降り注ぐ雷
カミの言った通り、私は神獣と遭遇した。しかしいくらなんでも、こんな時に現れるなんて空気が読めなさ過ぎじゃないかな。
「な、なんなんだよ、この魔物はあぁぁぁ!」
神獣に対し、風に煽られながらもどうにか地面に伏せているボスが、叫んで文句を言っている。
「ハク。私が攻撃を仕掛けるから、その後に女の人の所へ行って。彼女を守って」
攫われた女性は、未だに裏切った男に庇われて地面に倒れている。神獣も近いので、早く回収して安全な場所へと運ばなければいけない。その役目を、ハクに任せた。
『バウ!』
「この魔物、普通じゃありませんわ!」
「分かっている。けど、倒す。闇夜・崩星」
私は両手に、魔法でブラックホールを作り出した。それを神獣へ向かって放り投げる。神獣は向かって来たブラックホールを羽で振り払うと、羽に2つの穴が開いた。
洞窟で遭遇した神獣には効かなかったけど、この神獣には効いている?どうせ効かないんだろうなと思って放った一撃だったけど、効いた事に驚いてしまった。
もしかして、属性が関係あるのだろうか。洞窟の中で遭遇した神獣は、闇属性と思われる攻撃を使っていた。対してこの神獣は、風をまとっている。つまり風属性の攻撃を使う神獣という事になり、闇に対する耐性は持っていない。のかもしれない。
闇が効くなら、私にとっては有利な相手だ。私が一番得意なのは、闇属性の魔法だからね。
魔法を放ったことにより、神獣の注意がこちらに向いた。その隙にハクが駆け出すと、女性を口で咥えて回収。ボスを裏切った男から取り上げると、ダッシュでその場を離れた。
「ハクはそのまま、その人を連れて安全な所にいって。守ってあげて」
私はハクに指示を出しながらストレージの中から破軍滅珠を取り出し、構える。
「……闇夜・冥界黒刃」
魔法を唱えると、私が構える破軍滅珠の先端から黒色の剣が伸びて出て来た。禍々しい程に深い黒で、見ているだけで吸い込まれそうになる。
やっぱり、闇属性の魔法って落ち着くな。
「ちょ、ちょっと待ってください。先程もそうですが、その魔法は闇属性の魔法ですわよね。ヒメノさんは光属性を扱えるのに、闇属性も使えるんですの!?」
「私は全属性の魔法を使える」
「んなっ!?」
私の返答に、アルマが心底驚いたような表情を見せた。
全属性を使えるのって、珍しいのだろうか。ゲームのキャラクターは主人公を始めとして、何人か使えていたんだけどな。
「今は話している暇はない。アルマもこの場から離れていて」
「この魔物と戦うつもりですの!?」
「この魔物を倒すため、私はここにいる。とても強力な力を持っているから、危険だから離れていた方が良い」
「……冗談言わないでくださいまし。ヒメノさんが戦うのなら、私も戦いますわ」
「敵は強い。庇えない。自分の命は、自分で守ってもらう事になる」
「上等、ですわ!」
アルマは何を言ったって引きそうにない。剣を構えると、魔力を開放して身体に雷をまとった。
直後に神獣が私達に向かって翼を振り抜き、猛烈な風をおこした。私とアルマはその場から退避。左右に飛んで避けて、風をかわした。
かわした風は、私達が元居た場所を吹き飛ばしながら、切り裂いた。木が、地面が、切り裂かれながら風によって飛ばされて行く。
左右に分かれた私とアルマはそのまま駆け抜けて、神獣の側方を挟み撃ちするように立った。
「ライトニング・スラスト!」
神獣を挟んで向こう側にいるアルマが、魔法を放った。自身が手に持っているレイピアを高速で神獣に向かって突き出すと、一突きごとに雷が放たれる。放たれた雷は神獣に真っすぐに向かっていく。
しかし神獣が身体にまとった風が、雷を打ち消した。
「なっ!?」
「……」
ならばと次は私が神獣に攻撃を仕掛ける。地面を蹴り、一気に神獣との間合いを詰める。
しかしある程度接近した所で、ふわりと身体が浮いた。神獣が纏っている風があまりにも強すぎて、いくら強く地面を蹴った所で、接近したら風に負けて飛んでしまう。
浮かび上がった私は、そのまま神獣の上方へと巻き上げられてしまった。
「っ……!」
空中にいる私に対し、神獣は長い尻尾を一度しならせると、次の瞬間尻尾は私に迫っていた。
空気が弾けたような破裂音が響き渡った。この音は尻尾から放たれた音である。神獣は尻尾を鞭のように扱う事で、尻尾の先端のスピードを音速以上にまで加速。音速を超えた事で、衝撃波を作り出したのだ。
神獣の尻尾は、トゲトゲがいっぱいだ。こんなのを音速を超えたスピードでくらったら、トゲによって串刺しにされて即死である。
