決闘
私は草原で、金髪縦ロールお嬢様、アルマと対峙する。アルマは相変わらず顔を隠した状態で、剣を片手で構えている。
観客はゼルと、リリエさんだけ。あと、ハクもいる。遠くでメイドさん達が見守っているけど、観客って言うほど近くはない。たぶん何かあった時用のスタッフだ。
「……どうして魔物がこんな所に?」
私とアルマを見守るハクに、アルマが気づいてそう呟いた。
だけど今のハクには首輪をつけられているし、どこからどう見てもおとなしく可愛い動物である。戸惑いつつも、いきなりハクに襲い掛かったりはしない。
「相手を傷つけるような攻撃はなしだ。危険と判断したら、その時は私が止める。両者私の言う事はよく聞くように。聞かなければ、その場合は私が力ずくで止める事となる」
「分かっていますわ。決闘といっても、あくまでヒメノさんの実力を確かめるだけですもの。ただ……一瞬で勝負がついても、文句はありませんわよね」
凄い自信だ。よほど腕に自信があるのだろう。
「ちょっと待ってください。ヒメノ様の武器は?さすがに剣を操る者に対し、素手という訳にはいきませんよね?」
リリエさんが私のためにそう言ってくれているけど、別に私は手ぶらではない。ストーレジにはちゃんと、カミから授かり、破軍滅珠と名付けた武器がある。
でも破軍滅珠は、武器として扱うには強力すぎる。相手が魔物だったり、殺しても良い相手なら使用しても問題はないだろうけどさ。そうじゃない相手に使うのはちょっと怖い。
「ヒメノさん。何か武器はいるか?」
「……いらない。聖鐘・聖光刃」
私が手を構えると、私の手に光の剣が出現した。魔法で作った剣だ。いつもは破軍滅珠を媒体にして作る剣だけど、今は破軍滅珠を介していない。その分、たぶん力が弱い。相手の実力が分からないのに手加減するのも怖いけど、ヘタに本気を出して取り返しのつかない事になるよりはマシだろう。
問題はスキル『魂の解放者』で光属性の攻撃力が上がっている事だけど、元々が光属性の扱いが苦手な私だ。たぶんそんなに攻撃力はあがっていないはず。
「魔法で剣を作るとは、中々やりますわね。それが貴女の武器という訳ですか」
「ほう、聞いた事のない魔法だな。似たような魔法はあるが、ヒメノさんのはそれとは少し違う気がする。どこで覚えた魔法だ?」
「ゼルブロイド様。魔法の解説は後にしましょう。戦いが始められませんので……」
「おっと、そうだな。……両者ともに、準備は良いか?」
「……」
私とアルマが、ゼルの問いかけに頷いて応える。
「では──始め!」
ゼルが手をあげ、その手を振り下ろす事で戦いの合図となった。
一瞬でかたをつける。アルマは宣言した通り、いきなり私に向かって突進して来た。それもただ突っ込んでくるだけではない。じぐざぐに角度を変えてフェイントを交えながら突っ込んでくる。それも、かなりのスピードだ。彼女は踏ん張った足から魔力を噴出させる事で、この動きを実現させている。
私の魔力噴出状態と同じような感じだ。ただ、彼女はコントロールして足からのみ魔力を出しているんだと思う。私にはそんな細かい芸当真似出来ない。
「ライトニング・インパクト!」
私に迫りつつ、アルマが魔法を発動させた。突き出した彼女の剣が雷をまとい、私に迫る。私はその場でじっと構え、正面に来た所で剣を縦に振り払った。
しかし正面に迫ったのもまた、フェイントだった。アルマはニヤリと笑いつつ、また地面を蹴って方向転換すると、私の攻撃をかわしつつ後方に回り込んで来た。
「聖鐘・光律結界」
適当に振り払った剣だ。どうせ避けられるとは思っていたので、驚きもしない。
更に背後に回り込んでくるだろうなと思っていたので、予想していた通りに魔法を発動させる。
私の背後に回り込んだアルマの足元から光がせり上がり、アルマを光の中に閉じ込める。素早く移動していたアルマは、突然足元からせり上がって来た光にぶつかり、大きな衝撃音を響かせた。
振り返ると、私が作り出した光の壁の中で、アルマが突き出した剣を構えたまま突進を続けている。突っ込んで来た時の威力は無くなったものの、剣から放たれる雷が私の白い光の壁とせめぎ合っている。
私のレベルは、54。そんな私が作り出した魔法を破壊できたら、アルマはそれ以上の実力か近いという事になる。
カミとの約束を律義に守っている私は、彼女に鑑定のスキルを使っていない。カミ曰く鑑定阻害のスキル持ちの可能性もあるとの事なので、もしそうなら使っても無駄にはなるだろうけどね。でももし見えたら約束を破る事になるので、ここは使わないでおく。
「小癪な。こんな壁くらい──はあああぁぁぁ!」
アルマが放つ雷の光が、増した。踏ん張っている足から、更なる魔力が発せられて威力を増す。私の光の壁に、ヒビが入った。
