抱擁と告白
ルシアの中からカミの魂を消し去った後、私は倒れてしまった。倒れたと言っても、少し立っていられなくなっただけだ。アルテラとミストラージュの肩を借りて別室のベッドに運び込まれ、そこで眠りについた。
いつの間にか夜を飛び越えて朝になっており、徹夜した事が原因で体力が原因だった。それ以外にも、度重なるカミの魂からの反撃や、消耗の激しい魔法を連発していた事でいつの間にかMPが底をつきかけていた事が原因としてあげられる。
私のMPの総量は50万を超えているのに、気づいたら3桁になっていたからね。自分でも気づかない内にこれだけ消費していたのはビックリだった。
更には新たなスキルを手に入れた。
封生断滅 攻撃に再生不可を付与し、その攻撃によって出来た傷を再生不可にする
再生のスキルを持っている身としては、恐ろしいスキルだ。
このスキルを発動して攻撃されると、体が元に戻らなくなってしまう。
今までは再生してこれたけど、今後はこんなスキルを持っている者もいる。そう考えて更に慎重に動かなければいけない。
『クゥン……』
傍にいるハクが心配そうに鼻をならし、ベッドで眠る私にすり寄って来た。
眠る前にストレージから出しておいたんだけど、どうやらずっと傍にいてくれたらしい。おかげでずっと温かった。お礼代わりにハクの頭を撫でて抱きしめる。
私はどれくらい眠っていたのだろうか。窓の外へ目を向けると、外は明るい。少なくとも眠りにつく前と同じ、昼間だと言う事が分かる。
服は誰に着替えさせられたか分からないけど、簡単な白色のワンピース姿となっている。まぁきっとリリエだろう。
上体を起き上がらせてベッドの淵に座る。そして自分の両手に包帯が巻かれている事に気が付いた。包帯を外すと、傷はもう治っていて傷跡すらない。
「……」
あの、魔法に乗っかって鋭利な何かが遡って内側から肉を切り裂く感じ、今思い返せば本当に痛かったな。思い返すとゾッとする。
その時、部屋の扉を遠慮がちにノックする音が響いた。扉の方を見つめていると、静かに扉が開かれてリリエが姿を現した。
「……ヒメノ、様!」
「おはよう」
起きている私の姿を見て、リリエが目を見張った。
私が挨拶すると、リリエは私に向かって駆けよって来る。そして私に抱き着いて来た。
「良かった、ヒメノ様。もう起きてくれないかと思って、本当に心配したのですよ……!」
リリエは涙を流しながら、私の顔に頬ずりをして来る。リリエの涙が私の頬にも触れて、少し冷たく感じる。
でも、心は温かい。
私もリリエを抱きしめて迎え入れ、頭を撫でる。すると更に甘えるように、リリエが強く頬ずりをして来た。
可愛く愛おしい反応に、思わずときめいてしまう。でも同時に不安になる。
リリエのこの反応は、まるで私は長い間眠っていたかのように思える。
「……私はどれくらい眠っていた?」
「丸一日になります」
思ったよりも短くて、心の中でコケた。
でもまぁそれだけ心配してくれていたという事だよね。
「ルシアは、どうなったの?」
「事情はアルテラ様とミストラージュ様から聞いています。元気ですよ。教会の子供達もミストラージュ様が保護してくださり、今は皆さん塔内で寝泊まりをしています」
「……良かった」
「カミの件も、アルテラ様から聞きました。トワ様の事も……。大切な妹さんがカミに心を支配され、心中穏やかではないでしょう」
「正直言って、私はカミに対してキレている。私に対してした事は許したつもりだけど、トワやルシアにこんな事をして、それはもう許す気にはなれない。だから私は、カミと戦う道を進もうと思う」
「私はカミとやらがヒメノ様にしようとした事を許していません。元より私は、そうすべきだと思っていました。しかしそれでは、カミの手中にあるトワ様と対峙する事に……」
「今回ルシアの魂にとりついていたカミの魂を消し去る事が出来て、コツを掴んだ。今回の件で習得した魔法を用いれば、トワの心を支配するカミも消し去る事が出来るかもしれない。そうすれば、トワを取り戻せる」
「なるほど。私も協力いたしますので、その時はなんなりとお申し付けください」
「ありがとう。……ところで、もう抱きしめなくても良い?」
ここまでずーっとリリエに抱きしめられ、頬ずりされたままだったので私はリリエにそう尋ねた。
「もう少しだけ、このままで」
「……分かった」
『……』
抱きしめ合う私とリリエを、ハクがじっと見つめている。別に何か文句を言う訳ではなく、ただただ見つめている。まるで仕方ないなこいつらはって感じの目だ。
