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モテ期


 この世界には、まだまだ私よりも格上の存在がいる。

 アルテラはそのいい例だ。私は彼女の攻撃を受け止める事に成功したけど、彼女は本気ではなかった。もし本気でぶつかり合っていたら、私は確実に殺されていただろう。

 私のレベルは、57で止まっている。アスレベのレベルはマックスで99だったから、この世界でも当然99までレベルを上げる事が出来るはず。まだまだ伸びしろはあるけど、アルテラには勝てる気がしないな。それ程までに、私とアルテラにはレベルの開きがあった。


 アルテラなら、神獣くらい簡単に倒せてしまうと思う。まぁ彼女がカミに協力する事はあり得なそうなので、間違ってもそんな事はおきないと思うけど。


「ミストラージュは、トワの事を知っていたの?」


 その日の晩御飯の後、私はミストラージュにそう尋ねた。


 ちなみにハクもストレージから出て、一緒にご飯を食べた。

 今はミストラージュの凄く広い部屋に招かれ、私とリリエとハクがいる。ハクはミストラージュに撫でられ、気持ち良さそうにしていて、私はソファに座ってお茶を飲んでいる。


「勿論知っていますわ。正確無比な矢を放ち、多くの魔物を屠る実力派の冒険者──ついた二つ名は『天穿のトワ』。性格に難ありとのお噂は聞いておりましたが、可愛らしい方でしたわね」


 我が妹が、二つ名をつけられる程の冒険者……。

 トワもこの世界に来て、頑張って生きて来たんだと思う。アルテラには効かなかったけど、アルテラに対して放った魔法の矢は、かなり強力な一撃だったと思う。でもレベルは私よりも下かな。

 そこは姉として、どうにか威厳を保てるだけのキャパシティがある。


「いつから冒険者をしていたの?」

「お話を聞くようになったのは、この一年くらいだったと思いますわ。最初凄腕の弓使いの冒険者がいると広まって、それがトワさんの事でした。それがまさか、ヒメノさんの妹さんでしたなんて……」

「私も驚いた」

「それだけではありませんわ。私は今日、この世界の真理に迫った気分です。……弱音を吐くようですが、少し怖いですわ」


 今日ミストラージュは、カミの存在を知った。私とトワが、異世界からやって来た事を知った。この世界が改変された後の世界である事も知った。こことは違う、別の世界が存在する事も知った。

 そりゃあ怖くもなるだろう。自分が生きるこの世界がゲームの中の世界だなんて知らされて、ゲームの外の世界での出来事がこの世界に影響を及ぼしているのだから。人によっては発狂してもおかしくないレベルの真理である。


「私もヒメノ様から少しは伺っておりましたが、驚く事ばかりでした。まさかヒメノ様が異世界からやってきた方だったとは。それに、魔王様の娘のお体をお持ちだったなんて」

「……黙っていて、ごめん」

「謝る事はありません。むしろ嬉しく思います」

「嬉しい?」

「はい。私の母は魔王様にお仕えしていました。その魔王様のお子様に私が仕え、親子二代で魔王様親子に仕える事ができ、運命を感じます。しかもヒメノ様は、私好みの美少女。文句のつけようがありません」

「確かにヒメノさんはキレイですわね。その美貌、是非とも私の傍に置いておきたいですわ」

「お戯れを。ヒメノ様は、私の物ですので」

「あら。ヒメノさんがリリエさんの物ではなく、リリエさんがヒメノさんの物なのでは?」

「私はヒメノ様を愛していますので、同じような事です。もう既に口づけもかわしていますし、身体を重ねてもいます」

「くちっ──身体も!?」


 そう聞いて、ミストラージュの顔が一気に真っ赤に染まった。

 確かにキスはした。でも身体は重ねていない。いや、いるか。抱き合ったりはしてるから、リリエはたぶんその事を身体を重ねたと言っているんだと思う。

 誤解を生む言い方である。


「……なるほど、ヒメノ様は女性が好きなんですのね」

「まぁ……うん」


 まぁ否定はしない。男の人が嫌いとかという訳じゃないけど、女の子の方が可愛くて好きなんだよね。昔からそうだった。


 この世界に来てから、リリエにアプローチされた結果女好きが助長されている気がする。


「であれば、私にもチャンスはありそうですわね。この際だから言っておきますが、私もヒメノさんに好意を寄せていますわ」

「んなっ!?」


 リリエが驚きの声をあげた。私も内心驚いてはいる。

 そして顔を真っ赤に染めて告白して来るミストラージュが可愛い。


「小さな身体で強く、逞しい。お傍にいるだけで退屈する事がなく、流れる時間はあっという間に過ぎて行く。かつてヒメノさん程、ずっと一緒にいたいと思った相手はいませんもの」


