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カミの敵


 私はゲームの事を、出来るだけ伝わるように説明した。


 この世界は、私にとってゲームの世界──とある物語の中の世界である。そのゲームではカミという敵がいて、主人公の勇者アルディスを操り、世界を支配しようとするカミを倒す。そんな物語が描かれていた。


 ある日、その物語の中で討伐不可能な存在を倒してしまった私がいる。


 カミの説明によれば、そのせいで世界は改変されてしまった。

 カミは私に倒されると同時に、私が元居た世界に手を伸ばした。その際にこの世界に引き込まれたのが、私達カミの眷属である。

 引き込まれたこの世界は、私が知るアスレベ──ゲームの世界とは全く違う世界となっており、私大混乱。

 とりあえず、この世界に引き込まれてからちょくちょく現れるカミの声に従い、この世界を元に戻すために神獣を倒して回っている。

 そんな状況を、私はアルテラに説明した。


「ちょ、ちょっと待って。てことはなに?この世界に私が引き込まれたのって、お姉ちゃんが原因だったって訳?」

「いや、ボクの方こそ待ってくれ。この世界が改変された原因は、キミがその……ゲームとやらのカミを倒したからって言うのかい?」


 それまで私の話をおとなしく聞いていた2人が、同時に身を乗り出して聞いて来た。

 私は恐る恐る、頷く。怒られるのが怖いけど、ここで認めなければ前に進めない。


「だとすれば君はこの世界の救世主だ!ありがとう!なんと言ったらお礼を言ったらいいんだろうか!」

「あんなクソみたいな負けイベを攻略しちゃったって言うの!?一体どうやったのよ、教えて!それとこの世界に来れたのもお姉ちゃんのおかげだったなんて、凄いじゃない!」


 予想外にも、2人は喜んでくれた。

 アルテラは世界が改変された事を。トワはこの世界に連れて来られたことを。

 アルテラはともかくとして、まさかトワが喜ぶとは思わなかった。私とは違い、元の世界で元気な体を持っていたトワが、こんな危険な世界に連れて来られて喜ぶ理由が見当たらない。

 いや、あると言えばあるか。トワは親のプレッシャーを重く感じていたようだから、そのプレッシャーから解放された事にはなる。でも、普通それだけでこんな危険な世界に連れて来られた事を喜ぶだろうか。


「この世界は改変された世界……元の世界は、カミが支配していた……。カミと言えば、昔そう呼ばれた存在がいましたわよね。確か異世界からの侵略者で、勇者様がそれを討ち滅ぼし世界を守ったと」

「そう。そのカミだ。この世界ではカミは勇者に倒された事になっている。ボクはその勇者を探しにザリフォス……じゃないや。ガザールンにやって来た」

「アルテラ様もですの?私達も勇者様を探していたのですよ」

「ヒメノ様がカミにそう命じられたから、ですね。ミストラージュ様にも手伝いをするよう助言したのも、カミのようです。ちなみに私とミストラージュ様はカミの眷属ではありません。私達はあくまで、ヒメノ様の従者と、友です」

「うん。なんとなくそうだろうと思ってたよ。で、君達は勇者を探してどうするつもりだい?」

「……別に。探せと言われただけだから、その後の事は考えてない」

「私も同じよ」

「はぁ……カミが何を考えているのか、全く分からない。ちなみにボクの事も知らされていなかったのかい?」

「知らなかった」


 私の返答に、アルテラは頭を抱えるような仕草を見せる。同時に貧乏ゆすりも始まり、苛立った様子を見せられるとちょっと怖い。先程のようにまた打ち合いが始まったら、この家が吹き飛んでしまう。


