王宮に監禁されることになりました。
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私が超古代魔術文字を読むことが出来るということがわかり、王宮での生活を余儀なくされることになってから、3日が経った。
私の外出は基本的には認められず、人に会うには魔王様の許可(実質的には宰相たるお義父様の許可)が必要となる、らしい。
常にお付きの人の眼のあるところで生活するとか、庶民でシャイな日本人としては、苦痛この上ない。バステト邸では、私が「使用人のいる生活」に慣れていないことを理解して、みなさんわざと適度に手を抜いてくれていたから、ここまで息苦しくはなかった。
それでも、絶対王政のこの世界で、魔王様の命令は絶対であるから、そんなことをお付きの人たちに頼もうものなら、その人たちが罰を受けることになる。受け入れざるを得ないんだよね。
まぁ、別に何の不便があるというわけでもなく、むしろ生活的には贅沢快適に過ごさせてもらているので、文句も言いづらい。飼い殺しにされている、といえばそれまでだけど。
なんでわざわざ王宮に監禁されなければならないのかと聞いてみたら、あまり詳しいことは教えてくれなかった。
超古代魔術文字は、今のこの世界での生活を根本から変えてしまうものである、だから国家的に管理しなければならず、国家以外に活用されてはならない、ということらしい。
つまりは、超古代魔術文字が読める私は、対国家テロに使うことが出来るかもしれないので、王宮で監禁する、ということなんだろう。
ちなみに、単語帳が発見されたときお義父様含め全員が焦っていたのは、私と密通していた(ここ妄想)他国(主に人間界)が、超古代魔術文字の解読を成功させた(ここも妄想)のかと思ったらしい。
別に逃げたり、密通したりしないのになー。どうせ行くとこないし知り合いもいないんだし。
とか思いながら、女官長であるルーシーさん(前回王宮来たときお茶出してくれたクマ耳マダム)に用意してもらった糸とかぎ針でせっせとレースを編み続ける。
私付きの侍女が正式に決まるまで、ルーシーさんが私付きをしてくれるようなんだけど、彼女も忙しいだろうし、一人暇をつぶすために、今日から用意してもらったのだ。
最近王都では、髪にリボンやレースを一緒に編み込むのが流行ってるらしいが、お義母様に連れられて街を歩いているときにすれ違った女の子がつけていたレースが凄まじく可愛かったので、作ってみることにした。
「ずいぶんと、お上手なんですね」
記憶のレースと、頭の中に構築した図面とを比べていたら、お茶を入れてくれていたルーシーさんに褒められた。
母くらいの(見た目)年齢の方に敬語を使われるのは嬉しくはないけれど、ちょっぴりふくよかで、穏やかな彼女の微笑みは、温かく見守られている気分にさせられて、安心できる。
今後の私の扱いが、どんなものになるのかがわからない不安を抱えている今は、特に。
「ありがとうございます。昔から、何もできずに部屋にいる時間が長かったものですから。こういう細かくて時間のかかる趣味で、時間をつぶす以外にすることがなくて」
お茶と褒められたことに対して素直にお礼を言いつつ、これしかできないのだと言う。
悲しいかな虚弱体質。
体を動かすこと自体は嫌いじゃないけど、いかんせん風邪やらぜんそくやらで、外で遊べない時間が長かった。
必然的に、室内で遊ぶことになるのだが、学校を病欠している人間が、友達と遊ぶことなどできるはずもなく、一人でいることを余儀なくされていた。別に、ぼっちじゃないからね。友達はいたからね。
それは置いといて。
そんな風に、物心ついた時には、一人で時間をつぶす方法を覚えなければならなくなった。そして、そんな人間に最適なのが、手芸全般である。
刺繍にカギ編み棒編みレース編み、果てはビーズ細工に銀粘土まで。
一通り手を出して、器用貧乏をいかんなく発揮して、ネットショップを運営していたりした。大学時代はバイト代くらいの純利益は出ていたから、まぁ、そこそこいい品のはず。
「よし、できた」
糸の始末をして、ちょっと引っ張って形を整える。
利益が出るのは、一作品にかける時間が短く、数を作ることが出来るから。こういうのは別にすごい技術が必要なのではなく、均一に、正確に作ることこそ重要なのだ。
ということで、髪飾りにするレース程度なら、1~2時間もあれば完成する。
次は何を作ろうかなー。
「それはようございました。リサ様、そろそろ近衛副隊長様とお約束の時間です」
「そういえば、そんな時間ですね」
ルーシーさんくらいの齢の人でもつけられる、落ち着いたレース細工がいいかしら。
なんて考えてたら、ルーシーさんにくぎを刺された。
そういやそろそろ、クレメンスさんとの面会時間か。あれ、苦手なんだよなー。
とかなんとか考えて、のろのろと片づけをしていたら、ルーシーさんに笑顔の圧力をかけられた。ごめんなさい。
クレメンスさんに会うために、私の部屋から部屋続きになっている、二つ隣の会議室(?)に向かう。
これからの作業を考えて憂鬱になっていたら、自然と歩調が遅くなっていたらしく、またルーシーさんに笑顔を向けられた。ごめんなさい。
時々、彼女はこんな風に無言の圧力をかけてくる。なんていうか、ここにもお母さんがいるみたいだ。クマ母さん?可愛いじゃないか。
