利害の一致
『やだやだやだぁ!ヒメノちゃんが協力してくれないとやだぁ!別に悪気があった訳じゃないんだって!ボクだって不安で仕方ないからした事なんだってぇ!信じてよぉ!共感してよぉ!不安だったんだよぉ!そんな意地悪な事言わないでよ、やだやだやだぁ!やーだ!協力してお願いだからさぁあ!』
「……」
床を転がって、ダダをこねるカミがいる。まるで子供のような行動に、私は呆然とするしかない。
カミは自らの復活を望んでいる。そのための数少ない協力者を自らの操り人形とし、復活を盤石な物とする。
そんな事が出来るのなら、私でもしない事はない。特に非協力的な者に対してなら、尚更するかもしれない。少しは気持ちを理解してあげる事は出来る。
だけどやっぱりここまで協力してあげてきた身としては、裏切られたような気持ちだ。
『お願いだよぉ。謝るからそんな意地悪な事言わないでおくれよぉ。ボクにはヒメノちゃんが必要なんだよぉ。可愛いボクの頼みを聞いておくれよぉ。ヒメノちゃんの事、あんな手に引っ掛かって心に隙を作っちゃうおバカさんだと思ってたけど、それも改めるからー』
「あんな手?」
『そうだよぉ。あれを罪だと言うなら、犯罪者と少しでも関係のある者全てが罪人となってしまう。普通なら引っかかる手じゃない。でも君は子供だから、引っかかる。経験が浅すぎて、非常に操りやすい。子供は素直で、操りやすくてイイネ!』
腹が立つ。カミの私をバカにする言葉にも、自分にも。何故あんな手に引っ掛かってしまったのだろうと、自分でも思う。
自分は大丈夫。騙される訳がない。そう思っていたけど、気づけば騙されていたという話はよく聞く。まさにそんな感じ。
でもカミの言葉自身に、何かそういう風にさせる力もあったのだと思う。と、言い訳はさせてもらう。
「……私はこの世界を、元の世界に戻したい。勇者と魔王が手を取り合い、異世界からの侵略者を倒した世界。それこそがアスレベの世界で、今のこの世界はアスレベではない」
『ボクが復活すれば、世界はまた改変される。君が望む世界の姿に戻るはずだ』
「そのためなら、協力しても良いと思っている」
『本当かい!?』
「ただし、もう二度とこんな真似はしないで。手伝ってもらっている人を操り人形にしようだなんて、失礼にも程がある。手伝う気も失せる」
『うん、うん!約束するよ!ヒメノちゃんが手伝ってくれるなら、何でもしちゃう!』
「本気で言ってるの?」
『勿論本気さ!神に誓って、本気!』
カミが立ち上がると、気を付けをして手を上げて宣誓した。
カミは本気だと言うけど、それを信じて良いかの判断が難しい。
でも利害は一致しているのだ。私は世界を元に戻したい。そのためにはカミを復活させる必要がある。カミはただ単純に、復活がしたい。
「……なら、良い。今回だけは許す」
『うおおぉ!ありがとう、ヒメノちゃん!感謝するよ!ありがとう!』
カミは腕を目に当てて泣くような仕草を見せて来る。叫んで大泣きしているようには見えるけど、実際は泣いていない。無表情である。
今回はリリエのおかげで、どうにか支配される事は免れた。初犯だし、利害は一致しているので見逃してあげる事にした。
甘いだろうか。でも次はない。同じ事をしようとしたら、私はもうカミには協力しない。それどころか逆もあり得る。
「この世界の者は干渉出来ないと言っていたけど、ハクはカミの存在に気付いているようだった。それは何故?」
ノルンに対し、吠えていたハクを思い出した。ハクはノルンがカミと気づいて、吠えていたのだ。その後もこちらに向かって手を振っているカミの気配を感じ取り、激しく吠えていた。確実に、カミの気配を感じ取っていたと思う。
『ハク?それは一体どれの事だい?』
「私が使役している、魔物。白いダイタルフォス」
『ああ、アレか!アレにはどういう訳か、ヒメノちゃんの肉が混じってる。もしかしてだけど、食べられたりした?』
「……した」
『カミの眷属たるヒメノちゃんの血と肉を食べる事によって、それでボクの気配を少しだけ感じられるようになったのさ!それにしても魔物に食べられるなんて、凄い経験をしたね。痛かった?苦しかった?それとも気持ち良かった?』
