する)ためには、原文→魔術文字にして、その翻訳過程も残すのが一番よい。

 私はニホンの最高学府を出ているくらいの秀才なのだから、魔術文字であってもそれほどの年数はかからないだろう、ということ。



「ということで、君には明日から、クロと王太子様と一緒に、魔術文字の授業を受けてもらうよ」



 そうやってにこやかに締めくくった宰相様。

 いや、なんかもう、力一杯つっこみたいところがあるんだけど、それを理解してもらうには、一から日本の学業制度を説明しなきゃならんし。(お義父様には一度説明したのに、理解してもらえなかったけど)


 とりあえず、私はまた文字を勉強することになるらしい。

 せっかく、やっと貴族文字がなんとかなるようになったのに。


 めんどいわー。



次回更新は8日の夜8時予定。

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