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攫われた女性


 カミが姿を消した後、私は野盗の死体を『闇夜・崩星』で消し去っておいた。さすがに死体を野ざらしにするのもかわいそうでね。かといって手厚く葬る気にもなれなかったので、魔法で次元の彼方へ消し去った。


 それからやっぱり周囲を歩いてノルンの姿を探したけど、どこにもいない。もうどこかへ行ってしまったようだ。


 一通り探しても見つからず、諦める事にした。私はハクをストレージから取り出し、ハクの上に乗って皆の下へと向かう。


「ヒメノ様!心配していましたよ!」


 皆の所に戻ると、リリエさんが駆けよって来てくれた。ハクから降りると、まず抱きしめられる。そして全身をまさぐり、身体の無事を確認された。


「ヒメノさん、戻ってきましたのね!こちらに来てくださいまし!」


 戻って来た私の姿を確認すると、アルマが叫ぶように手を上げて私を呼んだ。

 何事かと駆け寄ると、地面に男が仰向けで横になっている。腹部に刺されたような傷があり、そこから出血しているようだ。

 男の服装は、この世界のいたって普通の男性の服装。身なりも整っていて、野盗には見えない。という事は、荷馬車の関係者だろうか。


「この人は?」

「茂みの奥で倒れていましたの。話を聞けば、野盗に襲われた方の一人らしいですわ」


 名前:レクック・タリア

 種族:人間

 レベル:13


 HP:77 / 1871

 MP:28 / 28


 『鑑定』でステータス画面を見ると、HPが少なく、更に減っていっている。兵士が布で腹部の血をおさえつけ、血を止めようとしているけど血は止まりそうにない。


「オレは……いいから……親父を、頼む……!」


 親父とは、もしかしたら……。

 私は少し離れた所に寝かされている、死体の方を向いた。手を胸の上で組んだ状態で仰向けに寝かされ、身に着けた服を真っ赤に染めている。


「……聖鐘・祝癒」


 私は男に、回復魔法を使用した。魔法を使うと、男の身体が白色と緑色の風が包み込み、癒やしていく。魔法によって、出血は止まったようだ。血を一生懸命抑えていた兵士が驚きの表情を見せ、傷から手を離している。

 HPも若干回復したものの、それでもまた減り始めている。スピードは先程よりも格段にゆっくりだけど、あとは本人の気力次第といった所か。


「血は止まったけど、危険な状態」

「が、頑張れ!死ぬんじゃないぞ!」


 兵士が男を元気づけながら、血が止まった腹部を縫い合わせるための準備を始める。針を用意したり、消毒したりと、忙しそう。そのサポートをリリエさんがしている。


「父と……妻はどうしていますか……?」

「妻?」


 私は周囲の兵士達や、アルマにリリエさんを見渡した。けど、皆が首を横に振る。

 父というのは、残念ながらあちらで死んでしまっている人の事だと思う。でも妻と思われる人物はいない。


「貴方は何人で、どこへ向かっていましたの?」

「父と、オレの妻と……3人で、アブレストに……父が商人、で……オレと妻は父の仕事を手伝っている……。だけど途中で野盗に襲われた……。オレと父は少しは剣が使えるので戦ったが……二人とも刺された。その後オレは茂みの中で殴られ、気絶させられた。その間に何があったのか……オレには分からないんだ。だから……教えてくれ……」

「今は自分の事だけを考えれば良い。余計な事は考えるな」

「……その答えって、つまり……二人とも殺されてしまったのか……?」


 地面に横たわる男の顔が、くしゃくしゃに歪んだ。目から涙が溢れ出し、息が早くなっていく。


「くっ……!」


 答えた兵士が、悔し気に歯を食いしばる。


「貴方のお父様と思われる方は、死亡いたしましたわ。あちらに死体があります」

「そ……そんな……親父ぃ……!」


 アルマが指さした方向に視線を向けると、そこにある死体が男の目にも入ったようだ。男は死体の方へと手を伸ばし、絶対に届かない距離から手で掴もうとするという行動を見せる。


「でも、妻と思われる方の死体は見つかっておりません。恐らく野盗に連れ去られたのでしょう。野盗に連れ去られた女性の使い道は想像に容易いですわ」

「あ、ああ……そんな……ベレッタが……!すぐに、すぐに助けにいかないと……!」

「しばらくは絶対に生かされていますわ!だから貴方は自分の回復に専念なさい!連れ去られた方は、この私が救出に向かいます!救出して戻って来たら死んでいたなんて、そんなの絶対に許しませんわ!生きて、待っていなさい!良いですわね!」