気持ち良い訳がない。痛かったし、苦しかったし、怖かった。おぞましい体験だ。
ちなみに今晩、ハクはミストラージュの所で眠る事になった。ミストラージュがどうしてもハクと眠りたいと言うので、許可してあげる事にしたのだ。だからここにはいない。いたら吠えていたのだろうか。
『……それにしてもやっぱり異世界の者が絡むと、先が見え辛いなぁ。特にヒメノちゃんの行動は、イレギュラーすぎる。やっぱりボクが支配して管理し、先を読めるようにしておきたい』
急にカミのテンションが落ち込んで、そんな事を呟いて来た。
「次私を支配しようとしたら、その時はもうカミには協力しない」
『分かってるよ。ただ言ってみただけだ』
「……先が見え辛いと言ったけど、カミにはこの先この世界で何がおこるのか分かっているの?」
『ある程度はね。でも観察の結果に基づく計算からこうなると予測するだけだから、絶対じゃない。特にイレギュラーな行動をする者がいれば、その分だけ予想は外れる。例えばボクの計算ではヒメノちゃんはとっくに洞窟で死んでいたはずだ。でもこうして生きている。そしてボクのお願いを聞いて、神獣を2体も倒してくれた。嬉しい誤算だ』
「私はそれ程大それた事をしたつもりはない」
『してるさ。これからもカミの眷属として、ボクの予想もつかない事をしてくれる事を期待しているよ』
「……それで、次はどうすれば良いの」
『そうだね。もう時間がない。さっさと本題に入ろう。今君がいるその町には、もう一人のカミの眷属がいる。彼女と合流してほしい。そして協力して、この町にいる勇者か、勇者の末裔を探し出してくれ』
彼女、という事は女の子か。少し楽しみだ。
「勇者?」
『そう、勇者。勇者はかつてボクを倒した者だ。この世界の勇者は、君がボクを倒したせいで化け物みたいな力を持っていた。誰も逆らえない程の力を持った勇者に、世界は危機感を覚えた。世界中が勇者のご機嫌をとって、自陣に引き込もうとする。そんな生活に嫌気がさした勇者は、ある日突然姿を消した。その後の足取りは誰にも分からない。今も生きているとしたら、相当な老人だ。死んでいるとしたら、恐らく子孫を残している』
「どうして分かるの?」
『勇者はこの世界にとって、特別な存在──いうなれば主人公だ。主人公なき世界は、物語として成立しない。だから何かの要素がなければ絶対に、この世界から失われる事はない。絶対に存在する』
「絶対にこの町にいるの?」
『いるはずだ。ボクを倒した忌々しい者の気配を、この町で感じる』
「探して、どうするつもり?」
『とりあえずは探し出してもらうだけでイイ。その後の事はあまり考えていない。ただ勇者の所在が分かれば、それでイイんだ』
「……分かったけど、探すのは難しい」
この町は広い。大勢の人が住んでいる。その中から特定の人物を探し出すのは容易ではない。
『普通はそうだけど、君には協力してくれそうな人物がいるじゃないか』
「……ミストラージュ」
『その通り!お姫様の力を得られれば、百人力だろう?もう一人の眷属と協力し、仲良く勇者の血を探してくれたまえ!』
カミは、ミストラージュの護衛を経て私とミストラージュが仲良くなる事を見越していたのか。ミストラージュと仲良くなれた事に後悔はないけど、カミの目論見通りだったと考えると少しだけ悔しい。
「……分かった。もう一人の眷属はどこにいるの?」
『町の冒険者ギルドで、偉そうにしている。ギルドを訪れればイイ』
冒険者ギルド……。
冒険者が仕事をもらう場の事だ。やっぱり現実のこの世界にも、ちゃんと存在するんだね。ちょっと感動した。
それはさておき、凄くアバウトな説明だ。偉そうにしているとかじゃなくて、見た目の特徴や名前を教えてもらいたい。
「もう少し詳しく──」
『おっと、そろそろじか──じゃ──こ──』
カミの身体にノイズが走った。言葉が途切れ途切れになり、次の瞬間にはその場から姿が消え去ってしまった。もう一人の眷属について聞こうとした事も聞けず、私はその場で取り残される形となった。