 私もミストラージュには魅力を感じている。最初は我儘な人だなと思った。だけど無邪気にハクと戯れる姿や、凛々しく戦う姿を見てどんどん惹かれていった。

 知り合ってまだ短いけど、好きになれる要素はたくさんあった。


 でも私にはリリエがいる。私を慕い、文字通りにその身を私に捧げてくれたリリエを裏切り、他の女の子に手を出す事は出来ない。


「細かい事を気にする必要はありませんわ。ヒメノさんは、好きな子を好きなだけ侍らせれば良いのです。どこの国の王もそうしているように。ね、ハク」

『バウ!』


 分かっているのかいないのか、ミストラージュに撫でられてご満悦のハクは元気に吠えて返事をした。

 確かに王様って美少女をたくさん侍らせているイメージがあるね。私も同じように、か……。


 豪華なイスに座り、リリエとミストラージュを横に置く。手を二人の腰に回し、コップの飲み物を私に差し出し飲ませてくれるリリエ。他にも多くの美少女が私の足に頬ずりをしたり、身体を撫でている。そんな光景を思い浮かべる。


 どこの女王様だっ。自分でつっこんで、その妄想を消し去った。


「ふふ。少しだけ冗談も混じっていますが、私の気持ちは本気ですわ」

「確かミストラージュ様は一人っ子のはず。世継ぎは良いのですか?女性同士ではお子様が出来ませんよ」

「そんなの養子縁組でどうとでもなりますわ」

「ぐっ……!」

「安心してくださいリリエさん。私はヒメノさんを独り占めになどしませんわ。むしろリリエさんも一緒に愛するつもりです」

「わ、私も?」

「ええ。三人で、幸せな家庭を築きましょう。勿論ハクも一緒に」

『バウ!』


 お姫様の自由奔放な発言が止まらない。三人で一緒に愛し合うとか……なんかエッチだ。でも嫌いじゃない。むしろ好きだと言わせてもらう。


「い、一国の姫が、奴隷である私も愛するなど……!」

「私リリエさんの事も気に入っていますのよ。出来る事なら私が奴隷として買い取りたいくらいです」

「だ、ダメです。私はヒメノ様の物ですので、ダメです」

「分かっていますわ。ですから三人で愛し合いましょう!」


 あのリリエが、珍しく狼狽している。

 それが面白くて、思わず笑ってしまう。心の中でね。私は顔に表情が出ないから。


「──今はミストラージュ様は学生の身です。学校を卒業してから、気が変わらなければ考えましょう」

「学生の内だからこそ、燃えるのではありませんの?」

「燃える必要はありません」

「……分かりましたわ。今は自重いたします」


 その後リリエの説得によって、こう落ち着いた。かなり渋っているけど、仕方ないって感じだ。

 問題を先送りしただけのような気がするけど、それもまた面白い。


 というか私の意見が全く聞かれずに話が進んでいる。私はハクと戯れて話を聞いているだけで、いない者状態だ。


「それでは夜も遅いですし、眠りましょうか」


 ミストラージュがそう宣言した所で、私は立ち上がった。


「そうですね。急にこんな話をし出したミストラージュ様のせいですね。では、ヒメノ様。お部屋に戻りましょう」

「うん」

「あ、ヒメノさん」

「なに?」


 ミストラージュの部屋を出ようとした瞬間、ミストラージュに呼び止められた。ミストラージュは私の名を呼びつつ私に歩み寄って来ると、突然私の頬にキスをした。


「おやすみなさい」


 頬を赤く染め、少しだけ恥ずかしそうにミストラージュがそう挨拶をしてくる。突然の事に呆然としてしまった。頬に残る僅かなミストラージュの唇の感覚が、私の思考を麻痺させる。


「……おやすみ」


 私はどうにか戻ってきた意識で、ミストラージュに挨拶を返してリリエに手を引かれてミストラージュの部屋を後にした。

 あれ、そう言えばハクが付いて来ていない。今夜もミストラージュと一緒に眠るつもりなのだろうか。まぁいいか。


 自室に戻ると、対抗意識を燃やしたリリエにも頬にキスをされ、それからそれぞれのベッドに横になった。

 目を閉じて、こう思う。この世界に来てから、私モテすぎじゃね。モテ期がやってきたのだろうか。といっても、好意を寄せてくれているのは2人だけだけど。それでも2人同時に好意を寄せられるなんて、凄い事だ。

 いくつか懸念はあるけど、妹とも仲直りする事が出来て何もかもが怖いくらい順調に進んでいる。

 こんな生活が、ずっと続けば良いな。そう思いながら私は眠りについた。


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