私はギリギリの所で、破軍滅珠の剣を盾にする事で、串刺しを回避。しかし凄い勢いで叩きつけられたので、私の身体は面白いくらいに吹き飛んで行き、太い木にぶつかりそうになる。でも木とぶつかる寸前に、足から魔力を出して空中で止まった。その際に出した魔力が強すぎたようで、ぶつかっていないのに足元の木が砕けて折れてしまう。
「闇夜・崩星」
接近すれば、風で弾かれてしまう。
ならばと私は、再び魔法で作り出したブラックホールを神獣に向かって放つ。それも、連続して放った。
その後に続くように、私も神獣へと向かっていく。
神獣がまとう風が、私に襲い掛かる。だけど先行したブラックホールが風を飲み込む事により、風が一瞬弱まった。風は吹いているものの、私を吹き飛ばす程の威力はない。私は風の中を突破し、もう少しで神獣を間合いに捉える事が出来る。
そう思った時、神獣が私に向かって翼を振り抜いて来た。先程避けた、木々を切り裂きながら吹き飛ばした風が正面から襲い掛かる。しかしブラックホールを盾にしながら、私はそのまま突撃した。
防ぎきれなかった風が私に襲い掛かり、私の肌を切り裂く。しかしブラックホールのおかげか、身体を切り裂かれる程の切れ味ではないし、吹き飛ばされる程の強さでもない。構わず突き進み、神獣の足元に到着した。
足元に到着した私は、神獣に向かって剣を振り抜いた。剣は神獣の足にめり込むと、斬り込んだ部分を剣の中に吸い込みつつ切り裂いていく。
特になんの抵抗もなく、神獣の足は切断された。本体から切り離された足はすぐに私の剣に飲み込まれ、足を失った本体は地面に胴体をつける事となった。
直後に私に向けて、神獣が口を開いて来る。大きな鋭い嘴を直角に開くと、神獣の喉奥に紋章が浮かび上がっているのが見える。そこから、一点に集中した強烈な風が私に向かって放たれた。
私は剣でその風を受け止める。剣は風を吸収しつつ、放たれた風とせめぎあう。でも強烈な風が私に襲い掛かり、私の服と肌が切り裂かれて行く。ここで吹き飛ばされたら、私の身体は洞窟の時のようにバラバラにされてしまうだろう。地面に足がめりこむくらいに踏ん張り、魔力を噴出させ、その場全力で耐える。
「……」
攻撃に耐えていると、神獣の頭上に光る物が目に入った。それは体に雷をまとい、凄い量の魔力を開放している。
「私の存在を忘れていますわよ!ライトニング……ジャッジメント!」
剣を神獣に向かって突きたて、雷を纏ったアルマが降って来る。それはまるで、天から地面に向かって落ちる雷のようだった。雷のような轟音を響かせ、落ちて来たアルマが神獣の頭に直撃。さすがの風も、降り注ぐ雷は防げないようだ。頭に直撃した雷は、神獣の体全体に稲妻を走らせ、神獣の身体を焼いていく。
「砕け散りなさい!」
最後にアルマがそう叫ぶと、神獣の頭が本当に砕け散った。
同時に、私に対して放たれていた風の攻撃も止まる。
アルマはそのまま地面に向かって降り注ぎ、地面に剣を刺して着地した。
頭を失っても、神獣は生きている。私はトドメを刺すため再び神獣に攻撃を仕掛けようとするも、神獣はその場で勢いよく羽ばたいて風を巻き起こした。
「闇夜・崩星」
私は再びブラックホールを作り出して風を吸収しつつ接近を図るも、それはすぐに別の目的へと切り替えざるを得なかった。
「はぁ、はぁ……!」
着地したアルマが、神獣のすぐ下で息を切らせ、動けないでいる。
私はブラックホールをアルマ周辺に放ちつつ、アルマに駆け寄ってアルマを守るように剣を振るい、風を斬る。そうする事で、風によって吹き飛ばされる事は防げる。その代わり、風で体のあちこちは切れてしまうけどね。
こうして防御していたら、羽ばたいていた神獣が空へ浮かび上がった。頭と片足を失った神獣はそのまま高度を上げて行くと、空を飛んで行ってしまう。
「……逃げた?」
まさか逃げるとは思いもしていなかった。だってほら、ゲームとかだとボスキャラが逃げるとかありえないじゃん。
おっといけない。未だにこの世界をゲームと思ってしまっている。
空を飛んでいく神獣を、さすがに追いかける気にはなれなくて、私は魔力噴出を解除して黒髪に戻りつつ、破軍滅珠もしまって戦闘モードを解除した。
短い間の戦闘だったけど、周囲は滅茶苦茶だ。木々が倒れて葉は吹き飛び、禿げている。地面も削れて、ボコボコだ。
とりあえず、神獣は倒せなかったけど退けた。仲間は誰も死んでいない。それで良しとしておこう。




