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解放


 カリドに歩み寄っていくと、カリドが杖を掲げた。そして魔法が発動する。私とカリドの周囲に氷の壁が出現し、壁は私とカリドを囲んで外の皆と分断された。

 氷の壁はいつでも破壊できる。逃げ場を潰したつもりなんだろうけど、上から逃げる事も出来るので私の逃げ場を封じた事にはならない。


「聖鐘(せいしょう)・聖光刃(せいこうじん)」


 私は破軍滅珠に光の剣を作って構える。


「炎獄(えんごく)・烈火刃(れっかじん)」


 更に左手には炎の剣を作って構えた。

 光と炎の剣の、二刀流である。自分で言うのもなんだけど、カッコイイ。


 私は2本の剣を構えたまま、カリドに向かって駆け出した。


 カリドは迫り来る私に対し、氷の魔法で対応してくる。私の正面に氷の柱が出現すると、それが私を串刺しにするために勢いよく生えて来た。

 私はその氷の柱に向かい、左手の炎の剣を振り抜いた。炎の剣は氷の柱を一瞬にして飲み込み、溶かして消し去る事に成功。

 私の勢いは止まらず、真正面からカリドに向かっていく。

 更に左右から挟み込むようにしてもう一度氷の柱に襲われたけど、今の私は二刀流だ。左右の氷の柱に向かって両手の剣を振り抜き、両方消し去った。

 ならばと全方向からの氷の魔法を放たれたけど、それは地を蹴って飛ぶ事によって回避。そのままカリドの頭の上を飛び越え、カリドの背後に着地した。


「……」


 違和感がある。


 背後に回り込んだ私に対し、カリドは慌てて振り返って再び魔法を放ってきた。

 ただの氷の柱による攻撃だ。やはり私は剣で軽くあしらい、歩いてカリドに向かっていく。


 続いてカリドは、杖を構えた。竜の骨が怪しく光ると、そこから私に向かって禍々しい黒いモヤが放たれた。だけどそれも、私が剣を振り抜く事で霧散。私の進行を止められない。


 やがて私は、カリドの目の前に到着した。

 目の前に到着した私に対し、カリドはオドオドとするだけで何もして来ない。何かしようと考えてはいるようだけど、考えがまとまらないようだ。


 違和感は、カリドのこの姿にある。カリドは強力な魔法を放って来る化け物だ。だけどどうも戦いになれていないというか、素人じみている。

 というとまるで私が戦闘のプロみたいに聞こえるけど、そうじゃない。カリドがあまりにも素人すぎるからそう感じるだけだ。


 慌てたカリドは、私に向かって手にした杖を振り上げ、そして振り下ろして来た。私はその杖を破軍滅珠の光の剣で受け止める。

 やはり強い攻撃ではある。だけど受け止めきれないほどの攻撃ではなくて、しかも片手で事が済んでしまう。


 攻撃パターンは一つしかなく、切り札の即死技も私には効かない。攻略のための手順を探る必要もなかった。これならゲームのカリドの方がよっぽど倒し甲斐がある。

 闇属性が効きさえすれば、上でとっくにアルテラによって負かされていただろう。


「炎獄(えんごく)・紅蓮烈断(ぐれんれつだん)」


 私はカリドの杖を受け止めていない方の、左手の炎の剣を用いて魔法を発動させた。魔法を発動させると、炎の剣が長く、そして膨れて私よりも大きな物となる。

 その剣を、カリドに向かって振り抜いた。

 炎はカリドを飲み込むと、カリドの体を燃やしながら砕いて後方に吹き飛ばした。


 勝負は呆気なくついた。

 カリドは地面に仰向けに横たわり、倒れる。体の半分以上を失い、残った体も黒焦げで羽織っていたコートは跡形もない。顔面も半分が焦げてヒビがはえており、無残な姿だ。まぁ元々が骨だけで無残なので、そんな体のカリドに対して無残という表現があっているかどうかは疑問だけど。


