↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/72

お食事会


 更にゴロゴロとしていたら、そこに部屋の扉をノックされる音が響いた。


「はい。どちら様でしょうか」

「私です。ミストラージュですわ」

「今開けます」


 リリエが応対し、その扉を開いた。

 開かれた扉の先にいたのは、お姫様だった。緋色のドレスに身を包み、大胆に背中と胸の谷間を露出したミストラージュである。彼女のスタイルは良いと思っていたけど、こうして見ると本当に良い。出る所は出て、ウエストや太腿は細い。


 リリエとはまた違った女性の魅力を兼ね備えたボディである。


 制服姿も素敵だったけど、大人っぽいドレス姿も凄く似合っている。こうしてみると、彼女が本当にお姫様なんだなと実感できる。


「お食事会に呼びに来ましたわ。あ!いいな、それ私もしたいですわ!」

『バウ』

「……」


 私は床の絨毯の上で、ハクを枕にしてゴロゴロしている所である。

 それを見て、ミストラージュが羨ましそうにして来た。

 床の高級絨毯と、ハクのもふもふの身体は寝心地が最高に良い。私はもう一生この沼から抜け出せないのかと思い始めていた所である。


「お食事会に行くのでしょう?後にしてください。ヒメノ様も立ち上がってください。立ち上がらないのなら置いていきますよ」

「……」


 そんな事を言われても、中々立ち上がる事が出来ない。私はゴロゴロしたままハクに抱き着き、リリエに反抗の意を示す。


「よろしいんですの?ハクに高級なお肉をご馳走する約束でしたのに、これでは約束を果たせそうにありませんわ」

『!!』

「……痛い」


 ミストラージュの言葉に反応したハクが、勢いよく立ち上がった。そのためハクに頭を預けていた私は床に頭を打ち付け、痛みを味わう事となった。

 主人である私が痛みを訴えていると言うのに、薄情なものでハクは尻尾を振りながらミストラージュにすり寄っている。餌でつられたハクは、ミストラージュに頭を撫でられて嬉しそう。


 肉のために主人を裏切るとは……でも私も高級な食事には興味がある。すぐに立ち上がってハクに続いた。


 こうして私達は、ミストラージュに連れられて食事会にやって来た。食事会と言っても、その場には私達とアブレストから一緒にやって来た兵士達に加え、数名のメイドさんがいるだけだ。特別な服装を着たりもせずに、いつも通りの格好で集まっている。

 ハクを初めてみるメイドさん達は驚いていたけど、ミストラージュが事前に説明してくれていたようだ。驚きつつも皆快く迎えてくれて、ハクを撫でてくれた。


「えー……道中護衛していただき、ありがとうございました。ささやかながらお食事を用意させていただいたので、皆さん遠慮せずにたくさん食べてくださいませ。では、どうぞめしあがってください」


 机の上に並んでいる、豪華な食事の数々。席へとついた私達は、ミストラージュの挨拶を経て手にナイフとフォークを持つと、食事を開始する。

 どの食事も異様にキレイで飾られており、崩すのがもったいない。とりあえずは前菜として、サラダをいただいた。サラダにかかっているドレッシングが、丁度良い酸味で野菜によく合う。むしゃむしゃと草食動物のように食べた。


「お、おれ、お姫様とお食事する事になるなんて思ってもみなかったッス……」

「道中で一緒に食べたではありませんか。焚火で作っていただいたお料理も、美味しかったですわ。また食べたいですわね」

「しかし良いんですか?オレ達みたいな一端の兵士と食事なんかして」

「一緒に食事をしてはいけない相手なんていませんわ。私は私が気に入った方々と一緒に食べる食事が、一番好きですの。ですからつまらない心配などせず、たくさん食べてくださいまし」


 ミストラージュの言葉で、場が和んだ。兵士達も食事に手を伸ばし始め、笑顔で食事を頬張る。


「このドレッシングは美味しいですね……。野菜にとても合います」


 メイド服を着ているけど、この日はリリエもお客さんだ。私達と一緒に席について、私と同じく野菜から食べ始めている。

 もっとも、私と違って遠慮がちな部分はある。最初は他のメイドさんに混じって働こうとしていたし。でも私が説得してやめさせ、隣に座らせている。


 続いて私は、緑色の丸い物体にナイフを通して一口分の大きさにし、フォークで口に運んでみた。コレがなんの料理なのか分からないけど、美味しい。残りはフォークで刺して、一口で食べた。

 他にもいくつか不思議な食べ物を頬張っていると、その内メイドさんが新しいお皿を運んできてくれた。そのお皿には、見るからに高そうなお肉がのっている。

 すぐに手を伸ばして、ナイフをいれた。驚く程簡単に切れて、このお肉が柔らかい事が分かる。火加減も丁度良い。私の『スケイルデスロアの腿肉』とは違い、中は赤みを保っていて外側よりだいぶ火の通りが少ない。高いお肉はこれでイイのだ。

 口に運ぶと、やはり凄く柔らかかった。口の中にお肉のうまみが広がり、口の中が一瞬にして天国へと変わる。美味しいから口の中でたくさん噛んで味わいたいのだけど、非情にもお肉が柔らかすぎて勝手に消えていき、幸せな時間は長続きしなかった。

 ハクも、メイドさんが運んできてくれたお肉を美味しそうに食べている。がっついて食べているけど、もうちょっと味わって食べないともったいないよ。心の中でそう警告するも、気づけば私のお肉も無くなっていた。私ががっついて食べたからだ。

