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優しい人間


 森の中は、カミが言っていた通り鬱蒼としている。木々の背が高く、その木からはえる枝についている葉が、デカくて多いんだ。ちょっとした茂みも葉がでかくて道がない。

 ハクに乗っていると、そんな茂みの中にお構いなしに突っ込んでいくから、私は時々魔法で進行方向にある茂みを消し去っている。『崩星』で、跡形もなく。

 ハクが時々心配そうに私の方を見つめて来るけど、燃やすよりはいいだろう。下手をしたら火事になるし。私なりの配慮だ。


「ん。ハク、あの木の所に行って」

『クゥン』


 私の要求に対し、ハクはやや弱気そうな返事をして返した。


 不思議に思いながらも、ハクはトボトボと私が指定した木の下にやって来てくれた。ハクに乗ったまま、その木に実っている実に手を伸ばして枝と繋がるツタを引きちぎり、握ってみる。


 赤い実だ。黄色の斑点がついていて、触ると桃のように柔らかい。


 思えばこの世界に来てから、魔物しか食べた事がない。私にとって、この世界に来てから初めての、魔物以外の食べ物だ。

 いただきます。


「あー……」

『バウバウ!』


 口を開いて食べようとしたら、ハクが吠えて暴れ出した。急に動き出したので、木の実を手から落としてしまった。


「何をするの……」

『クゥン、クゥン』


 私が抗議すると、ハクは地面におちた木の実を鼻で押し、遠ざけようとしている。


 その行動を見て、ハクが私にこの実が毒だと伝えようとしている事に気が付いた。

 見るからに毒々しい実なので、私もそうではないかとは思ってはいた。


「分かってる。私は大丈夫だから、安心して」


 頭を撫でてお礼を言いながら、もう一つ木の実を手に取る。手で軽く擦ってから、この部分にしゃぶりつく。

 ハクが、本当に食べやがったよっていう目でこちらを見つめている。


 木の実を食べた感想は……皮はむいた方が良さそうだ。口の中に残る。中身の方は、思ったよりは美味しい。ちょっと酸っぱすぎる。酸味がききすぎて、これ単体で食べるのは物好きだけだと思う。

 例えばだけど、絞ってお肉にかけて食べたりすると、美味しいかも。そういう食べ方にすべきだね。


 という訳で、私は適当な数の木の実を回収。アイテムストレージにいれておいた。


『バウ……?』


 心配そうにハクが見て来るけど、本当に大丈夫。だって私、状態異常に耐性があるので。

 でもあまりにも心配そうに見て来るので、私は木の実を鑑定してみた。というか食べる前にすべきだったなと、今更思う。


 ザルメルオス・強力な麻痺毒を持つ。体内に入り込むと全身の神経伝達を阻害し、食べた者を死においやる。


 なるほど、ちゃんとした毒の実のようだ。

 それにしてもハクは偉い。ちゃんと毒だと私に伝え、食べるのをやめさせようとしてくれた。

 頭をなでなでしつつ、もう一口食べる。やっぱり酸っぱいな。でもなんかこう……癖になる酸っぱさではある。

 いや、ただ魔物以外の食べ物に飢えているだけか。


 森の中には他にも食べ物がたくさんあって、木の実やキノコに、変な植物も食べ歩いた。正直、どれもクセのある味がする。そしてどの食べ物も、もれなく毒を持っていた。

 洞窟の中でも思った事だけど、この森の中で暮らすには、毒に対する耐性が必須だと思う。洞窟では毒を吐く魔物がたくさんいて、森の中では毒を持つ食べ物がたくさんだからね。


「……ハクは食べないの?」


 洞窟の中にいた魔物だし、毒耐性を持っているんじゃないかと思い、ザルメルオスを差し出してみた。

 するとハクは、全力で首を横に振ってお断りして来た。まぁ確かに、例え毒に対する耐性を持っていても、好んで食べるような物ではない。酸っぱいからねコレ。ハクの口には合わないのだろう。


 代わりと言ったらなんだけど、洞窟の中で調理してストックしておいた『スケイル・デスロアの腿肉の石焼き』をストレージから取り出し、食べさせてあげた。

 美味しそうに頬張り、一瞬で数枚をペロリと平らげてしまう。でもまだまだストックはたくさんあるので、しばらくはこれがハクの主食かな。


 ちなみにアイテムストレージにいれた物は、どうやら腐らないみたい。いつまで経っても新鮮なままなので、冷蔵庫いらずだ。

 冷蔵庫の中にいれた物の存在を忘れ、思い出した時には既に腐っており、なくなく捨てる事になった食材達。このアイテムストレージさえあれば、もう安心。食材の腐敗を心配する事がなくなります。


 あら便利。おいくら?