 カリドが倒れた事により、周囲を囲っていた氷の壁も消え去った。


「ヒメノ様!」

「勝った」


 遮るものがなくなると、すぐにリリエが声を掛けて来たので私も勝利宣言を返しておく。


 私の炎の剣による焼き払いから免れた、カリドの杖が私の足元にある。


 その杖を破壊しようと手を伸ばした、その瞬間、杖がひとりでに動き出して宙に浮いた。

 かと思えばたった今倒したはずのカリドの体が黒く光り出し、気づけば私が砕いたはずの体が元通りになり、すぐに立ち上がった。ご丁寧にコートまで修復されており、復活したカリドに杖が飛んで行ってその手に握られた。


「復活した!?」

「そんな……」


 ルシアとリリエが驚いている。私も驚いてはいるけど、2人程ではない。

 私も再生のスキルを持っているので、同じように復活できるからだ。

 しかしいくら復活出来ても、カリドと私の間には埋めがたい実力差というものがある。


 その上私には、『封生断滅』というスキルがある。このスキルを発動した状態で攻撃すると、再生不可状態にする事ができるスキルだ。

 戦いの分は、まだこちらにある。


『……──渡さない』

「なに……?」


 今確かに、カリドは渡さないと呟いた。その言葉は、私が元居た世界で使われていた言葉だ。


『この人達は絶対に渡さないいぃぃぃぃイイィィ!』


 カリドが杖を掲げて魔法を発動させた。

 カリドの杖から大量の黒いモヤが溢れ出し、それが周囲に飛んでいく。即死技のモヤが、この空間を覆いつく程に飛び回り始めている。

 オマケに無差別に氷の柱が出現し出し、場が荒れ始めた。


「……」


 私はその場に立ち、自分に被害がありそうな攻撃だけを剣で攻撃して回避する。

 この場にいる者達全員への無差別な攻撃なので、当然リリエ達の方にも攻撃はいっている。だけどアルテラがしっかりと守ってくれているので、リリエとルシアが攻撃を受ける事はない。


『アアアアアァァァァァァアアァァァ!』


 カリドは叫んで魔法を発動し続けている。パニックになっているというか、発狂して叫んでいるだけのように見えるけど、カリドは確かに私が元居た世界の言葉を喋った。


『あなたに聞きたい事がある』


 私は元居た世界の言葉でカリドに喋りかけるも、カリドは聞く耳を持ってくれない。叫んで魔法を発動し続け、周囲を破壊しようとしているようにさえ見える。

 場の気温が、一気に下がり始めた。凍てつくような空気が漂いはじめ、魔法が発動してない場所すらも凍り付き始めている。

 とりあえず落ち着かせるため、カリドに斬りかかった。私の右手と左手に持った剣が、カリドの両腕をそれぞれ斬り落とし、カリドの魔法が一瞬止まった。

 でも斬り落としたはずの腕はまるで巻き戻しされるかのようにしてすぐに元に戻り、くっついてしまう。

 そして再開される、魔法の嵐である。


「……封生断滅(ほうしょうだんめつ)」


 ならばと私は、スキルを発動させた。傷つけた場所を再生不可状態にするスキルである。

 スキルを発動させると、自分の中からかなりの力が出て行った気がした。ステータスを確認すると、MPがごっそりと減っている。具体的には、20万ほど。私の総MPの半分近い。


 私はスキルを発動させた状態で、同じようにカリドの両腕を斬り落とした。両腕は宙を飛んでいくと、先程のように再生する事無く地面に落ちた。更にもう一撃、カリドの胴体に向かって二刀流の剣でカリドを切り裂いた。

 カリドの体は×の字に切り刻まれ、攻撃を受けたカリドは再び仰向けに横たわる事となった。


 そこで封生断滅のスキルが切れた。たったのこれだけで?攻撃回数に制限があったのだろうか。それとも時間だろうか。分からないけど、なんにしても恐ろしく燃費が悪い。試そうにも余力は残しておきたいので、状況的に今はもう使えない。


『あ、ああ……痛い。僕の腕、治らない……なんで……?』

『封生断滅というスキルを使った。今の貴方は、再生不可状態にある』

『言葉……!僕の言葉が分かるの!?どうして?もしかして君も僕と同じ世界から来たの?』

『この言葉が通じるという事は、それで合っていると思う』

『そうなんだ……嬉しい。久しぶりに人と話す事が出来た。嬉しい』


 カリドは低く威圧的に聞こえる声だけど、喋り方が妙に幼く感じる。オマケにこんな状況だというのに、私のスキルよりも言葉が通じる事が嬉しいと言い出す始末である。何か変だ。


