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災害の跡


 動けなくなったアルマは、ハクが背負って運んだ。皆の所へは、ここへ来た時よりもゆったりとしたスピードで戻ったので、合流するまでに少し時間がかかってしまった。

 普通の女性と、動けない状態のアルマを連れているからね。仕方ない。


 皆と合流すると、待ち構えていたリリエさんが私達を出迎えてくれた。

 そして深刻そうな顔で体の心配をされた。よく考えたら、神獣との戦いで体を傷つけられたままだった。体中血まみれだ。アルマも私程ではないけど、傷ついている。

 リリエさんに促されるような形で自分とアルマに回復魔法を使い、傷を塞いでから魔法で水を作り出して血を流す。アルマと二人で木の陰に隠れて、兵士達からは見えない場所でその作業をした。

 それが終わるとリリエさんに服を差し出された。私が着ていた服は、ボロボロになってしまったからね。その代わりだ。そして着替えたのは、全く同じ服だった。どうしてスペアを持っているんだろう。もしかして、ゼルが神獣との戦いを見越して用意してくれたのだろうか。

 私もこの服は自分に似合っていると思うし、嫌いではない。用意が良い事に素直に感謝して着させてもらうよ。

 アルマの方も多少服が傷ついているけど、スペアがないとの事でそのまま着ている。ちなみに顔を隠していたフードの効果は無くなってしまったので、コートは脱ぎ棄てた状態になった。

 改めて見ると、アルマの顔は凄く美しい。金髪縦ロールなだけあって、睫毛は長く、肌も白くキレイでまるでどこかの国のお姫様のようだ。


 一方で野盗に襲われた人達だけど、刺されて怪我をしていた男──名はレクックさんという。レクックさんは、生きていた。腹部に血の染みた包帯を巻きつけた状態で、冷や汗が溢れ出ているけど、約束通り生きて救出された妻を出迎えた。

 夫が生きていた事に涙を流す妻の方──ベレッタさんだけど、義父の死を知らされると悲壮な表情を浮かべ、泣いてしまった。


 襲撃された2人が落ち着くのを待ってもいられない。レクックさんは、生きてはいるけどちゃんとした治療を受ける必要がある。ベレッタさんも精神的にダメージが多く、休養が必要だ。

 私達は旅の中継地点として元々一晩泊まる予定だった、『デリアタ村』を目指す事にした。聞いた事があるなと思ったら、ノルンがその村に住んでいると言っていたのを思い出した。もしかしたら、会えるかもしれない。


「──では、その恐ろしい魔物をヒメノ様と、アルマ様が?」

「ええ!ヒメノさんの真っ黒な剣と魔法が魔物を守るように吹き荒れる風を裂き、魔物を圧倒しましたの!でも最後は敵の大技によってヒメノさんがピンチに陥りましたが、そこは私の天から注ぐ強烈な雷をおみまいし、頭を吹き飛ばしてやりましたわ!」


 ハクに乗ったアルマが、自慢げに話している。私とリリエさんはハクと並んで歩く馬に乗っており、並走しながらお喋りをしている。

 私が乗っている馬は、リリエさんが手綱を握っている。私は手綱を握るリリエさんに抱きしめられるような形で前に乗っているんだけど、馬車よりも乗り心地が良い。揺れはあるものの、ゆっくりならそれ程でもない。後ろに体を傾ければリリエさんが柔らかな背もたれとなってくれて、とても快適だ。


「あの轟音や、時折遠くからやって来る強風は、もしかしたらヒメノ様達が戦っていた魔物による物だったのでしょうか」

「可能性はありますわね。見た事のない、本当に強力な力を持つ魔物でしたわ。悔やまれるのは、あそこまで追い詰めておいてトドメがさせなかった事ですわね」

「先程頭を吹き飛ばしたと仰っていましたが?」

「頭を吹き飛ばされても、生きていたんですの。私は全ての魔力を一撃にこめたせいで、ご覧のあり様ですわ。ヒメノさんが私を庇ってくれたおかげで助かりましたが、その隙に頭のない魔物が飛んで逃げやがりましたの!」

「見た事のない、強力な力を持つ魔物……。まるで以前ゼルブロイド様が討伐した魔物のようですね」


 リリエさんが言っているのは、ゼルが倒した神獣の事だろう。凄い。けっこう近い。

 あの鳥の魔物も、同じ神獣で間違いないから。


「野盗を壊滅させつつ、そんな強力な魔物を退けてしまうなんて……」

「ああ。お二人とも実力者なのは間違いない。実はオレ、アブレストで2人が決闘しているのを遠目で見た事があるんだが、その時も凄かったぞ」

「なんだよそれ、オレも見たかった!」


 私達の会話を、馬に乗って付いて来ている兵士達も聞いている。そしてそんな話をしている。

 アルマは自慢げに鼻を高くしてハクに乗っており、上機嫌だ。


 まぁ、神獣をあそこまで傷つける事が出来たアルマの攻撃は、見事だったとしか言いようがない。自慢して良いと思う。むしろ鼻を高くしている所がちょっと可愛いから、許せちゃう。


 私とリリエさんに馬を貸した兵士は、荷馬車の御者台に運転士と並んで乗っている。

 あちらの空気は、とても暗い。荷馬車にはレクックさんとベレッタさんが乗っており、死体も乗せられている。未だにすすり泣くベレッタさんの声が聞こえてきており、見ているこちらも辛くなってしまう。