「……ああ。ありがとう。死なない。約束する」


 絶望に瀕していた男の目に、アルマの言葉で光が戻った。HPの減りも遅くなった気がする。アルマの言葉が、男に生きる希望を与えたのだ。

 その代償に、男と、浚われた女性を救出すると約束したアルマ。普段は我儘なお嬢様って感じなのに、こういう時カッコよくて優しいってズルイ。ゼルが根は優しい子だと言っていたけど、本当にその通りのようだ。


 動物好きで、ハクと戯れる姿を見せてくれたり、包み隠さずハッキリとものをいう性格。今の姿といい、この旅の中でアルマという女性に魅了されつつある自分がいる。


 その後の男の治療は、恐らく医療知識があると思われる兵士に任せる事にした。リリエさんも兵士を手伝うため、その場に残っている。

 私とアルマはその場から離れ、この後どうするかを話し合う。


「ところでヒメノさんは、ハクとどちらに行ってらしたんですの?」

「……ハクが森の中で、女の子を見つけた。その後現れた野盗に襲われた」

「野盗が!?あの方々を襲った一団で間違いありませんわね。それで、その野盗はどうしましたの?」

「襲って来たから、殺した」

「そう……ですの……」


 殺したという発言に、アルマは一瞬驚いた表情を見せた。

 私のように年端もいかない女の子が、襲って来た野盗を殺したなんて堂々と言い放ったらやっぱり不気味だろう。でも隠す必要はない事だ。


「女の子と言うのは?野盗が潜む森の中にいるなんて、危険ですわ」

「たぶん、大丈夫。女の子の事は気にしなくて良い。今は野盗に襲われた女性を探す方法を考えなければいけない」

「……そうですわね。近くに野盗が潜んでいたと言う事は、まだそう遠くにはいっていないはずですわ。のんびりとしている暇はありません。浚われた女性が酷い目に遭わされる前に、救出しなくては」


 こんな事なら、野盗を殺さなければ良かった。生きていれば、情報を聞き出す事も出来たのに。でも過ぎてしまった事は悔やんでも仕方ない。


「ハク。臭いで野盗を追える?」

『バウ!』

「追えるみたい」

「でかしましたわ!リリエさん!私は野盗を追います!兵士の皆さんはこの場でリリエさん達をお守りしてくださいまし!」

「お一人で行くつもりですか!?」


 兵士がアルマに対し、そう言い放った。でも、一人じゃない。


「私もついて行く」

『バウ!』

「ハクもいる」

「しかし……せめて、兵士二名をついていかせてください!」

「私とヒメノさんがいれば、大丈夫ですわ。皆さんはここで、怪我人を守ってあげてくださいまし。ハク!行きますわよ!」

『バウ、バウ!』


 アルマの掛け声で、ハクが駆け出した。アルマがそれについて走り出し、私もそれについていく。

 兵士は最後まで心配していたけど、アルマの言う通り、私とアルマがいれば大丈夫だ。むしろ兵士達がついてきたら足手まといになる可能性もある。


 ハクは先程と同様、迷わずに森の中を進んでいく。時折臭いをかぐために立ち止まったりはするものの、基本的にスピードは落ちない。

 そんなハクのスピードにアルマはついていっている。私のスキル、『魔力噴出』と同じ技術を利用して、魔力を足から放つ事で人とは思えないスピードを出しているのだ。私は一点集中が苦手なようで、それが出来ない。

 だから、ハクとアルマについていくため、『魔力噴出』を使う事にした。


「ヒメノさん!?髪が!?」


 その瞬間、私の髪が黒色から銀色に変化した。

 変化に驚いて、ハクとアルマがこちらを見て来る。


「気にしないで。進んで」


 私が促すと、ハクは再び駆け出した。魔力噴出モードになったおかげで、2人についていくのは簡単だ。むしろ遅く感じるくらい。

 ただ、一点集中型のアルマと違って燃費が悪い。まぁ魔法特化型の私のMP量なら、多少燃費が悪くても問題はないけどね。


 という訳でそのまましばらく先行するハクについていくと、やがて前方に森の中に留まる一団が見えて来た。


 周囲を見渡していた彼らも、接近するこちらに気付いたようだ。こちらを指さして、武器を構えている。

 彼らの風貌は、森の中で私に襲い掛かって来た野盗と同じだ。間違いない。彼らがあの荷馬車を襲い、女性を浚った野盗達だ。


「でかしましたわ、ハク!ご褒美に、ガザールンについたら美味しいお肉をご馳走いたします!」

『バウ!』

「──ライトニング・インパクト!」


 走りながら、アルマが魔法を発動させた。雷がアルマの剣に宿り、彼女が地面を蹴るたびに地面に稲妻が走る。


 アルマはそのままハクを追い越すと、猛然と前方にいる野盗達に突っ込んでいく。

 こちらの正体が分かっていない野盗達は、混乱しながらもなんとなく剣を構えて迎撃態勢をとりはじめる。

 でも、そんなの無駄だ。


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