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ヘタな絵


 次の日起きると、私は昨夜のカミの事をリリエに話した。どうやらカミが現れても、やはりリリエは認識する事が出来ないらしい。それどころか、昨夜は起こしても無反応だった。

 なので私が一人でカミと対峙し、話し合いをした。


 という話をした。


 結果として、私はカミを許した。でも次はない。次もし私に対して敵対的と思われるような行動をしたら、その時点でカミとは縁を切る。

 リリエも私の判断を尊重してくれた。


「カミなる存在にヒメノ様が従うと言うのであれば、私が反対する理由はありません。しかしもしヒメノ様の様子がおかしくなれば、その時はカミによってまた支配されようとしていると判断します。その時は問答無用でカミから離れると、そう約束をしてください」


 ソファの上で、私はリリエと話している。隣り合って座り、手を握り合った状態でだ。おかげで心が凄く落ち着く。


「約束する。その時は任せる」

「はい。しかしどうしてヒメノ様は、カミなる存在の復活に協力するのですか?」

「今のこの世界は、本来あるべき姿じゃない。元の姿に戻すためには、カミの復活が必要」

「どういう意味でしょうか。私には分かりかねます」


 なんて言えば良いんだろう。この世界は私がゲームでカミを倒してしまった事で改変された世界で、本当の姿じゃないんだよ……なんて言っても、やっぱり意味は通じない。


 私が思い描く『アストラル・レベリオン』は、勇者と魔王が手を取り合ってカミを倒し、皆が幸せになる世界だ。魔族が迫害され、大勢の奴隷を生み出したこの世界ではない。やはり、元に戻したいという想いが強い。


「カミと私は利害が一致している。リリエにもいつか話すつもりではあるけど、今はそれだけ知ってもらえれば良い」

「……分かりました。今はそれで満足しておきます。それでカミは、次はどうしろと?」

「この町に、勇者……あるいは勇者の末裔がいるらしい。それをカミの眷属と共に探し出せと言っていた」

「確か勇者は、その絶大な力を引き入れようと各国が躍起になり、嫌気がさして姿をくらましたと聞いております。この町にいると分かっていても、もう何十年も情報がなく、探し出すのは容易ではないかと……」

「ミストラージュに協力してもらうように言われた」

「確かにミストラージュ様に協力してもらえれば力強いですが……それでも難しい事に変わりありません。だって誰も勇者の顔を知りませんし、末裔ともなると尚更分かりませんので」

「勇者の顔は、知っている」

「では、見れば分かりますか?」

「……当時の姿は、分かる。でも今の姿は分からない。子供も知らない」


 ゲームで見たあの人物の通りなら、見ればわかるはず。でも時が経ちすぎているので、老いた姿が見分けがつくかどうかは分からない。

 正直にストレートに言えば、分からないが答えとして正しいか。


「やはり難しいかと思われますが……それでも行動には移すのですよね?」

「うん。やれるだけの事は、やる。それとカミの眷属が、町の冒険者ギルドにいるらしい。その人にも会っておきたい」

「では朝食を済ましたら、まずはミストラージュ様に協力を仰ぎましょう。ミストラージュ様なら快く承諾してくださるはずです」


 という訳で朝食を済ませると、私はミストラージュのもとへとやって来た。ここはミストラージュの私室で、塔の25階に位置する一室だ。私達が泊まっている部屋よりも、遥かに広く、豪華な部屋である。なんだかよく分からない彫刻品やら絵画やらが飾られており、天井にも絵が描かれていて博物館か何かのよう。


「──了承、ですわ!」


 勇者を探したいから協力してくれと言ったら、即了承された。


「ありがとう」


 部屋を訪れた私に、一日ぶりのハクがすり寄って来て可愛い。頭を撫でつつ、感謝の意を伝えた。


「でも勇者を探したいと言われても、協力出来る事は限られていますわよ?だって勇者の行方は誰も知らないのですから」

「分かってる。ミストラージュには町の案内や、情報収集をお願いしたい。……ところで、勇者の名前は知っている?」

「『アルディス・クレイ・ハバード』。それくらいなら知っていますわ」


 ゲームの主人公の名と一致する。間違いなく勇者の名だ。


「ですがその名を使っている可能性はゼロに近いかと」

「そうですわね。本当に勇者がこの町の中にいるのなら、偽名を使っているはずですわ。せめて容姿の特徴が分かれば、少しは探しようがありそうなのですが……」

「若い頃の姿なら、知っている。だから思い出して、似顔絵を描いてみた。これを参考にして探してほしい」


 私はそう言って、ここへ来る前に描いておいた似顔絵を差し出した。


「ヒメノさんは勇者を見た事がありますの!?そしてコレが、勇者の姿……!」


 リリエはその絵を見て、何も言ってくれなかった。無言で受け取り、無言で返してきた。自分では上手くかけているつもりなんだけど、ミストラージュは何と言ってくれるだろうか。自分が描いた絵を他人に見せるのって、なんだかドキドキするね。


「……なんですの、このラクガキは?」

「ラク、ガキ……?」


 私の絵を見たミストラージュが、今間違いなくラクガキと言った。


『バウ……』

「……」


 ハクとリリエもその絵を見て、それぞれ小さく吠えて、ただ黙って目を閉じる。


「あ、ああ!えっと……見方を変えれば、味のある絵ですわ!ただその、なんというか……まるで子供が描いたような絵というか……これでは全く分かりませんわ」


 つまりヘタクソだと、ミストラージュは言っている。私はその紙を取って、再びよく見てみた。


 目は丸い二つの円と、その中にもう一つの円を描いている。鼻はちゃんと描いてあるし、口もある。髪は確か少しツンツンしたような感じだった。耳もあるし、全体的によくかけていると思う。