 まずはこの世界に来てもらう必要がある。そしてお金では買えない。

 どうやったら手に入るスキルなんだろう。私には分かりません。


 そんな無責任な通販番組を頭の中で放映しながら、私はハクに乗ったまま森を抜ける事に成功した。

 時間は日没となり、辺りは暗くなり始めている。太陽が沈む方向と逆方向に真っすぐ進んで来たので、私の世界の常識では東に進んで来たはずだ。


 合っているかどうかは、この先に監視塔?があれば分かる事。どれどれ。

 私はハクの背に乗ったまま、辺りを見渡す。日没なので、景色を楽しむ事は出来ない。だけどなんかたぶん、広大な緑の大地が広がっている気がする。


 見渡すと、建物を発見した。進行方向に人工的な明かりがあって、その明かりに照らされるような形で石の建物がそびえたっているのが見える。

 間違いない。あそこがカミの言っていた監視塔だ。私はハクに乗ったままそちらに向かったけど、途中で思った。


 このままハクを連れて行ったら、攻撃されるんじゃねと。だってハクって魔物だし。


「ハク。一旦ストレージに入ってもらってもいい?」

『くぅん』


 ハクの背から降りてそう尋ねると、甘えるような声で鳴かれた。

 私だって出来ればストレージにいれておきたくはない。ストレージは確かに便利だけど、なんかこう……かわいそうだ。ゲームだったらなんとも思わないんだろうけど、現実でそれはきつい。そもそもストレージに入っている時ってどうなっているんだろう。真っ暗な空間で、たった一人切りなのだろうか。それも凄く窮屈で、身動きが取れないとか。

 入った事はないけど、勝手に想像するとやっぱりかわいそう。


「……ごめんね。またすぐに出してあげるから、お願い」

『……バウ』


 本当には嫌そうだけど、頼むと小さく吠えて納得してくれた。

 心苦しいけど、目立ちたくないので仕方がない。私はステータス画面を操作してハクをストレージにしまう選択をした。


 すると、目の前にいたハクが姿を消した。代わりにストレージにハクが入っている事が表示されている。

 ついでに破軍滅珠もストレージにしまっておいた。素っ裸にけん玉もちって、なんかマニアックなかっこうすぎるから。


 早くハクを出してあげるためにも、早く接触しなければ。私は意気込んで、たった一人で監視塔へと向かって歩く。

 そして目の前まで辿り着いたのだけど、よく考えたら私、素っ裸だ。しかも森の中を進んで来たのであちこち汚れていて汚い。水浴びをしてくればよかった。そして更によく考えたら、人見知りな私がいきなり知らない人に話しかけるのはハードルが高い。

 ああ、それにしても……なんだか良い匂いがする。この匂いは、なんだろう。シチューかなぁ。匂いに誘われるかのように、私は窓から中の様子を伺う。

 中には人間の男が、5名いる。全員武装していて、鎧姿だ。ただ頭の甲冑は外して傍に置いていて、今は仕事を忘れて食事を楽しんでいるって感じ。

 匂いはやはり、シチューだった。机の上に置かれた木の皿の中に、白色のシチューがもられている。男達はシチューをパンにつけて頬張りながら、コップの飲み物をごくごくと飲んで楽しそうに笑っている。


『──!』


 覗きに夢中になっていたら、背後から近づく人物がいたのに気づけなかった。

 よく分からない言葉で怒鳴られ、振り返るとそこには甲冑姿の武装した男がいた。鞘に納められた剣に手をかけていて、今にも私に向かって斬りかかってきそう。

 だけど、すぐに安心した。相手のレベルはたったの15程度。相手にならない。


「……」


 でもカミは、抵抗するなと言っていたな。ここは逃げたり抵抗せずにじっと見つめておく。


『──……?──。───』


 男の言葉は、やはり私には理解出来ない。この世界の人間の言葉だろうか。本当にサッパリ分からない。

 でも剣から手を離して戸惑っている当たり、たぶんそんなに悪い事を言っている訳じゃないと思う。


 そこへ、建物の中から男達がゾロゾロと出て来た。そして大勢の男に囲まれる。自分が素っ裸なのを思い出して、恥ずかしくなってきた。だけど男のお医者さんに裸は見られ慣れているので、全員お医者さんだとでも思っておこう。

 ……やっぱり無理だ。こんな大勢に裸を見られるとか、我慢ならない。

 恥ずかしいので手で大事な所を隠しておく。

 そんな私の行動をみかねて、男の中の一人がその場から一旦立ち去り、戻って来たと思ったら私に掛け布団を差し出してくれた。

 私は遠慮なく布団を身体に羽織って身体を隠す。


 優しい。でも汗臭い。


 男達は私を前に、話し合いを始めた。言語が分からないので、自分がどういう扱いをされるのかという心配があったものの、とりあえず建物の中へと通される事となった。

 中へ通されると、イスに座らされた。そして目の前にシチューの入ったお皿が運ばれてきた。更にはパンとサラダも差し出された。

 男達がなんと言っているか分からないけど、食べろと言ってくれているに違いない。なので私は、全力で食べた。おかわりもした。久しぶりに食べる、ちゃんと調理された人間らしい料理は凄く美味しかった。

 ご飯を食べ終わると、事情聴取が始まった。だけど相手が何を言っているのか全く分からない。せっかく美味しいご飯を食べさせてくれたのに、役に立てず申し訳ない気持ちになる。

 事情聴取がすぐに終わると、今度はベッドつきの小さな部屋に通された。どうやらここで眠ってよいという事らしい。

 ベッドと言っても、敷布団は元居た世界では考えられないレベルで固い。あと、汗臭い。

 だけどこの世界に来てから、毎日ずーっと地面で眠っていた私にとって、とても寝心地が良く感じてしまうのが悔しい。結局、布団の中に入ったらすぐに眠りについてしまった。


 この世界の人間って、もしかしたら凄く親切な人達なのかもしれない。私の中で、人間に対する評価が爆上がりだ。


 でも次の日起きたら、手錠をかけられて檻の中へいれられた。


 どうしてこうなった。


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