とある休日
私達はミストラージュの姿に気づいた兵士達の案内で、塔の内部へ入る事を許された。塔の向こう側へと繋がる門の両サイドにある坂を上っていくと、門の上の塔の中へと入る事が出来る。
私達は荷馬車に乗ったまま坂を上り、塔の中へとやって来た。
塔の中は螺旋状の階段が頂上まで続いており、その階段を上ると各階層に行くことが出来るようになっている。
実は、階段を上らなくとも各階層にいく方法がある。螺旋階段の奥の台座にのれば、『大魔力結晶』を用いた魔法で各階層までワープする事が出来るのだ。その辺はゲームと同じらしく、実際にその台座でワープしている人の姿を見る事が出来る。
「私は一旦自室に戻らせていただきますわ。皆さんはどうぞごゆっくり休んでいってくださいまし。それと今夜あたり、皆さんで一緒にご飯を食べましょう。美味しいご飯をご馳走いたしますわ」
ミストラージュの言葉に、兵士達が喜びの声をあげた。
喜ぶ兵士達をよそに、ミストラージュが私の方へと近づいて来る。
「今回の旅は、私の人生で一番面白い旅でしたわ。またいつか、ヒメノさんには旅の護衛を頼みたいと思いますが……よろしいでしょうか」
「……良い」
「ありがとうございます。では、また後程!」
ミストラージュは笑顔でお礼を言うと、数名の兵士に囲まれてエスコートされ、ワープして去っていった。
ミストラージュとの旅は、私も楽しかった。お姫様と旅をして、お姫様の色々な表情を見る事が出来、その魅力を間近で感じる事の出来る体験って、貴重だと思う。特にそのお姫様が魅力的な人物だと、尚更良い。
楽しくない思い出もあったけど、それはミストラージュとは関係ない。彼女はただただ、魅力的なお姫様だった。
「お怪我をしているようですが、治療室へご案内いたしますか?」
塔の案内役の兵士が、私にそう尋ねて来た。
私は未だに包帯ぐるぐるまき状態だからね。心配してそう声をかけてくれたんだと思う。
「治療はいらない。放っておけば治る」
「そ、そうですか?もし何かあれば、すぐにお申し付けください。では、客室へご案内いたしますね」
「男性の皆さんは、私に付いて来て下さい」
どうやら男女別で案内されるらしい。私とリリエさんと、兵士達は別々の案内役に導かれる事となった。
先に案内された私達は、階段下のワープ前へとやって来る。案内役の兵士が台座に乗るのについていき、私とリリエさんも台座に立った。
台座に立つと、案内役が台座の奥に設置された水晶のような物に指先を触れさせ、何かを操作し出す。それから間もなく、私達は光に包まれた。視界が一瞬白い光に包まれたかと思えば、光がすぐに収まってそこには別の光景が広がっていた。
「14階にある、女性用の客室フロアになります。ちなみに下の階が男性用の客室フロアになります。各フロアに食堂や浴場が用意されていますので、ご自由にご利用ください。これからお部屋に向かいがてら、場所をご案内しますね」
そして私達が案内された部屋は、広い部屋だった。キングサイズのベッドが2つ置かれた部屋で、高そうな赤い革のソファも備え付けられている。床には赤い絨毯が敷かれているけど、これも柔らかくてとても踏み心地が良い。窓もあるんだけど、そこから見える景色も凄く良い。町を見下ろす事が出来るのは勿論、遥か先までの景色も見る事が出来る。
こんな高級ホテルみたいな部屋に泊まるのは初めてだ。試しに布団に座ってみると、布団はふかふかで、とても良い匂いがする。
「こんな立派なお部屋に泊まるのは、恐れ多いです……」
最初私とリリエさんには、一人一室が与えられる予定だった。しかしリリエさんは自分が奴隷で、メイドという立場にあるから立派な部屋には泊まれないと言って聞かなかった。
案内役の人はそんなの気にしてない様子だったので、困っていた。そこで私が、一つの部屋で一緒に泊まる形にしようと提案。最初渋っていたリリエさんだけど、どうにか説得して了承してくれた。
という訳で私は、リリエさんとこの部屋に泊まる。
「凄く寝心地が良さそう。リリエさんも、試してみて」
「は、はい」
私が誘うと、リリエさんがこちらにやって来て私の隣に座った。そしてベッドに軽く手を置いて、柔らかさを確かめる。
「確かに上等なマットレスに、触り心地の良いシーツですね。シーツには皺ひとつなく、とてもキレイです。……やはり私は床で寝ますね」
「ダメ。きちんとベッドで眠って」
「うっ……分かりました……」
リリエさんは、自分を卑下する癖があるな。いちいち奴隷だからという理由をつけて、与えられた物を断ろうとしてしまう。
私なんて、与えられる物ならなんでも受け入れてしまうのに。食べ物とか、奴隷とか。
それはリリエさんの良い所でもあり、悪い所でもある。
「代わりという訳ではありませんが、言いつけ通りベッドで眠るのでこれからは私の事をリリエとお呼びください」
「……年上なのに?」
「関係ありません。私とヒメノ様は、主従関係にある身。主人が奴隷をさん付けて呼ぶのは、違和感があります。なのでこれからは、リリエと呼び捨てで呼ぶようにしてください」
「分かった。リリエ。これからも、よろしく」
「はい」
リリエが私の手を握って来る。そして見つめ合うと、なんだか変な空気になって来る。
