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金髪縦ロール


 一か月程の時間が経過した。その間毎日リリエさんがつきっきりで教えてくれたおかげで、人間の言葉をそこそこ喋れるようになった。文字はまだ難しいけど、相手が喋りかけて来た事はほとんど理解できるし、それに対する返しも出来る。充分だろう。


 一か月間、本当に頑張った。ここまで本気で勉強したのは、高校受験以来だ。


「凄いな。ここまで早く言語を習得してしまうとは……」

「私も驚いています。もしかしたらヒメノ様は、とても頭がよろしいのかもしれません」

「……照れる」


 ゼルとリリエさんが、私の成果を確かめるため、私の部屋で人の言葉で喋りかけてきている。

 その意味は勿論分かるし、返しも出来る。たった一か月間でここまで人の言葉を覚えた私に、2人とも驚いている様子だ。


 前も言ったけど、元々私は勉強が嫌いではない。自分が知らない知識を取り入れるのは楽しいし、集中力もそれなりに続く。記憶力も良い方だ。

 それに加えて、リリエさんの褒めてくれる優しい声と、時折聞かせてくれる厳しい声があったので、とてもよくはかどった。


『バウ!』


 息抜きで遊び相手になってくれるハクにも、感謝している。

 感謝の印に頭を撫でておく。


「引き続き言語の習得に加え、文字も習得していくと良い。この世界で生きていく上で、必ず役に立つスキルだ」

「……」


 言語は基本中の基本だ。ゼルの言っている事はよく分かる。頷きつつも、私は一つの懸念を抱き始めている。


 平和すぎて、つまらない。


 平和が悪いと言っている訳ではない。とても良い事だ。ただ、洞窟で長い事サバイバル生活をして、冒険に次ぐ冒険だった私にとって、毎日勉強では刺激が足りないのだ。


 町の中で過ごしているばかりではつまらないので、たまに町の外へと繰り出して魔物を狩りたくなる。知らない場所に行きたくなる。レベルを上げたくなる。ゲームと一緒だ。


 そろそろカミが現れて、次に私がどうすべきか指示をくれないだろうか。出来れば、戦闘系の指示を出してほしい。


『はい、どうもこんばんはー。カミでーす!』

「……」


 そう願っていたら、その日の夜に本当にカミが現れた。


 ちなみに今日、ハクはこの部屋にいない。リリエさんの部屋に出張中だ。なんでも、抱きしめて眠ってみたいらしい。という訳で貸し出した。

 気持ちは分かる。凄くよく分かる。

 そしてリリエさんがハクを抱きしめて眠る姿を想像すると……カワイイ。


『無事にゼルブロイドきゅんと合流できたみたいだねー。仲良くなっているみたいだし、良かった、良かった。現状で何か困っている事とかないかにゃ?相談に乗るよ?』

「……私の身体は、これ以上成長しない?」

『しないと思う。君は長年ガ・リグレに封印されていたので、肉体の成長は封印されている間に固定された。この世界の、魔族の宿命だ。君は生涯を、今のままの姿で過ごす事になる』

「……そう」


 カミにハッキリとそう言われてしまったので、諦めるしかなさそうだ。この身体が成長して、今よりもっと美しくなるのが楽しみだったんだけどな。残念だ。

 でもリリエさんがこの身体を褒めてくれたし、リリエさんはきっと今の私の姿が好きなはず。リリエさんと同じように、この姿を好むマニアックな人はきっとたくさんいる。


『……他には?困ってる事って、それだけ?』

「うん」

『そっかー。上手くいっているようで何よりだよー。そういえば今の姿、とても可愛いね。見違えすぎて、最初ヒメノちゃんだとは思わなかったよ。服はゼルブロイド君の趣味かな?彼は前世でアニメが大好きだったから、そっちの趣味に引っ張られてるね』

「……」


 そんな気はしていたけど、本当にそうだったとは。まぁ私もアニメは嫌いではなかったから、彼とは話が合いそうだ。


『次に君にしてもらいたい事があるんだけど、いいかにゃー?』

「……どうぞ」

『さすがはボクの眷属だ!頼りになるー。んとね、えっとね、君にはこの町から故郷に帰ろうとする、とある人物に同伴してもらいたい。その道中で、神獣との接触があるはずだ。神獣を倒すかどうかは、状況で判断してくれ。後の事は君次第。無事に町に着いた頃にまた君の前に現れるからさ。その時また、次の指示をだすよん』

「誰に同伴?」

『その内分かるはずさー。でも少し特徴を教えておいてあげよう。顔を隠した、怪しい女性だよん。でも言葉遣いが丁寧で、気品に溢れる。ちょーっと気難しい所があるかもしれないけど、仲良くしとけばお得な事があるかも!?』

「名前は?」

『秘密ー!その方がきっと、面白い。鑑定もなしだよ!いや、もしかしたら鑑定阻害のスキルを持ってるかも……』


 という事は、けっこうな実力者という事か。


『ま、そう言う訳だから、その時はそんな感じでよろしくねー。んじゃ、まったねー』


 そう言い残すと、カミは姿を消した。


 また、新たな冒険が始まろうとしている。カミの指示で、こんなにも胸が躍る自分がいる。


「ふ、ふふ……」


 無表情のまま、私は笑う。


 翌日、リリエさんに人間の文字を習っていたら、そこにメイドさんがやって来た。どうやらゼルが呼んでいるらしい。

 伝言を伝えてくれたメイドさんにハクを預け、私とリリエさんは部屋を出た。

 呼び出されてやってきたのは、広めの部屋だった。その部屋には大きなソファが置かれて、内装が豪華だ。赤色の絨毯が敷き詰められ、天井は高く、梁には彫刻が施されている。天井には絵も描かれている。たぶん応接室か何かだと思うんだけど、凄く豪華。