私とリリエはそんなハクに見せつけるように、それから10分程抱きしめ合ってようやくどちらからともなくその身を離すのであった。
抱きしめ合うのをやめた私とリリエは、その後ミストラージュやアルテラを部屋に招き、今後を話し合う事になった。
ちなみにミストラージュにも無条件で抱きしめられた。彼女もまた、まるで数年ぶりに目覚めたかのような反応をされて少し困るも、素直に嬉しく思う。
「さて。ヒメノちゃんも無事に目覚めた事だし、改めて聞かせてもらう。君はこれから、どうするつもりだい?」
アルテラがイスに脚を組んで座りながら、ベッドの淵で座る私にそう問いてきた。
「私は──……トワをカミの手から解放したい」
「全てはトワちゃんの意思の可能性は?そうだとしたら、解放しても意味がないよん」
「それはない。と思う」
「根拠は?」
「トワと少し話した。トワは前の世界での私との出来事に謝罪して、泣いた。あの時のトワは、本心で言っていたと思う」
「それは根拠にはならないよ。本心を隠して、ヒメノちゃんを惑わすために芝居していたのかもしれない」
「私はトワの、お姉ちゃん。だから、分かる。今思えば、あの時トワは私に助けを求めていたのかもしれない」
「……分かった。トワちゃんに関してはもう何も言わない。君の好きにすれば良い。で、カミの方はどうする?」
「カミはこの世界に、いてはいけない存在。この世界の人々の生活のためにも、カミを倒さなければいけない。だからアルテラに協力させてもらいたい。一緒に、カミを倒したい」
「ボクはカミに対抗するため、主に魔族の仲間を集めている。人間の傀儡国家である魔族の国とは全くの別物だ。勿論一部の魔族が唱える、魔族の権利の復興にも興味がない訳じゃない。この世界の魔族は人間と比べ、あまりにも権力が低く、未だに奴隷として扱われる者もいる」
アルテラはそう言って、私の傍に立つリリエに目を向けた。
リリエは元々は人間であるゼルの奴隷だった。それが今では、私の奴隷となっている。リリエは酷い扱いを受けた事はなさそうだけど、一部の魔族はやはり奴隷として、奴隷なりの扱いを受ける事もこの世界では少なくない。
私も出来れば、魔族のそういった扱いはなくしたいと思う。今の自分が魔族と言うのもあるけど、やはり勇者と魔王が手を取り合って戦った世界で見たような、そんな世界を目指したい。私の知るアスレベの世界は無理そうなので、せめてそれくらいはね。
「まぁボクはカミさえ倒せればそれでいいとは思っているけどね。しかし人間のルールで言うと、身分証を持たないボクは人間の奴隷と言う事になる。そんなのおかしいと思うだろう?そういうおかしなところを、ボクは正したい。そのための組織を立ち上げた。その組織の名を、レベリオンと名付けた」
「レベリオン……」
ゲームのタイトル、『アストラル・レベリオン』からとってつけられたような名に、私は驚いた。
「ボクの仲間に入ってカミを倒す事を目的とするなら、君にはレベリオンに所属してもらう事になる。それでもいいのかい?」
「……それで良い。私のこの体の父親……魔王も、魔族の復興を願って私に力を授けた。私の体には、同じ願いを持つ魔族の力で溢れている。だから、アルテラが魔族の復興を目指してくれるのなら、尚更手伝いやすい」
「ああ。やっぱり君は、イイ。最高だよ、ヒメノちゃん!」
そう言って、いきなりアルテラが私を抱きしめて来た。手加減のない抱擁で、ちょっと苦しい。だけど可愛いアルテラに抱きしめられるのは、嫌な気持ちにはならない。
「んなっ」
「アルテラ様。ヒメノ様は病み上がりですので、ご配慮を」
ミストラージュは驚き、リリエはそう言ってアルテラの行動を諫めた。
でも先程リリエは、無遠慮に私に抱き着いて来たよね。
分かってる。リリエは嫉妬しただけだ。そこが可愛くて笑ってしまう。顔には出ないけど。
「──ヒメノさん!」
嫉妬するリリエをよそに、アルテラは私の隣に座って私の肩を抱き寄せて来る。スキンシップは良いんだけど、ミストラージュとリリエの視線が鋭くなって突き刺さる。
そんな時、部屋の扉が勢いよく開かれてルシアが姿を現した。扉を開くと同時に大きな声で私の名を呼んだので、驚いた。
「ルシア。無事でよかった」
「ヒメノさんに助けてもらったおかげだ」
そう答えながら、ルシアは安心したような柔らかな笑みを浮かべて私に歩み寄って来る。やがて私の前で止まると、私の前で跪いた。
「色々考えたんだが、私はヒメノさんにこの身を捧げる。私を……好きにしてくれ!」
ルシアは私の手を取り、私の手を握って上目遣いで力強くそう宣言して来た。
衝撃の告白に、現場はまた騒然とするのであった。