『その杖に奪われた魂を、解放してあげてほしい』

『それはダメだよ。この人達がいなくなったら、ボクは帰れなくなっちゃう。それに一人ぼっちになっちゃう。一人ぼっちは嫌だよ』

『貴方は、何歳なの?この世界に来る前の年齢』

『10歳……公園で遊んでたら、白い手に包まれて気づいたらこんな身体になってた』


 本当に、ただの子供がこの世界に連れて来られていたのか……。

 この子が連れて来られた原因は、私にある。心が痛み、思わずカリドの傍に座り込んで頭を撫でてあげてしまった。


『ごめんね。貴方がこの世界に連れて来られた原因は、私。連れて来たのはカミと呼ばれる存在だけど、カミにそうさせたのは私だから……』

『……知ってるよ。カミ様を倒した人がいて、それでボクをこの世界に連れて来たって言ってた。君がカミ様を倒した人なんだね』

『そう』

『カミ様はボクがこの世界で人の魂をたくさん集めたら、元の世界に帰してくれると言ったんだ。だからボクはこの山に入って来る人の魂を集めて、たくさん集めたんだよ。でもまだまだ足りないみたい。君も元の世界に帰るために、魂を集めているんでしょう?それでボクの杖を狙ったんだ』


 カミに対する怒りが湧いて来た。この子はカミに騙されている。元の世界に帰れるという餌を吊り下げて、この山を訪れる者の魂を吸い取る化け物にしてしまった。

 そもそも元の世界に戻れるという話は、恐らく嘘だ。カミは私にハッキリと、元の世界に戻る事は不可能だと言った。私に話した内容の方が嘘という可能性もあるけど、私にはこの子を化け物に変えるための方便にしか聞こえない。


『違う。その杖の中に、私の友達の大切な人の魂がある。その人の魂を解放してあげたくて、ここへ来た』

『ダメだよ。元の世界に帰れなくなっちゃう』

『魂を集めても元の世界には帰れない。貴方はカミに、騙されている』

『……違う。帰れるよ。カミ様はボクに、帰れると言ったんだ。嘘じゃない。本当だよ。だからボクは、魂を集めたんだ。酷い事をしてると分かってる。しちゃいけない事だと思う。だけどボクは、元の世界に帰るためだから仕方なかったんだっ』

『うん。分かってる』


 まだ自分で判断する能力が弱い子供は、カミにとって操りやすい玩具なのだろう。私もそうだった。


『僕、本当に苦しかったんだ。喉が渇いてもお腹が減っても、この身体は何も出来なくてずっと飢えたままで、満たされない。苦しくて眠いのに眠る事も出来ない。辛くて自分で死のうとしたけど、この身体は死んでしまってもすぐに復活してしまう。だから必死に魂を集めたんだ。でもそれが嘘だと言うなら……君の攻撃は、僕を再生させないんだよね?だったらお願い。ボクを殺して。ボクをこの苦しみから解放して』


 ずっと飢えたまま、満たされない体なんて考えただけでゾッとする。この子は7年間ずっとそのままの状態で生きて来た。その苦しみがこの子を追い込み、死へと追いやった。だけど死ぬ事は出来ず、苦しみからは解放されない。正に生き地獄だ。


 まだ聞きたい事はある。だけどそう懇願されると、一刻も早くこの子をこの身体から解放させたくなってしまった。


『……分かった。目を閉じていて』


 私はスキルの封生断滅を発動させた。残りのMPの大半がまた消費されたけど、それでも数万程のMPはあるからまだ大丈夫。


 それから破軍滅珠にまた光の剣を作り出すと、意を決してその剣を横たわるカリドに向かって振り下ろした。


『ありがとう』


 最後にカリドがお礼を言って来たけど、その声は小さな子供の声だった気がする。


 私の剣はカリドを飲み込むと、カリドの体を消滅させ、カリドは今度こそ死んだ。


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