「アルテラは、どうしてこの世界が改変されたと知っているの?貴女の声は、カミと同じ物だった。貴女はカミの、なんなの?」


 アルテラの苛立ちに、拍車をかけるような質問を投げかけた。この質問によってトワの家が破壊される事になったら、私の責任だ。ごめんと先に謝っておく。心の中でだ。


「……いいよ、教えてあげる。ボクは改変される前の世界で、カミの奴隷だったんだ。ボクってほら、見た目は勿論可愛くて、声もプリティだろう?」

「……うん」


 自分で言う事ではないけど、同意はしておく。アルテラは可愛いと思うよ。本当に。声もね。

 でも私だって負けていない。よく考えればこの場にいるリリエにミストラージュとトワも可愛くて、かなりレベルが高いな。


「カミがそんなボクを気に入って傍に置き、ペットのように飼っていたんだ。ボクはカミの傍で、カミの残虐性を見て来た。世界の半分を自分の支配下におき、もう半分を自由にさせる。彼の箱庭と化した世界で、見せかけの自由を謳歌する者達は平和に暮らし、でもある日突然カミの差し金で争いを始める。一方が有利かと思えば、不利な方に圧倒的な力を貸し与え、かと思えば次の瞬間にはもう一方にそれ以上の力を貸し与える。この世界の生物を掌の上で転がし、見て楽しそうに笑っていた。カミは自分以外を、虫けらとしか思っていない。特に、大切な人を失った者のリアクションを見て喜ぶ傾向にある。何度も殺してやろうと思ったけど、失敗して、その度にボクの大切な者を殺された。カミの力は圧倒的だった。でもある日、突然変化が訪れた。カミが突然、弾け飛んだんだ。その瞬間世界がぐにゃりと曲がって変化を始めた。カミの近くにいたボクは、弾け飛んだカミに巻き込まれる形で吸い込まれた。或いは吹き飛んだ。何が起こったのかはよく分からない。でもカミに巻き込まれる事によって、世界の改変から逃れる事が出来た。気づけばボクは、何もかもが変わったこの世界にいた。今から7年程前の出来事だ」

「あたし達がこの世界にやって来たのも、7年前……」

「でも、どうしてカミはアルテラと同じ声なの?」

「カミはボクを気に入っていた。気に入ったボクの真似をしているのさ。気持ち悪いし、腹立たしい。勝手にボクの声を真似するなんて、赦せないねっ」


 頬を膨らませて、怒りを表現するアルテラ。可愛いけど、内心ひやひやするからやめてほしい。

 特にトワが不安そうにしている。


「……お話を聞くと、やはりカミに協力するのは危険なのではないでしょうか」


 そう呟いたのはリリエだ。


「その通り。でも君達は、カミに従い続けるんだろう?カミは眷属となる者の心を奪い、意のままに操り支配する力を持っていた。君達がカミの眷属を名乗るなら、もう手遅れなはずだ」

「……確かにカミは、そういう力を持っていると思う。実際私もカミに心を支配されそうになった。けど、リリエのおかげで支配は解けた。私は自分の意思で行動している」

「本当にそう言い切れるかい?そう思い込まされているだけじゃなくて、本心で言ってる?」

「本心。私は……この世界を、大好きだったゲーム『アストラル・レベリオン』の世界に戻したいと考えていた。カミの復活には興味がない。カミは、自分が復活すればこの世界は元に戻ると言っていた」

「確かに元に戻るかもしれないね。だけど元の世界に戻ると言う事は、カミに支配された世界に戻るという事だ。君はカミに支配された世界を望むのかい?」

「……望まない」

「この先の行動は、よく考えるべきだ。このままカミの眷属として神獣を倒し、カミの復活を望めば、世界を破滅へ導く事になる。それに、ボクとも敵対する。どうせ放っておいたって、いつかはカミは復活するんだ。君が今命張るのもバカらしいとボクは思うけどね」

「放っておいても、復活する?」

「その様子じゃ知らないみたいだね。カミの魂が宿った魔物……神獣にも寿命はある。わざわざ倒さなくとも、その内死ぬ。神獣が全て死に絶えれば、カミはその内復活してしまう。そもそも神の魂を持つ神獣は、カミの意思で動いているんじゃないかとボクは思っていたけど違うのかな」

「じゃあどうしてカミは、私達に神獣を倒させようとしているの?」

「カミの考えている事なんてボクには分からないよ。でも予想するなら……君達を見て楽しんでいるんじゃないかな。自分の意のままに動く者達に降りかかる、命懸けの戦い。汗と涙と怒りに、葛藤。復活するまでの間の暇つぶしとしては、イイ見世物だろう?」


 ありそうで、鳥肌がたった。

 カミのために戦ってきた訳ではないけど、カミの指示に従って命懸けで戦って来たのに、全てはカミを楽しませるためのものだった。そんなのあまりにも虚しく、踊らされていただけのようで悔しい。


「ただの予想だよ。もしかしたら神獣が死んで自分の魂を集める以外にも、必要な物があるのかもしれない。或いは両方か」

「分からないとか言いつつ、カミの心の中を見透かすような事を言うのって、どうなの?それにあんたはカミの敵なのよね?あんたの言葉はあたし達をかく乱するための嘘の可能性もある。改変される前の世界を支配していたのは実は逆で、あんたの可能性だってあるんだから信用できないわよ」


 トワがアルテラに対し、堂々と言い放った。確かにアルテラの言葉が嘘の可能性だってある。だけど私には、アルテラが嘘を言っているようには思えなかった。


「トワ様の言う通りです。証拠も何もないのに、アルテラ様の言葉を鵜呑みにする訳にはいきません。しかしカミなる存在に対しては、私もヒメノ様も疑念を抱いておりました。アルテラ様の言葉を聞き、その疑念が更に深まりました」

