涙
35話『狂戦士』とレベルの矛盾点があるとご指摘いただき、修正いたしました。
再びご指摘をいただき、更にレベルに関して調整しました。
度重なりご指摘ありがとうございます。
村に戻ると、心配していたアルマ達が私とリリエさんを出迎えてくれた。わざわざ村の出入り口で待っていてくれたらしい。
森の中では色々な事があった。前に見たノルンの死体は、本当の姿ではなかった。私が見たノルンは、カミによって見せられた幻覚だ。それに気づく事で、カミによって支配されようとしていた心を、解放する事が出来た。
本当のノルンは5年前に死んでしまい、森の中で朽ちていた。
本当に、間一髪だった。リリエさんがいなかったら、危なかったと思う。
「一体森の中で何をしていたんですの?正直言って、昨日からヒメノさんはおかしいですわ。何か困りごとがあるなら相談してほしいです」
「……もう、大丈夫。心配かけて、ごめんなさい。ハクも。皆も」
『バウ!』
出迎えてくれた、アルマと兵士達。ハクに向かってお礼を言うと、皆照れたような、安心したような笑顔を見せてくれた。
「ところでその袋はなんですの?」
「とある方の骨です。森の中で拾いました。これからこの骨を、親族の方に届けるつもりです」
という訳で私は、リリエさんと一緒にノルンのお母さんの家へとやって来た。
ノルンのお母さんの家は、神獣の襲撃からは比較的離れていて無事だ。その家の扉をリリエさんがノックすると、中から出て来たのは茶髪の女性だった。少しやつれているけど、髪の毛をかきあげて後ろで結んだ姿は、たくましく見える。
「はーい。ああ、昨日の大きなメイドさん」
「昨日は夜分遅くに申し訳ありませんでした」
「別に構わないさ。どうしたんだい?」
「こちらを貴女に届けなくてはと思いまして」
「なんだい、それ?中を見ても?」
「どうぞ」
リリエさんから袋を受け取ったノルンのお母さんが、袋を開いて中を覗く。中身は、ノルンと思われる死体の骨だ。
「骨……これって、もしかして……?」
「この髪飾りがすぐ近くに落ちていた」
「あ、ああ……これ、ノルンの髪飾りじゃないか。どうして……一体どこにいたんだい!?」
ノルンのお母さんが、私が差し出したボロボロの髪飾りを手にし、泣き崩れ始めた。骨の入った袋と、髪飾りを大事そうに抱きしめながら尋ねて来るその姿は、痛々しい。
「森の中で朽ちているのを、偶然見つけました。娘さんの物で間違いありませんか?」
「間違いない。間違いないよ。もしかしたらどこかで元気に生きているかもなんて思ったりもしたけど、やっぱり死んじまってたんだね……!見つけてやれなくて、ごめんねっ。頼りないお母さんで、ごめんね……!」
私が見たのは幻覚だけど、ノルンはきっと、お母さんの事が好きだった。だから危険な森の中に飛び込んだのだ。お母さんも、ちゃんとノルンの事を想っていてくれた。出来れば二人を、生きたまま再会させてあげたかった。
でも全てはあまりにも遅すぎて、私に出来る事はこれだけだ。
そう思うと、目から涙が溢れ出て来た。
「ヒメノ様」
「……」
無表情のまま流れ出る涙は、不気味だろう。だけどリリエさんが抱きしめてくれて、嬉しかった。
その後、ノルンのお母さんの下を後にし、アルマ達と再び合流した。
「用事は済みましたの?」
「済んだ」
「私達は、この後ガザールンに向けて出立しますわ。ヒメノ様はこちらでゆっくり休んでいた方が良いですわよね?」
「どうして?」
「どうしてって……ご自分の怪我が、どれほど重傷か分かってないんですの?」
アルマはやや怒った様子で、私の姿を指摘して来た。
確かに全身包帯だらけで、片腕は未だに再生していない。ボロボロだ。
「問題ない。ついて行く」
「ダメ、ですわ。そんな状態で連れていく訳にはいきません。リリエさんからも言ってやってください」
「私もヒメノ様には休息が必要だとは思いますが……」
「ゼルにはアルマに同行するよう言われている。最後までついていく」
「ダメですわ」
「……闇夜・再生」
仕方ないので、私は魔法を使った。大量のMPを消費して、自分の肉体が再生するイメージの魔法を発動させる。
すると、失われたはずの私の左腕が、無くなった部分から肉が蠢いて再生していき、骨と肉を作り出していく。やがて、腕は元通りの状態となった。
「これで、大丈夫」
「……腕が、再生した。今のも魔法ですの!?」
「そう」
「さすがはヒメノ様です」
「……」
リリエさんが褒めてくれるも、今の様子を見ていたアルマと兵士達が呆然としている。
放っておいてもたぶん治るんだけどね。このままじゃついて来させないとアルマが言うので、仕方なく魔法で今すぐに治した。
それにしても、凄い量のMPを消費したな。自分のステータス画面を開いてみてビックリした。
消費したMPは、およそ20万。明朝の戦闘からMPは回復しきっておらず、残りのMPは15万程となってしまった。それだけあれば十分と言えば十分ではあるんだけど、予想外に減ったので驚いた。
確かハクの時は、1万ちょいくらいの消費で済んだんだけどな。自分と他の者にするのとでは、消費する量に差があるのだろうか。だとするとやはり魔法の方の再生は、おいそれと使う訳にはいかなそうだ。
「分かりましたわ。ヒメノさんには引き続き、同行していただきます。それと、ガザールンに到着したらヒメノさんの魔法について、詳しくお聞かせ願いたいですわ。貴女の力は……あまりにも常軌を逸している」
そう言ってアルマに睨まれると、ちょっと怖い。
でも同行は許された。良かった。
という訳で私達は、腹ごしらえをした後に村を出立する事になった。村の出入り口で出立の準備を整えると、私とリリエさんとアルマが馬車に乗り込み、馬が走り出す。
「皆さん!」
周囲には私達を見送ろうと、村人達が集まってくれている。村を魔物から守ってくれてありがとうと声を掛けられるも、皆どこか私に対する恐怖心を抱いてビクビクとしているように見える。
そうだね。今思えばあんな戦い方をしたら、怖がられるのは当たり前だ。あれじゃあまるで狂戦士だもの。しかも失われたはずの腕が再生している姿を見られれば、更に恐怖心を煽る事となる。
それでも、お礼を言って見送ってくれるだけまだマシだ。
で、そんな村人達の中をかき分けて、一人の女性が駆けつけて来た。
「ベレッタさん!」
医者の所に届けたレクックさんは、どうにか一命をとりとめた。命に別状はないらしい。二人からは何度もお礼を言われた。
充分にお礼は言ってもらったけど、その上でベレッタさんが私達の見送りにも駆け付けてくれたのだ。
「本当に、ありがとうございました!このご恩は一生忘れません!道中、どうかお気をつけて!」
「どういたしまして!どうか、ご達者で!」
アルマが馬車から身を乗り出してベレッタさんに手を振る。私とリリエさんも、手を振って別れの挨拶をした。
こうして私達は、村を出た。
向かうのはガザールンだ。