 そりゃあプロと比べればヘタクソだろう。だけど私の目から見れば、よくかけている。


「……さぁ、まずは冒険者ギルドへ向かいましょう」


 リリエは私の絵に関して何も言わずに、そう言って歩き出した。ハクもその後に続いていく。


「わ、私も着替えて向かいますわね。少しお外でお待ちくださいませ」


 言われた通り部屋の外で待つ私とリリエと、ハク。私の手には未だに私が描いた勇者、アルディスの絵が握られている。


「私の絵は、ヘタ?」

「……」

『バウ……』


 リリエは相変わらず黙り込み、ハクは遠慮がちに吠えた。

 どうやらヘタのようだ。ショックだ。ショックを受けてまじまじと絵をみつめていると、リリエが慰めのつもりか、頭を撫でてくれた。ハクも私にすり寄って頬を擦り付けて来る。

 まぁ別に良いけどね。絵がヘタでも生きていけるし。


「お待たせしましたわね!それでは出発いたしましょう!」


 ミストラージュは、見慣れた制服姿に着替えていた。そして新しいフード付きの上着を羽織り、顔を隠している。さすがにホームタウンのこの町で顔出しは目立つのだろう。

 しっかりと顔を隠した上で、私達についてくるつもりのようだ。


 という訳で私達は、城下町へとやって来た。向かうのは冒険者ギルドだ。

 冒険者ギルドでは町の人々の困り事を仕事として張り出し、ギルドに登録している冒険者が自分にできそうな仕事を受け、報酬を貰う場として機能している。中には魔物の討伐や盗賊の撃退に、危険な場所へ赴いての物資の採集といった仕事まである。

 まぁ今回はただカミの眷属に会いに行くだけなので、仕事を受けたりする予定はない。

 人で賑わう町の中を、ミストラージュが先導して進んでいく。

 ハクは例によって、ストレージの中にしまわせてもらった。


「こっちですわ!この道が近いんですの!」


 ミストラージュは細い路地を迷いなく進んでいく。さすが地元民。抜け道をよく知っているようだ。

 そんな地元民のミストラージュについて歩いて行くと、大きな通りに出た。そして目の前に、大きな建物がそびえたっている。


「つきましたわ。ここがガザールンが誇る冒険者ギルドですの」


 立派な3階建ての、レンガ作りの建物だ。入り口は一階の真ん中あたりに位置しており、そこに腰丈程の高さのスイングドアが設置されている。しきりに人が出入りしているんだけど、出入りする人は皆それっぽい。大剣を背中に担いだり、弓や剣を持っていたり、鎧を着込んでいたり、かと思えば異様に身軽な格好をしていたりと、まるで本当にゲームの世界の冒険者のようだ。

 こうして歴戦の冒険者たちを前にすると……心が躍るね。


「ここに協力者がいるんですのよね?なんという名前の方ですの?」

「名前は分からない。容姿も分からないけど、たぶん女性。あと、偉そうにしてるらしい」

「……随分とアバウトですわね。勇者探しくらいアバウトですわ」


 確かにその通りなんだけど、カミがもたらした情報だ。きっとゼルの時みたいに、簡単に分かる気がする。


「とりあえず入ってみましょう」


 リリエが先導して歩き出し、ギルドの扉を開いた。私とミストラージュも後に続いて入っていく。

 扉をくぐるとまず、いい匂いがした。料理の匂いだ。左右のスペースに机とイスが置かれており、そこに座って料理を楽しむ人達がいる。ギルド内では仕事の斡旋だけではなく、こうして食事と飲み物の提供もされており、居酒屋のように利用する者もいる。

 奥の方にカウンターがあり、そこでお金のやり取りや、仕事の受領などの処理がされる。ギルドの受付嬢はギルドの緑色の制服に身を包み、タイトスカートを穿いて冒険者たちに応対している。


「……」


 ギルドの中に入って来た私達に、冒険者たちの冷たい視線が刺さった。

 メイドと、ゴスロリ幼女と、顔を隠した少女。ギルドでは視線を集めるのに十分な、場に相応しくない組み合わせだ。


「どこのお嬢さんか知らないが、ここは使用人を連れて入って来るような場所じゃねぇぞ。邪魔くせぇからとっとと出て行きな」

「がはは!確かに乳臭くてたまんねぇや!」


 端っこの方でお酒を飲んでいると思われる男2人が、私達に向かってからかうように言って来た。年齢は40歳くらいかな。革の鎧を身に着け、剣と盾を傍に置いている。

 経験豊富な冒険者って感じの装いだけど、顔が真っ赤で相当酔っていると思う。


 彼らのヤジに追従するように、他の冒険者からも笑いが起こった。


「品のない方たちですわね。気にせず目的の人物を探しましょう」


 そう言って、ミストラージュが歩み進んでいこうとするも、その前に巨漢の冒険者が立ちはだかった。更に周囲に同じように背の高い男達が私達を取り囲み、それ以上進めないようにしてくる。


「さっき言われたろ?お前等にゃこの場所は相応しくない。出て行きな」

「それともオレ達と遊びたいのかな?遊びたいならちゃんと誘ってくれなきゃダメだぜ」

「私達は人探しに来ただけです。邪魔しないでいただけますか?」

「う、うお……」


 若干イラだった様子で、リリエが男達を睨んだ。リリエの背は、男達よりも高い。リリエに高みから睨まれると、男達が若干怯んだ。


「──ちょっとそこ退いて」

「あ?」


 私達を囲う男達に、背後からそう言い放つ人物がいた。それは女の子の声だった。


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