ヒビが入ったら、あとは崩壊するのみだった。光の壁が、アルマの雷に耐え切れなくなり弾けて砕け散った。
いくら私が光の魔法を苦手としているからといって、まさかこうもあっさりと『光律結界』を破られてしまうとは。アルマのレベルは、やはり相当な高レベルだと言う事がここで判明した。
彼女を閉じ込めていた壁が破壊された事により、アルマはそのまま再度私に向かって突進してくることになる。雷を纏った剣が、私に迫り来る。
しかしそれは、彼女にとって予想外の出来事だったようだ。彼女は魔力の出力を増して、地面を蹴っていた。たくさんの力を出して、彼女を閉じ込める光の壁を破壊した。突然光の壁が壊れた事により、先程よりも威力を増した状態で私に向かって突っ込んでくる。
「──」
フードが外れて顔が露わになったアルマが、悲壮な表情を浮かべている。このスピードで突っ込んだら、私の命を奪ってしまうとでも思っているのだろう。
声を出す間もない。まるで雷のような速さで私に向かって突き出された剣は、もう本人のアルマにすら止める事が出来ない。まぁ雷のような速さというのは、大袈裟な例えだ、実際はそこまで速くはない。でも車と一緒で、急には止まれないくらいには速い。
避けてもいいけど、避ける必要はない。
私は迫り来るアルマの剣を、片手で掴んで受け止めた。
「はっ!?」
一瞬、雷が私の身体を駆け巡る。でも私の肉体を焼こうとしたその雷は、私に軽い痺れを感じさせるだけで消え去った。
剣を持っているアルマが、私の目の前でピタリと止まっている。何が起こったのか分からないといった様子で私を見つめているその一瞬が、彼女の命取りだった。
「私の、勝ち」
私の光の剣が、アルマの首元に突き付けられている。そのまま振り抜いていたら、アルマは確実に首が飛んでいた。
だから、私の勝ちだと。そう宣言した。
「そこまで!ヒメノさんの勝ちだ。両者武器をしまうように」
「……」
アルマがその場で、膝から崩れ落ちた。私が掴んでいた剣から手を離して座ったので、私が剣を受け取ってしまう形となる。
剣の取っ手を持って、剣を掴み取った自分の手を見てみると、血が出ていた。大した傷ではない。
「ヒメノ様!今すぐ手当てを!」
しかしリリエさんが慌てた様子で駆け寄って来て、剣を私から受け取りつつ怪我をした私の手を掴み取って来た。
「大した怪我じゃない。聖鐘・祝癒」
私はそういって、魔法を発動させた。すると手の出血が止まり、傷も若干塞がった気がする。完璧とは言わないけど、それなりに治った。
「回復魔法まで使えるなんて……!」
リリエさんが、傷が治った私の手をにぎにぎしてくる。ここぞとばかりに触ってやろうって感じが伝わってくるけど、まぁ減るものじゃないし別に良いけどね。
「……あり得ませんわ。私のライトニング・インパクトを、素手で止めるなんて」
「だから言ったろ?ヒメノさんは、君よりも強いと。まぁいささか私も、ここまでは予想していなかったがな。まさかミストラージュ様のライトニング・インパクトを、素手で受け止めてしまうとは──」
「ミストラージュ様?」
その名を復唱したのは、リリエさんだった。
「あ、あぁ。間違えた。アルマだ。アルマだったな。うん」
慌ててゼルが言い直す間に、アルマがフードを被りなおして顔を隠している。フードを被りなおしたアルマがゼルに向かって睨みをきかしているけど、ゼルは頭に手を当ててやっちまったって感じだ。あまり反省はしてなさそう。
怪しい。怪しすぎる。ミストラージュって一体誰だ。
「なんでもありませんわ。私の名は、アルマです」
「勝負はついた!ヒメノさんの勝ちという事で、ヒメノさんを君の護衛につける。また、馬車も私が用意した物に文句を言わずに乗る事。いいね?」
「……約束を破るつもりはありません。分かりましたわ。どのようなボロ馬車にだって乗ってやりますわよ」
「さすがにそんなボロい馬車ではないがな?」
『バウ!』
未だに地面に座り込んでいるアルマに、ハクが一吠えしてから近寄った。そして頭をすり寄せ、立ち上がるように促しているようだ。
「なんですの、あなたは」
「名前は、ハク。私の魔物。私は魔物使いというスキルを持っていて、私の言う事をきいてくれる」
「魔物使い……?珍しいスキルですわね。こんなに強い上に、魔物まで使役出来てしまうなんて……恐ろしい子に喧嘩を売ってしまったようですわね」
そう言いつつハクの頭を優しく撫で、立ち上がるアルマ。リリエさんから自分の剣を受け取ると、鞘に納めて私の方を向く。
「ヒメノさん。力を試すような事をして、申し訳ありませんでしたわ。改めて、護衛をお願いいたします」
「そのつもり」
というような事があったけど、無事カミの指示通りにアルマに同伴する事が決定した。
すぐに終わってしまったけど、久しぶりの戦闘は楽しかった。アルマには少し感謝だ。




