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新たな絆


 ルシアがしてきた告白は、私と色々したいとかではなかった。


 単純に、仲間と言うか、部下と言うか……そういう関係を望んでの告白だったみたい。

 なんでも、私に命を救われてその恩を返すためにそう決めたらしい。勇者の力も必要な時に使ってくれと言われた。

 あれほど勇者の力を利用されるのを嫌がっていたのに、凄い心の変化だ。実際私はそう指摘した。どうして私のためなら勇者の力を使っても良いと思ったのか、と。


「──父は私に、いつか私にとっての勇者が現れると言った。それは貴女の事だったのだと思う。そして父は、私にとっての勇者のためなら力を使っても良いと言っていた。だから私は、貴女のためにこの力をふるう決意をした。迷惑でなければ、受け入れて欲しい」

「あはは!君は本当に凄いなぁ!ヒメノちゃん自身も化け物みたいな強さなのに、そこにルシアちゃんまで加わったらもう怖いものなしだ!勿論受け入れるよね、ヒメノちゃーん」

「……本当に良いの?私はアルテラと共に、カミと戦う決意をした所。私に付いてくれば、その戦いに巻き込まれる可能性もある」

「構わない。私の力が役に立つなら、使ってくれ」

「カトレアさんや、教会の子供達はどうするの?」

「それでしたら、この塔内で保護される事となりましたわ。あの子達が住む場所を追われる事は、もうありません。その代わり、塔内で最低限のお勉強や、ちょっとしたお仕事はしてもらいますけどね。カトレアさんは、子供達の保護役としてお雇いしますわ」


 勉学は生きる上で、必ず役に立つ。仕事の方は、たぶん最初は大した事は出来ないだろうけど、働くと言う事が身に付けば自立も出来る。

 かなりの好条件だ。


 これならルシアも安心だろう。


「私はいいけど……本当に良いの?」

「良い。貴女が私に傍にいてもいい許可をくれるのなら、私は貴女のために力を使う。貴女のために戦い、貴女を守る。そのために、強くなる」


 私を真っすぐに見つめるその目が、一瞬勇者アルディスと重なった。まるで心を射抜かれたような気分になる。


「……分かった。ルシアがそうしたいと言うなら、付いて来てほしい」

「ああ!そうする!」


 ルシアは笑顔で元気にそう答え、これでルシアも私の仲間に加わる事が決定した。


「事情はアルテラ様から聞きました。当然私もヒメノさんの仲間として、協力いたしますわ」

「……ありがとう」


 ミストラージュに、ルシアに、リリエに、アルテラ。それに、ハクも。こんなに頼りになる仲間が出来て、心強い限りだ。これならカミにも勝てる気がする。というか勝てる気しかしない。だって、魔王と勇者が揃ったんだよ。物語的に、勝てなければおかしい。


「それじゃー早速、ボクの仲間に会いに行こー!皆に紹介するよ!」


 そう言って、アルテラが私の手を引っ張って来る。しかしもう片方の手はルシアが掴んでおり、アルテラに私を引き渡そうとはしない。


「ちょっと待て。ヒメノさんはまだ、目覚めたばかりだ。もっと休ませるべきだ」

「ボクの転移魔法を使えば、移動なんて一瞬だ。ヒメノちゃんに負荷はかけさせないよ」

「ルシア様の言う通りです。ヒメノ様はまだ目覚めたばかりですので、外出は許可できません。例え移動が一瞬で済むとしても、です」

「えー。ヒメノちゃんはどうなのさー」

「私はその前に、したい事がある。トワの件。トワを早くカミから解放させたい。だから今すぐ行く」

「ダメに決まっているでしょう。ですが事は急を要するのであれば……」


 リリエがそう言って、ミストラージュの方を見た。


「そうですわね。天穿のトワについては、こちらでなんとかしますわ。兵を使い、塔に来るよう命じます。その後の事はヒメノさんにお任せいたします。だからそれまでおとなしくしている事。いいですわね」

「……でも」

「でもじゃありませんわっ」

「でもじゃありませんっ」


 ミストラージュとリリエに声を重ねて言われ、私は頷くしかなかった。

 でも本当に、もう元気なんだよ。腕の傷はもう塞がっているし、HPやMPも回復している。心配されるような症状もない。

 という訴えを口にしようとしたけど、2人は聞いてくれやしない。


 それを見て、ルシアが苦笑している。


「それじゃあ暇だしボクも行くよ。トワちゃんは中々手ごわそうだからね」


 私の隣に座り、私の肩を抱いていたアルテラがそう言って立ち上がった。そして部屋の窓へと向かって歩いて行く。


「ありがとう。そうしてくれると、心強い」

「気にするな。仲間だろ」

「……ちょっと!行くなら普通に出て行ってくださいまし!」


 部屋の窓を開け開いたアルテラの行動から、ミストラージュがアルテラが何をしようとしているのか悟った。

 ミストラージュがそう声をかけるも、アルテラは笑って返すだけで窓から飛び降りると、その姿を消してしまう。普通なら落下して死んでいる所だけど、アルテラなら大丈夫だろうという謎の信頼感がある。