「ボクの言葉を鵜呑みにしないのは正解だ。ボク達は今日知り合ったばかりで、ボクも君達の話は半信半疑で受け止めさせてもらっておく。カミとボク、どちらが言っている事が正しいかは、各々で判断してくれ。今じゃなくてもイイ。ただし、今カミに完全に支配されていないのなら、そのまま心を強くもつことをお勧めする。手遅れになったら、お終いだ」

「70年前にこの世界に突如として現れた、異世界からの侵略者……。私達は侵略者の事を詳しく知りません。勇者様がすぐに倒してしまったからですわ。一方で当時人間の領地に侵攻を開始し、多くの町を破壊した魔王の存在はよく知っています。各町を襲い、大魔力結晶を回収して町を破壊した恐怖の魔王……その魔王の称号を継ぐ者の言う事を信じろと言うのは、難しいと思いますわ」

「当時の魔王は、異世界からの侵略者が来ようとしているのを、知っていた。大魔力結晶を集めていたのは、侵略者──カミに対抗するため。とある兵器を使うのに、強力な魔力が必要だった。魔王は人間に異世界からの侵略者の事を話し、協力を仰いでいた。だけど人間は断った。魔王の話に聞く耳ももたなかった。だから魔王は、この世界を守るために人間の町を襲い、大魔力結晶を集めていた。魔族領内にある大魔力結晶も、出来るだけ多く集めて町を潰した。全てはカミに対抗するため。しかし人間と勇者がそれを邪魔した。この世界では勇者がカミを倒した事により、魔王は悪として世界中から非難される事となった。魔王は自分の罪を認め、大きな混乱を避けるためにろくな抵抗もしなかった。最期は重臣と娘を連れてガ・リグレに命からがら逃げ延びた。そこで娘にその場にいた全ての魔族の力を授ける形で封印を施し、いつか魔族が復興する事を願って自害した」


 私は知りうる限りの魔王に関する情報を話した。情報は、ゲームの物とこの身体の記憶からもたらされている。


「ガ・リグレが多くの魔族の怨嗟の声によって浸食され、現世の者を寄せ付けない魔の空間になっている事は有名な話だ。それにしても君は随分と魔王に詳しいようだね。どうしてだい?」

「私のこの身体は、『魔王ベルフグラン』の娘の物だから。断片的にではあるけど、この身体の記憶も引き継いでいる。だから、魔王が何をしようとしていたのか少しは分かる」

「なるほどね。ボクの一撃を防いだ君の力は、魔王の力を断片的に継いだから出来た芸当だったのか。納得だ。で、本物の魔王の娘はどこへ行ったんだい?」

「私がこの身体に入り込んだ時にはもう既に、魂はない状態だった。長い孤独に耐える事が出来ず、魂だけ死んでしまったんだと思う」

「……娘を生かすために施した術が、結果として娘を殺してしまったのか。切ないね」


 或いはそれを、悲劇と言うのかもしれない。私にとってはこんな可愛く強い身体が手に入って文句はないけど、魔王やこの身体の下の持ち主には少しだけ申し訳ない気持ちもある。


「さて。それじゃボクはそろそろ行くよ。勇者を探し出さないといけないんでね」


 そう言うと、残っていたお茶を一気に飲み干してアルテラが立ち上がった。


「アルテラは勇者を見つけ出して、どうするつもり?」

「カミの討伐に協力してもらうのさ。寿命を迎えて死んでいたとしても、この町には勇者の末裔がいるはず。だろ?」

「どうしてそれを?」

「先日この町で、強大な力を感じた。神聖なる、強大な力だ。勇者が力を使ったか、勇者の子がその力に目覚めたんだ。ボクは後者の可能性が高いと睨んでいるけどね。カミも同様に力を感じて、君達をこの町によこしたんだと思うよ」

「じゃあ、一緒に探す?」

「え?君達と?」

「そうですわね。この町をアルテラ様のようなお方に自由に闊歩されると、何が起こるか分かりませんもの。ならばいっその事、一緒に探すのはいかがでしょうか」

「そりゃあボクは助かるけどさ、ボクはカミの敵だよ?本当にいいの?」

「別に私は、カミの味方という訳じゃない。勇者も探すように言われているだけ。なら、一緒に探しても問題はないはず。勇者も探すようにと言われているだけ。アルテラの邪魔はしない」

「……分かった。実の所土地勘が無いから案内がいるのは心強い。それじゃ一緒に勇者を探そー!」


 アルテラは笑顔で拳を突き上げ、そう言った。


 まるで表情のあるカミのようだ。言ったら不機嫌になるだろうから、勿論言わない。


 こうして私達は自らを魔王と名乗るアルテラと共に、勇者探しを再開するのであった。


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