それはさておき。
「お待たせしました」
「えぇ、ずいぶん待ちました」
「・・・・・・すみません」
入室早々ばっさり切られた。
いや、別にまだ時間に遅れたわけじゃないんですが。私悪くないはずなんですが。
でも、何でか謝ってしまうのが日本人の悲しい性なんだよな。
心の中で盛大に溜息をつきながら、クレメンスさんが座っている六人掛けの会議机のはす向かいに座る。
一応淑女教育を二月ばかり受けていた成果を発揮して、椅子を引いてくれたルーシーさんに優雅に(気分的には)お礼を言ってみたりする。
「それでは、これが今日の分です」
私が座るなり、彼の正面、私の横の机に大量の紙束を置いて、メガネのブリッジをくいっと上げた。彼が女史なら、ざまあすメガネとでも呼びたくなる形状をしている代物だ。
今日も一筋の乱れもなく、長い銀髪をポニーテールにして、淡いブルーグレーのローブをきっちりと着ている。色白の彼は、全体的に色が淡く、神秘的ですらある。さすが伝説の聖獣。
しかし、そんな彼が吐く言葉には無数の棘と毒がふんだんに盛り込まれていて、気の弱い人だと致死量になるんじゃないかと思う。一角獣の角って、万能の治療薬になったりしなかったけ?あ、薬も過ぎれば毒になるのか。なるほど。
どうでもいいことを考えながら、渡された紙に目を通し、わざとあけてある余白に貴族文字を書き込んでいく。
それをできる端からクレメンスさんが目を通し、別の文字に書き直している。私の知らない文字だから、たぶん魔術文字なんだろうけど。
これが、私が王宮に来てから与えられている仕事だった。
超古代魔術文字の解析は一切進んでいないらしい。唯一、火と炎という文字と読みが変わっているだけだという。
資料の原文を持ってきてくれれば明らかに作業効率は上がると思うのだけれど、それはできないんだとか。
私の処遇は決まっていないし、どこまでこの|超古代魔術文字(国家的秘密)を私に開示するかでなんとなく揉めているらしい。
まぁ、私が「人間」であることも、もめている原因の一つだろう。身体能力、魔力ともに絶大な力を持つ魔族からすれば、「人間」なんて貧弱な生き物は、「雇う」ものではなく、「飼う」ものだろうから。
「何を考えているのか知りませんが、手が止まっていますよ」
「すいません」
とかなんとか、超ネガティブ思考に陥っていたら、前から鋭い一瞥と叱責が飛んできた。
この人、仕事の鬼なんだよね。
これ以上何か言われないように、真面目に単語訳作業を再開する。時々、意味不明な文節で区切られてくるので、それには回答保留と記載する。ほんと、さっさと原文持ってきてくれればいいのに。
「・・・・・・あれ、これは・・・」
「しゃべらない」
「すみません」
真剣に作業をしていたはずなのに、怒られた。
作業中にほんのちょっぴり独り言をつぶやく癖がある。そこ、変なコとか言わない。一応、呟いてる自覚はある。
けれど、この作業の間は、一切が私語厳禁だった。
この無言の行が、憂鬱に拍車をかけてくるものであったりもする。
ちなみに、なんで私語厳禁なのかは教えてくれなかった。きっと、この文字の特性と何か関係があるのだろうけど。
「・・・・・・はい、今日の分は終わりましたね。ご苦労さまでした」
集めた書類の数を確認して、クレメンスさんからお許しがでる。
始めてから4時間、ぶっ続け。凝り固まった背中や肩を伸ばしたくてしょうがないけど、そんなことははしたないのでやってはいけないので我慢する。ここら辺は、淑女教育の賜物だ。
本当は、別に休憩を取ってもいいのだろうけど、クレメンスさんが忙しいということは察しがつく。近衛騎士団副隊長なんて役職持ってるのだから当然だろう。
そんな人を、たとえ仕事にしても、私に付きっきりにさせてしまうのが申し訳なく、無駄に張り切ってしまうのだ。・・・休憩してても休憩した気にならないともいうけど。
この辺が、真面目な日本人の性だと思う。
これまでの二日間は、確認が終わればさっさと出ていくのに、今日はいつもと違った。
「明日には、貴女の処遇は決まるでしょう。」
部屋を出るために扉の前まで行ったと思ったら、振り返って私の方に琥珀にも金にも見える瞳を向けてきた。
見送るために立ち上がっていた私より、だいぶ視線が上だけど、今は距離が離れているから、そう見上げることもなく、視線が合う。
「三日間も、何も聞かせもせずに、このような作業を押し付けてすみませんでした。何も言わずに協力してくださったこと、感謝します」
すっ、と背筋を伸ばしたかと思うと、胸に手を当ててきっちり頭を下げる。
彼の動作とともに、結い上げてある銀色がさらりと音を立てて、肩を滑り落ちた。
「それでは、私はこれで失礼します」
頭を上げると、何事もなかったかのように、一人で扉を開けて、いつもの歩調で去って行く。
とっさの出来事に、私はなんの反応も示せず、ただ茫然と突っ立っていた。
なんだ今のは。なんだあの殊勝な態度は。
そうか明日には私の処遇は決まるのか。
てか、普段の棘と毒はいったい何だったんだ。
これはあれか。あれなのか。
・・・・・・ツンデレ?
クレメンスさんの属性(メガネ・敬語)にツンデレが追加されたと思った瞬間だった。
次回更新は、6日の夜8時です。