「来たか。まぁ座ってくれ」


 ソファにはゼルが座って待っていた。私はゼルに指示された通り、彼と机を挟んで対面するように置かれているソファに腰掛ける。

 リリエさんは、私の後ろに立ってポジションをとった。


「実は、ヒメノさんに頼みたい事がある」

「……」


 ゼルにもカミから話が行っているのだろうか。だとしたら、頼み事の内容は予想がつく。


「今このアブレストに、友人の子が遊びに……というか、私に魔法を教わりに来ている。友人の頼み事という事もあって一週間ほど魔法を教えてやり、今日帰る事となった。だが、彼女を連れて来た馬車が故障してしまい、直すのに時間がかかりそうなんだ。代替の馬車を出しても良いのだが、彼女は気難しい。自分が気に入らない馬車には乗ってくれないだろう。護衛もまた同じで、自分が気に入った者でなければ認めない」


 我儘そうだなぁ。話を聞くだけで、そう思った。

 想像するに、どこかの貴族とか、お嬢様系の人だと思われる。そんな人物と同伴して別の町に行くなんて、本人と会う前から気が重い。

 せめて同伴はなしで、一人で行かせてくれないだろうか。道中の神獣もちゃんと倒していくからさ。


 とその時、部屋の扉が静かにノックされる音が響いた。


「どうぞ」

「──失礼いたしますわ」


 扉を開き、扉をノックした人物が部屋の中に入って来る。

 その人物は肩にコートをかけており、顔を覆うフードの間から金色の髪が覗いている。体つきから、女性だという事は分かった。コートで隠しきれていない大きな胸に、スカートから覗く太腿はまさに女性の物である。というか声で分かるけど。コートの下に着ているのは、白と赤を基調とした制服のような服だ。ミニスカートから覗く脚はストッキングで覆われている。腰には剣を差しているな。剣は細い剣で、レイピアと呼ばれる種類の剣だと思う。


「早かったな。丁度今、君の護衛をこの子に頼もうとしていた所だ」

「護衛?」


 部屋に入って来た女性が、ゼルから説明を受けて私の方を見た。そして傍に立って、私を見下ろして来る。

 私は幼女な上に、イスに座っている。見下ろされれば、当然に落差があって見上げる事となる。でもリリエさん程ではない。この子の身長は、恐らく170センチ程だろう。それでも私の感覚からすればちょっとデカイな。


 見上げると、顔を覆ったフードの間から覗いて見える髪が縦ロールとなっていた。

 金髪縦ロールお嬢様……要素が整いすぎている。


「魔族の、子供?なんですの、この子は。ゼルブロイド様の奴隷ですの?」

「いや、奴隷ではない。彼女は平民だ。成り行きで私が保護する事になってな。先日からこの城に滞在してもらっている」

「ゼルブロイド様は、こんなのに私の護衛が務まるとお思いで?私、言いましたわよね?このお城で一番強くて屈強な者を護衛に付けるようにと」

「ああ。その要望に応えるため、彼女を選んだ」

「つまり、なんですの?この魔族の子は、(わたくし)よりも強いと。ゼルブロイド様はそう仰るのですか?」

「そうだな。彼女は君より強い」

「……この数日で私の実力はお分かりいただけたものと思っていましたが、(わたくし)の勘違いだったようですわね。今の発言、撤回するなら今のうちですわよ」

「撤回はしない。君の護衛は、彼女──ヒメノさんに任せるつもりだ」

「……」


 空気が悪くなる。この金髪の女性は、私がこの子より強いとゼルに言い切られ、それが気に入らないようだ。

 ゼルと私を交互に睨みつけて、今にもキレ出しそう。金髪縦ロールお嬢様は、キレたら手がつけられない。どこの世界もきっと同じだ。今すぐなだめなければいけない。


「認められないなら、確かめればいい」

「……」


 私がそう言い放った瞬間、空気が更に張り詰めた。

 金髪縦ロール少女が、先程よりも更に鋭く私を睨みつけている。

 え、なに。私何か変な事を言った?


「いいんじゃないか?ヒメノさんがそう言っている訳だし、貴女自身の手で確かめてみると良い」

「……ヒメノさんと仰いましたね。私の名は、『アルマ』と申します。今貴女は確かめれば良いと言いましたが、本気で仰っていますの?」

「……」


 頷くと、金髪縦ロール少女──アルマがニヤリと笑う。


「よろしい。では、貴女に決闘を申し込みますわ!」


 眼前で指をさされ、高々とそう宣言されてしまった。


 どうしてそうなる。私はただ、魔法を見てもらえば実力が分かってもらえると考えただけなのに。


「ヒメノさんが勝ったら、ヒメノさんを護衛として同伴させる。馬車にも文句を言わず、道中はヒメノさんの言う事をちゃんと聞く。逆にアルマが勝利したら、ヒメノさんは護衛につけず、私自ら君の護衛を担当しよう」

「それは魅力的な提案ですわね。その条件でよろしくてよ」


 勝手に話が進み、そういう事になった。

 そして場所は、城外の草原地帯へと移り変わる。


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