突風
遠目に見た野盗達のレベルは、高い者で20程度。アルマや私の敵ではない。
事実、猛然と敵陣に突っ込んだアルマに対し、野盗は何も出来なかった。正面から突っ込んで来るアルマに対して剣を振り上げた野盗だけど、アルマのスピードについていけていない。振り上げた状態でアルマが間合いに入り、野盗のお腹を斬りつけた。アルマに斬りつけられた野盗に、電撃が走る。
「あばばばばばば!」
骨が見えそうな勢いで雷に体を震わせ、それから地面に倒れた。
直後に私とハクも、アルマに追いついた。
その場にはアルマが倒した野盗の他に、3名の野盗がいる。
「な、なんだ、てめぇらぁ!?」
野盗が突然現れた私達に対し、剣を向けて怒鳴りつけて来る。
そんなの意に介さず、アルマと私は周囲を見渡した。
いない。荷馬車から盗んだと思われる荷物が少しあるだけで、女性が見当たらない。
「いませんわね……。伺いますが貴方達は馬車を襲い、女性を浚いましたね?その女性はどこへやりましたの?」
「ば、馬車ー?知らねぇなぁ。オレ達はなーんもしてないぜぇ?なぁ、てめぇらぁ?」
「……そうだ。オレ達はただ、荷物を運んでただけだ」
「それなのに突然仲間を斬りつけるなんて、世の中酷い事をする奴もいるもんだなぁ」
「……」
野盗達が、とぼけながら私とアルマを包囲するかのように動き出す。バレバレな動きだ。でもあえて、包囲させてあげた。
「正直に言いなさい。さもなくば、力ずくで聞く事になりますわよ」
「おー、怖。随分躾のなってないお嬢さんだ。顔を隠してないで、よく見せてくれないか?」
「お前達に見せる顔などありません。いいから、浚った女性をどこへやりましたの!?質問に答えなさい!」
「だから、何度も言ってるだろ?……しらねぇってよぉ!」
答えながら、正面から野盗が斬りかかって来た。剣はアルマを狙っており、アルマは溜息混じりでその剣を受け止めようとする。
「っ!?」
だけど、アルマの足元にいた野盗が、アルマの足を掴んで転ばせた。それによってバランスを崩したアルマが、正面からの攻撃に対応出来なくなってしまう。
代わりに私が、アルマに斬りかかろうとした男の腹部に拳を突き出した。魔力噴出状態の私の攻撃を受けた野盗は、お腹の中で何かが砕ける音を響かせると後方に吹き飛んで行く。更に同時に斬りかかって来ていた野盗は、ハクが一人は爪で切り裂き、もう一人は噛み付いて何度か首を振ってから投げ捨てた。
「ひ、ヒメノさん……ハク。後れを取り、申し訳ありませんわ」
先程アルマの足を引っかけたのは、最初にアルマが剣で攻撃を仕掛けた野盗だ。傷は浅すぎて、雷も強烈に見えたけど割と元気そうに生きていた。恐らく情報を聞き出すために、手加減していたのだろう。
足を掴んでいた野盗の手を踏み潰して制圧しつつ、アルマがお礼を言って来た。
「ひ、ひぃ……!」
「もう一度聞きますが、浚った女性はどこへやりましたの?」
残ったのは、アルマの足を掴んだ男だけだ。他は一瞬にして、命を落とした。いや、私がお腹を殴りつけた男は、まだ生きているようだ。『鑑定』を使ってみると、HPが残っている。
アルマが手を踏みつけつつ、男を見下ろしてそう尋ねた。男の態度は、先程とは違って怯えている様子だ。一瞬で仲間が制圧されて、怖くなったらしい。
「し、知らない!本当だ!」
「……」
「ぎゃああぁあぁぁぁ!」
しらばっくれる男の手の甲に、アルマが剣を突き刺した。男の手が串刺しになり、血が溢れ出る。
「もう一度聞きますわ。浚った女性を、どこに?」
「ほ、本当に知らないんだ……!浚ったのは確かにオレ達だけど、途中で訳の分からねぇ突風がふいて、皆はぐれちまったんだよぉ!」
「突風?なんですの、それは。下手な言い訳をするおつもりなら、もう片方の手も串刺しにしますわよ」
「嘘じゃない!嘘だったらもう少しマシな嘘をつく!」
「それもそうですわね……」
「あ、安心しろよ……ここが、はぐれた時の合流地点だ。ここで待ってれば、仲間が女を連れてやってくるはずだ」
「本当ですの?嘘を吐いていたら、殺しますわよ?」
「──安心しろよ!本当だぁ!」
突然、野太い男の声が響いた。声のした方向を見ると、そこに大男がいた。
声の主は筋肉質な男で、片目を眼帯で覆っている。腰には剣を左右に2本ずつ、合計4本つけていて、その内の一本を鞘から抜いて立っている。
抜いた剣は、隣に立たされている女性の喉元へと突き付けられていた。
「う、うぅ……」
剣を突き付けられた女性は、両手を背中で縄で拘束され、足にも縄をかけられて歩けないようにされている。服があちこち破けており、顔にも殴られたようなあとがあり、意識はあるようだけど気力が失われているようだ。
そんな女性を羽交い絞めにして立たせているもう一人の男がいて、この男も野盗の仲間のようだ。
「お頭ぁ!」
アルマの足元にいる男が、大男の事をお頭と呼んだ。あの男がボスか。『鑑定』のスキルを使ってみる。
名前:ヤグルド
種族:人間
レベル:31
HP:7790 / 7790
MP:789 / 789