 本当に美味しかった。この世の物とは思えないくらい美味しかった。食後のデザートも美味しかった。大満足である。


「こんなに美味しい食事をご馳走していただき、ありがとうございました」

「これくらいお礼を言われるまでもございませんわ。ところで皆さんはいつアブレストに戻るんですの?」

「我々は明日の朝早く、ガザールンを出てアブレストに戻ります」

「もう戻りますの?もう少しゆっくりしていけばいいですのに」

「仕事があるので、そういう訳にもいきません。……ヒメノ様はどうしますか?」

「私?」


 そういえば、ミストラージュをガザールンに送り届けろと言うカミの指示は、もう達成できている。この後はどうすれば良いのだろう。

 まぁ指示された所で言う事を聞くかは分からないけど、とりあえずこの後の予定がない。


「……もう少し、ここにいる」

「好きなだけ泊まって行ってくださいまし!」


 私がそう答えると、ミストラージュが嬉しそうにそう言ってくれた。

 ご厚意に甘えて、泊まらせてもらおう。これで当面の間宿に困る事はない。ありがたい。


 兵士や御者と別れの挨拶を済ませてから、私とリリエは自室に戻ってきた。


「これからどうするおつもりですか?」

「……特に予定はない。その内またカミが現れると思うから、その時私を騙した理由を聞いて、今後カミに協力するかどうかを決める」

「その時は私にもお声がけください。カミなる存在がヒメノ様を欺こうとすれば、私がお傍で助言する事によってヒメノ様をお守りする事が出来ますので」

「たぶん、カミはリリエには見えない。でもその時は呼ぶ」

「はい」


 リリエとそう約束をした夜の事だった。なんだか寝心地が悪くて目が覚めてしまい、目を開くとそこには顔のないマネキンがいた。


『やぁ。こんばんはぁ』


 そこにいたのは、カミである。カミが私の顔を覗くようにしてベッドで眠る私の上にいた。

 私はカミを手で振り払いつつ、ベッドから飛び起きた。しかしながらカミを振り払おうとした手は空を切るだけで、当たった感触はない。それでもカミは自発的に私から退いて、床に立った。


『あはは。驚いた?でもヒメノちゃんの寝顔、可愛かったよ!』

「……カミ」

『なんだい?なんか顔が怖いよ?』


 身体をクネクネと曲げながらそう指摘するカミに、私は苛立った。


「私をハメて、私の心を支配しようとした。その申し開きを聞きたい」

『ちょっと待ってくれよー。一体全体何の話だい?ボクがヒメノちゃんを支配しようとした?そんな事するわけないじゃないかー』


 そう言ってはいるけど、カミの言葉は棒読みだ。棒読みなのは、認めたからだろうか。それともいつものように、ただふざけているだけなのだろうか。


「……リリエ。起きて。カミが現れた」

「……」

「……リリエ?」

『へえぇ。ボクが姿を現したら、この奴隷を起こす約束をしてたんだ。確かに彼女は頭が良い。君よりも長く生きているから、色々な事を知っている。彼女を頼るのは賢いと思うよ。でも無駄だ。ボクに干渉する事が出来るのは、ボクの魂に触れた者だけ。そういう風に出来ている。他には?他にボクの事を話した人はいるのかい?正直に教えて欲しいなぁ』


 リリエが眠っているベッドを覗き込みながら、カミが私にそう言って来た。

 背筋がゾクリとした。一体カミは、リリエに……カミの事を話した者に何をするつもりなのだ。


『なーんて、冗談だよーん!ボクはただの魂の状態だから、この世界の者には干渉する事は出来ない。知った所で何も出来ないから、そんな不安な顔をしないで』


 しかしながら急にいつものように、ふざけた声に戻る。相変わらず情緒の変化が激しい。どれがカミの今現在の感情を表しているのかが分からない。


「……カミに聞きたい事がある。私が森の中で出会った少女、ノルンは5年前に死んでいた。私が見たノルンは、幻だった。その幻を見せたのは、カミ?」

『そだよー。君の心を支配するため、ボクが見せた幻覚だ。ボクが化けていたんだよ。気づかなかった?』


 カミは呆気なく認めた。呆気なさ過ぎて、怒りもわいてこない。


「ノルンはどうして、死んでしまったの?」

『気になるのはそこ?まぁいいよ、教えてあげる。ノルンは病気の母親に代わってお金を稼ぐため、森の中へ入った。不幸にも森の中で足を滑らせ、怪我をして動けなくなってしまった。動けなくなった少女は、どうにかお家へ帰ろうとしたけど力尽き、飢えて死んだ。君に見せた死体は、ボクが脚色した物だ。オスト君がしたように見せるためにね。実際は動けなくなって飢え死にしただけ。安心した?』

「しない。ノルンを利用して穢した貴方を、私は軽蔑する」

『……考えてみて欲しい。ボクが干渉できるのは、ボクの魂に干渉した者だけだ。言ってみればボクは、数少ない干渉出来る者にこうして話しかけ、して欲しい事をお願いする事くらいしか出来ない。断られたら、おしまいだ。だから絶対に、決して裏切られないように、心を支配しようとした。ボクはただ、不安を払拭しようとしただけ。当然の事じゃないかな?』

「でもその目論見は失敗した。結果として私は、カミが私を支配しようとしていた事に気が付いた。カミのためにならなんでもしてあげようと思った。本当に、クソな気分だった。そして今私は、カミに対して疑心を抱いている。返答次第では、私はもうカミに協力しない。そのつもりでいた方が良い」

『……』


 私の警告を聞いて、カミは黙り込んだ。沈黙状態になると、嫌な空気になる。

 カミが何か仕掛けてくるかもしれない。私は警戒しつつ、カミが口を開くのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。