「……デリアタ村までは、あとどれくらいですの?予定では今日のお昼過ぎにはついているはずでしたわよね?」

「日没前までには着くはずです」


 質問したアルマに、兵士が答えた。

 野盗や神獣と遭遇した分、予定が遅れている。それでも日没前までにつけるなら、問題ないはずだ。


 でも予定通りに行かないのが現実だ。


 しばらく道なりに進んでいくと、道が険しくなってきた。道はやや上り坂になっており、標高も高くなってきた気がする。たぶん私達は今、山を登っているんだと思う。

 そんな山道の途中を流れる渓流に差し掛かった所で、問題と遭遇した。


「そんな……」


 本来なら渓流にかかっているはずの橋が、壊れている。周囲には上流から流れて来たと思われる倒木や、大きな岩や土砂が散乱していて、状況から災害で橋が流れたのだと推察出来た。


「先日の雨で、橋が流されたようですわね……」


 そういえば、旅に出た日は雨だった。あの雨で橋が壊されてしまったのか。


「わ、私達が通って来た道の橋は、無事でした。私達はデリアタ村には寄らなかったので、旧道の直線路の方が近かったんです。そちらに回ったらいかがでしょうか」


 馬車から身を乗り出してそう言ったのは、ベレッタさんだ。


「今から旧道に迂回していたら、日が暮れてしまいます。夜道も進めなくはありませんが、慎重に進む必要があるので時間がかかります。……怪我人がそれまで、もつでしょうか」


 荷馬車を操る御者が、言いにくそうにそう言った。

 レクックさんは、一刻も早くちゃんと怪我を治療する必要がある。ここはゲームではなく、現実だ。回復魔法をかけたとしても、怪我や病気が完全に治る訳ではない。合併症や、感染症だってある。

 『再生』の魔法なら、もしかしたら傷ついた内臓を治せるのだろうか。内臓を0から作り出した事はあるけど、傷ついた内臓がどうやって再生していくのか……見た事はないけど、やってみよう。


 私は馬から降りると、レクックさんとベレッタさんが乗っている荷馬車に乗った。


「ど、どうしました?」

「少し、試したい事がある。……闇夜・再生」


 不思議そうに見ているベレッタさんをよそに、汗をかいて苦しそうにして仰向けに寝ているレクックさんに向け、魔法を発動させた。

 頭の中で、傷ついた内臓が修復されて治っていくシーンを思い浮かべる。この世界に来てから、何度も怪我をして来た。お腹を刺されたり、頭を貫かれた事もある。その時の内臓ってどうやって治ったんだっけ。自動発動の、スキルの再生で放っておいたら治ったからあまり関心がなかった。でも感覚は覚えてる。その時と同じように、レクックさんの内臓も修復されて行く。

 ……のを想像したんだけど、効果がない。


「……」


 MPは大量に消費されている。だけどレクックさんの身体に変化はなく、HPも変化がない。

 理由は分からないけど、レクックさんの身体を再生させる事は出来ないようだ。ハクは出来たのに。

 もしかしたら、魔法で治す場合ハクの時のように再生したい箇所を一度切り離さないといけないのだろうか。さすがに試す訳にもいかないので、やめておこう。


「ヒメノ様。一体何を?」


 リリエさんも馬から降りて、私を追いかけて来た。私の行動を、彼女もまた不思議そうに見ている。

 レクックさんに何の変化もなかったからだね。私が何をしようとしたか、誰にも分からない。


「……なんでもない。早く医者の所に運ばなければいけないのなら、ハクに運んでもらう。デリアタ村は、この先?」

「そうですが、どうやって川を渡るおつもりで?」


 御者がそう尋ねて来た。渓流は、流れが激しい。だけど向こう岸へはさほど遠くはない。ハクならこれくらい、ジャンプして余裕で飛び越えられるはずだ。


「ハクにレクックさんを乗せていく」

「で、ですが……」

「ヒメノさんの言う通りになさい。今その方の命を救えるのは、ヒメノさんだけですわ。ベレッタさんも、それでよろしいですわよね?」

「……はい。どうか、夫をよろしくお願いします」


 妻であるベレッタさんの許可も得る事が出来て、兵士達の手でレクックさんがハクの上に乗せられる。


「う、ぐっ……!」

「レクック、大丈夫!?」

「ああ……大丈夫だ……」


 レクックさんの意識は一応あるので、ハクの首輪を掴ませ、振り落とされないようにと注意しておく。

 一応私も後ろからついていく予定だ。万が一振り落とされたら、私がキャッチするから安心してほしい。失敗したらごめん。


「ハク。なるべく揺らさないように歩いて。激しい動きも禁止」

『バウ』


 ハクの返事を聞いて、私は魔力噴出を使った。瞬間、髪の毛の色が銀色に染まる。


「ヒメノ様、髪の毛が……!?」


 リリエさんや兵士達が、驚きの表情を見せた。そういえば、皆に見せるのは初めてだったな。アルマには見せたんだけどね。


「気にしないで。ハク。出発して」

『バウッ!』


 アルマの時と同じ事を言って誤魔かし、ハクに出発するよう促すとハクが大きくジャンプした。空中でもう一度、足から魔力を出す事でジャンプ。着地する前も空中で少しジャンプして、衝撃を和らげて向こう岸に着地した。

 私も後に続いて向こう岸に着地する。

 レクックさんはどうにか振り落とされずに済んで、ハクはそのままゆっくりと走り出した。


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