「はぁ……私も兵を向かわせますわ」


 ミストラージュが溜息交じりで窓を閉めつつ、そう言って速足で部屋を出て行った。


 その後、結局トワは見つからなかった。元々空っぽに近かったトワの家はもぬけの殻となり、町の中でも目撃情報はない。天穿のトワは、町から姿を消した。別に珍しい話ではない。冒険者が拠点を変える事など、よくある話らしい。

 だけどタイミング的に考えて、ルシアの魔物化に失敗し、逃げたと言うのが一番しっくりと来る。あるいはカミに命令されて、神獣を倒しに行ったか……。一番考えたくないのは、失敗してカミに見捨てられ、殺された、だ。

 カミにトワを殺すと脅され、だけどルシアが魔物化されるなら殺せないだろばーかばーかと煽ったけど、結果として私がルシアの魔物化を解いてしまったからなくもない。

 いてもたってもいられず、トワを探すため私は町を出ようとしたけど、それも皆に止められた。心配だけど、何の手がかりもなければトワを追う事は出来ない。今は我慢するしかないと、皆に説得されてしまった。

 冷静に考えればその通りである。あてもなく町を出てトワを探し出せる程、この世界は狭くない。


「カミの事だから、簡単には殺さないさ。多分だけどカミは、トワちゃんとヒメノちゃんを使って遊ぶつもりだ。美しき姉妹愛が引き裂かれ、醜く殺し合う姿……。カミが望みそうなシチュエーションだよ」


 と言うのは、アルテラだ。

 私を安心させようとしているんだろうけど、私はトワと殺し合いたくはない。別の不安がよぎってしまう。


「まぁ大丈夫。君はルシアちゃんをカミの魔の手から救ってみせたんだから。トワちゃんもきっと救えるさ。前向きにいこうぜ!」

「そうですね。トワ様はきっと、ヒメノ様が助けに来てくれるのを待っているはずです。カミの思い通りになどさせません」

「私が救われたのと同じようにすればいい!ヒメノさんなら出来る!」


 私の片方の手をリリエが握り、優しく声を掛けて来てくれた。

 もう片方の手はルシアが握り、力強くそう言ってくれる。


 ちなみにルシアの服装は、以前のようなボロボロの服装ではない。

 ミストラージュに新調してもらった、立派な服を着ている。白色のチュニックの上から緑色のベストを羽織り、腰にはベルトについた革のポーチと短剣がついている。右手にはグローブをつけ、下はショートパンツを穿いている。私とお揃いのニーハイを着用して太腿が映える。それにしても細い太腿だ。靴はブーツを履いており、悪路も余裕で歩いて進んでいけそう。


 メイド服姿のリリエと、ゴスロリ姿の私と比べて凄く動きやすそうである。別にこのかっこうで困る事がある訳じゃないからいいけどね。


「……うん。ありがとう」

「よっし!それじゃあ次の転移魔法いっくよー!集まって!」


 アルテラの指示で、私とリリエとルシアはくっついてアルテラの後ろに回った。私が2人に囲まれている感じである。


 現在私達は、森の中にいる。

 向かっているのは、アブレストだ。アルテラの転移魔法を用いて移動中である。


 転移魔法と言えば、アスレベにもあった。文字通り、一瞬にして目的地に移動できてしまう魔法である。ゲーム内では行った事のある場所にワープポイントがあり、ワープポイントに触れる事でその場所に飛べるようになる感じだった。


 現実のこの世界では、長距離の転移魔法は消耗が激しく、しかも複数人を連れて行くとなると更に消耗が激しくなるらしい。一度の転移魔法で移動できる距離は、連れて行く人数に比例して短くなり、消耗もさらに上がる。


 そんな感じで転移魔法で移動しては休憩してアルテラの回復を待ち、また転移魔法で移動を繰り返している。


 休憩は挟む事になるけど、移動スピードは普通に馬車で移動するよりも遥かに早い。


「メタスタシアー!」


 アルテラがくるくると回りながら、魔法の名を叫ぶ。ふざけているようだけど、物凄い量の魔力がアルテラから溢れ出し、アルテラの目の前の空間が歪んでそこに黒色のモヤが集まり、収束。次の瞬間弾けたかと思うと、そこに風穴が開いた。何もない空気中に開いたこの穴を通る事によって、また転移する事ができる。これを繰り返してここまでやって来た。

 アルテラはその穴の中に先導して入っていき、その後に続いて私達も穴の中を通る。一瞬にして景色は移り変わり、目の前に見覚えのある光景が広がった。


「……アブレスト」


 小高い丘の上から見下ろすように、アブレストの町が目に入る。大きな壁に囲まれた町。その町の中に、更にもう一枚の壁がある。そびえたつ壁の中には、草原地帯がある。その草原地帯の真ん中にたつ、立派なお城。

 少し離れていただけだけど、懐かしい。なんだか故郷に戻って来たかのような、そんな感じがする。


 ガザールンをたってから、ものの半日程でアブレストまで辿り着いた。やはり転移魔法は凄い。


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