他の野盗と比べると、レベルが高い。敵のボスなだけはあるけど、私からしたらまだまだ低い方だ。
「ひでぇ状況だなぁ。3人もやられちまったのか。ガガックはどうしたぁ!?」
「ま、まだ来てないです」
「ちっ。ノロマが」
「貴方がこの野盗を率いるボスで、間違いないですわね?」
「ああ、そうだよお嬢ちゃん。おっと、全員動くなよ。ちょっとでも変な動きを見せたら、この女を殺すぜ。そこの魔物にも言って聞かせろよ。女を殺されたくなかったらな」
「……ハク。お座り」
『グルルル』
ハクに私がそう言うと、ボスに向かって唸りながらも言う事をきいて、お座りをした。
「ははは!良い子じゃねぇか!おい、ギーズ!いつまでも寝てねぇで、さっさと立ち上がってその女にお返しをしてやれ!おじょうちゃーん。分かってるだろうけど、抵抗はするなよー?」
「……」
女性の喉元に剣を近づけ、少しだけ皮膚を切りつつ、アルマに対して敵のボスがそう言った。
ボスに脅されるような形で、アルマが男の手に刺しっぱなしだった剣を抜いた。剣を抜かれた男は刺された手を庇って立ちあがりつつ、怒りの目をアルマに向ける。
「いってぇ……このクソガキよくもやってくれたなぁ……!抵抗すんなよ?たっぷりいたぶってやるからよぉ」
男の手が、無抵抗となったアルマに向かって伸びる。
私はその手を掴み取り、アルマに触れさせないようにした。
「な、なんだガキ!はな……な、なんだこの力……?」
男の手は、その場から一切動かなくなった。私の方が、圧倒的な力を有している。
「どうしたギーズ!さっさとそのお嬢ちゃんをいたぶってやれ!」
「い、いや、それが、このガキが……!」
「……」
私はギーズを睨みつけている。アルマに何かしようとするなら、私が許さない。殺す。目にそう警告をこめて、睨み続ける。
「っ……!」
すると、ギーズの表情が段々と曇って来た。私が掴んでいる手から力が抜けていき、抵抗を感じなくなる。そこで手を離してあげた。
「おい、何やってんだギーズ!」
「──も、もうやめよう、お頭!」
そこで突然、女性を羽交い絞めにしていた男が、ボスから距離を取って離れた。
なんだろう。仲間割れだろうか。
よく見れば、その男は、他の男達と比べると若いように見える。身なりも多少無精ひげが生えているだけで、他の者と比べればさほど汚くはない。
「なんだー?オスト。このオレを、裏切るつもりか?」
「こ、この女の人を返せば、それで全部終わる。仲間もやられてしまったんだ。これ以上抵抗はしないでおこう!」
「あめぇ事を言ってんじゃねぇ!今女を返したら、オレ達は皆殺しだ!周りを見て状況が分からねぇのかこのバカが!」
ボスの言っている事は、正しい。この場で女性が解放されたら、私は野盗を全員殺す。
カミは私が人間の悪意に晒された事がないと言った。非情でいなければいけないと言った。
そんな事、言われなくても私は非情だ。敵に、悪者に対して容赦をする気は一切ない。私はゲームの主人公でもなんでもないのでね。
「で、でも……これ以上は……!」
「もういい!てめぇも後で殺す!女をこっちによこせ!」
「……嫌だ!オレはもう、こんなの嫌だ!」
ついには羽交い絞めにしていた女性を離すと、女性は地面に倒れる事になる。それと同時に、男はボスに対して剣を抜いて構えた。
「てめぇ──!」
突然の裏切りに、ボスは怒り心頭だ。頭に血管を浮き上がらせ、ブチギレモードである。
今にも始まろうとする、ボスと裏切り者の戦い。だけどその戦いは、突然の突風で邪魔される事になる。
「んなぁ!またこの風かぁ!」
ボスがそう叫びながら、風に耐え切れなくなり地面に伏せる。この場にいる私達も、風に巻き込まれる。私とアルマは、ハクが覆いかぶさる事で盾になってくれて、かなり楽になる。女性は、ボスを裏切った男が庇ってくれているようだ。地面に転がっていた野盗達は耐え切れずにどこかへ飛んでいく。盗んで来たと思われる荷物も、風で飛ばされてしまった。
「うぎゃああぁぁ!」
風に巻き込まれた者の中で、風に巻き上げられて空に舞い上がった者がいる。先程アルマに触ろうとした野盗だ。空に舞い上がった野盗は、突如として空中で分解された。手足や頭などいくつかのパーツにわかれると、溢れ出た血と一緒に風に運ばれてどこかへと飛んでいく。
「この風は……」
今の現象は、風が男を切り裂いた。この風は、ただの風じゃない。
私は巻き起こる風の中で、この場に降り立つ者の姿を見た。
黒い影が、翼を羽ばたかせながら高度を下げて来る。鋭い嘴と、鋭い爪を持った鳥。細長い尻尾にはトゲがついており、鞭のようにしなっている。尻尾を含めない全長は、おおよそ10メートル程。風はこの黒い鳥が巻き起こしている。
ゆっくりと高度を下げて来たその鳥が、大地に降り立つ。それでも尚風は巻き起こっており、どうやらこの鳥は常に風を纏っているらしい。
「神獣……!」
形は違うけど、ガ・リグレで遭遇した神獣と同様に、影のように黒い。それにこの嫌な感じは、間違いなく神獣だ。