落ち着け、私。先日キスしたばかりで今日一線を越えるのはまだ早い。まだ早いというのは時間的にじゃなくて、時期的にね……て、誰に言い訳をしているんだ。
「とりあえず、お風呂に入ろう」
空気を誤魔化すように、私はそう提案をした。
「良いのですが、お体にさわるのでは?」
私の傷は未だに完治していないと思われていて、その事を心配されている。
「問題ない。大体はもう治った気がする」
そう言って、私は包帯を取り払った。包帯の下にあった傷は、ほとんど塞がっている。血は出ていないし、これならお風呂に入っても問題ないだろう。
「もう傷が塞がって……確かにこれならお風呂に入っても問題なさそうですね」
「……たまには私も、リリエの背中を流す」
「わ、私のですか?さすがに主にそのような事をさせる訳には……」
「別に良い」
いつも私が素っ裸で、リリエさんはメイド服姿のまま髪の毛を洗ってくれたり、背中を流してくれるのは申し訳ない気持ちがあった。せっかく私の奴隷になったのだから、これからはもう少し対等な立場で振る舞ってもらおうと思う。それが良い。
私は大切な相手とは、対等な立場でいたいタイプの人なのだ。
という訳で私とリリエは、同フロアにある浴場へとやって来た。これまた広いお風呂で、アブレストの大浴場と同じくらいの広さがある。
そこで私は、リリエに髪の毛と背中を洗ってもらっている。
「はい、終わりました。お次は前も洗いますね」
リリエにそう促されて後ろを向くと、そこにはリリエの裸がある。
いつもはメイド服を着ているけど、今は違う。私と同じ、素っ裸だ。とても大きい女性だ。背だけではなく、おっぱいも。私の手では収まりきらないサイズの2つの豊かな丘が、私の目の前で揺れている。
オヤジ風に言うと、辛抱たまらん。元々ゲームやアイドルの可愛い女の子が好きだった私にとって、この状況は男が女の裸を見ているのと大して変わらない。でも私は女なので、こうして見つめていても全く問題にならないので役得だ。
「あの、ヒメノ様。そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいです……」
目の前のリリエの裸を凝視していたら、リリエが胸や股を手で隠して顔を赤く染め、身体をもじもじとさせるという色っぽい仕草を見せて来た。
更にたまらん。
こんな魅力的な女の子の裸を見ても誰にも文句を言われないなんて、最高すぎる。
「失礼します」
凝視されている事に文句を言いながらも、リリエが私の身体を洗い始めた。泡立てた洗体タオルで体の隅々まで丁寧に洗ってくれて、とても気持ちが良い。
「次は、私」
「は、はい」
洗い終わり、お湯で泡を流されてから私はリリエと立場を代わった。
まずは座ったリリエの後ろに回り込み、頭を洗い始める。魔法で出した泡立つ水を用いて、リリエの頭を指の腹で優しく擦る。赤い髪の毛も丁寧に泡立てて洗っていき、洗い残しのないようにした。
続いて背中を洗体タオルで洗っていく。リリエの背中は、とても広くてたくましい。だけどきめ細やかで繊細で、手で触ってみるととても触り心地が良かった。
「ん……ヒメノ様、くすぐったいです」
「ごめん……」
触っていたらリリエにそう訴えられたので、謝ってすぐに洗うのを再開した。
「いえ。……こうして身体を誰かに洗ってもらうのは、とても気持ちが良いですね。母とお風呂に入っていた頃を思い出します。お互いに身体を洗いあいっこして、長湯してその日にあった出来事を母と話すのは、とても楽しかったです」
「……私にも、似たような経験がある」
前の世界で病弱だった頃は、洗ってもらう事が多かった。家族は迷惑だったかもしれないけど、私は幸せを感じていた。
なんだかあの頃が懐かしい。戻りたいって訳じゃないけど、出来れば家族にはまた会いたいなと思う。そして今の私を見てもらいたい。
まぁそんな望みが叶う事は、恐らくないのだろう。前にカミもそう言っていた気がする。
「ヒメノ様も、お母様と?少し興味があります」
「……私のお母さんは……いや、いつか話す」
私が置かれている状況は、複雑だ。この身体の記憶の話と、私の記憶がごちゃ混ぜになりそう。
リリエにはいつか、私の事をきちんと全て話そうと思う。それは今じゃない。話せば長くなるし、説明も難しい。お風呂の中でこんな事を話し出したら、のぼせてしまう。
「話していただけるその時を、楽しみにしています」
その後はリリエと一緒に、ゆっくりと湯船に浸かってゆったりとした時間を楽しんだ。
お風呂をあがると、部屋に戻ってこれまたゆったりとした時間を過ごす事になった。久しぶりの、何の目的もない時間だ。
服は簡単なワンピース姿から、いつもの黒色のゴスロリ服へと着替えた。リリエが用意してくれたんだけど、ボロボロになるたびに全く同じ服を出して来る。一体何着同じ服を持ってきているんだろう。
ま、私もこの服は着慣れているし、動きやすくて嫌いじゃないからいいけどね。
その服で部屋の中でハクを出し、一緒にゴロゴロして、昼寝して、何気ない会話を楽しんだり、お茶を飲んだり、オヤツにケーキを食べたりする。正にとある休日のような過ごし方だ。
そうして時間を潰していたら、いつの間にか日没に差し掛かろうかという時間になっていた。




