洞窟の外へ
目が覚めた。
この世界に来てから、目が覚めてまず目に入るのは『魔力結晶』が埋め込まれて輝く天井だ。いつも通りの寝覚めである。
身体は……動くようになっている。頭も、もう風穴は空いていない。
ステータス画面を開くと、HPもMPも半分程に回復していた。MPも、だいぶ消費したからなぁ。魔力噴出で常時使用していたのは勿論、最後の『耀天剣戟』には2万くらいのMPを消費した。
名前:ヒメノ
種族:魔族
レベル:54
HP:21370 / 39312
MP:223811 / 406671
戦闘後にレベルが上がっていたらしくて、こんな感じになっている。
そういえば、スキルを習得したんだっけ。思い出して、スキル一覧も開いてみる。
習得スキル
・魔王の加護
・神殺し
・ユニーク魔法
・魔力噴出
・再生
・死の直感
・魂の解放者
・鑑定
・アイテムストレージ
えっと、『死の直感』と、『魂の解放者』が増えてるな。なになに。
死の直感 自分にふりかかろうとする死を気配で感じ取る事が出来る。
魂の解放者 光属性の攻撃力があがる。
説明を見ると、こんな感じだった。
死を感じ取れる事が出来るスキルと、光属性の攻撃力があがるスキル、か。また命懸けの戦いがあれば役に立ちそうだけど、出来ればもうしたくはないと思う自分がいる。
でも、またしたいと思う自分もいる訳で……。
「ふ、ふふ」
また、笑いが漏れて来た。
強敵を倒したと言う悦びが、私をそうさせる。
そう。この悦びが欲しかったのだ。ゲームのカミを倒した時のような、忘れられない達成感。それを私は今、神獣を倒した事によって再び感じている。
『ええええぇぇぇ!?なに、なになになに、なにコレなにコレなにコレー!?どうなってるのー!?』
そこへどこからともなくカミが現れて、やかましく喋り出す。
地面に横たわっていた私は、立ち上がった。
その時気づいたけど、隣では白い魔物が横になっていた。ずっと私の傍で眠っていたようだ。まだ眠っている。
「神獣を倒した」
『うっそでしょ……?だってヒメノちゃん、死んだじゃん』
「色々あった」
『どうやって助かったの!?どうやって神獣を倒したの!?見たかったー!巻き戻してもう一回やってー!』
「無理」
駄々をこねるカミに、私は即答して返す。
『ま、いいや。神獣を倒してくれたなら、なんでもイイ』
そしてまた、いつも通り急に無の感情に戻るカミ。
『おめでとう、ヒメノちゃん。ボクは君ならやれると思ってたぜ』
「嘘」
『確かに君が死んだ時、正直言ってボクは君を諦めた。だけど君なら何かをやってくれると思っていたのは本当だ。なにせ君は、ボクを倒した者だから』
「……」
『……なんか不満って感じ?』
「謝って」
『え?』
「私に失望したのを、謝って」
『う、うん。ごめんね』
私を殺した神獣を倒したし、私に失望して去ったカミにも謝罪をしてもらった。
これでよし。スッキリした。
スッキリして、再び笑いが零れる。
「ふ、ふふ」
『ヒメノちゃん、もしかして笑ってる?』
どこからどう見たって笑っているだろう。
『ボクがこう言うのもなんだけど、無表情で笑うのって怖いね』
「……無表情?」
『え?そうだよー。ヒメノちゃん、この世界に来てからずーっと無表情だよ』
「……」
指摘されて、顔を触ってみる。ここにあるのは、普通の顔だ。カミの顔のように、無表情なマスクをつけている訳ではない。
「あはは」
口角をあげて笑顔を作ろうとしてみる。でもカミの指摘した通り、口は動いても表情は変わっていない。
怒ってみても、泣いてみても、表情が一切変わった気配がないのだ。
『……その身体が喜怒哀楽を忘れているのか、はたまた元々のヒメノちゃんが感情の出し方を忘れてしまっていたのか。ボクには分かりかねる。君は本当に不思議な子だよ。んまぁー表情なんてなくても大丈夫!むしろそんな無駄な物いらない、いらない!あはははは!』
無表情のまま笑い声をあげるカミをみて、やっぱり表情って大事だなと思った。
でもカミが言った、元々の私が感情の出し方を忘れている、という言葉が胸に響いた。確かに私は、元居た世界で感情の出し方が乏しかったと思う。喜怒哀楽という感情は病気で苦しむにつれて無くなっていき、ただ生きていただけの人形のようだった。その影響が、この世界に来てこの新しい身体にも出てしまっているのかもしれない。
せっかく悦びを感じれるようになったというのに、表情に出せないなんて……まぁ別にいっか。困る事でもないし。
『さて、ヒメノちゃん!君は合格だ!』
「合格?」
『ボクの眷属としてー、世界中にいる神獣を倒すためー、働いていいよって事ー』
「最初にそうしろと、言っていた」
『ああ、あれ試用期間みたいなもん。今からが、本採用』
「……採用祝いで何かくれるの?」
『本来なら聖武具をあげる所だけど、君はもう手に入れてしまった。だから何もないよーん』
「……」
『仕方ないじゃーん。今のボクが現世の者達にしてあげられる事なんて、本当に限られてるんだよーん。おっと、時間がないので次に君がすべき事を言うよ』
一瞬カミに大きなノイズが走り、また突然消えてしまうのかと思った。だけどなんとか持ち直すと、慌てて言葉を続ける。
『次に君がすべき事は、他のボクの眷属と合流する事だ』
「他の眷属……」
『そう。彼はこの世界ではそれなりの権力者だ。ボクからも言っておくから、とりあえず顔合わせしてくれ。そのためにもまず、この洞窟から脱出する必要がある。この洞窟は広く、適当に歩いただけじゃまず脱出する事は出来ない。そこで、特別にボクが道案内をしてあげる。魔力結晶を道標にしておくよ。分かれ道で正しい道をピンク色の魔力結晶で示しておく。なぁにお礼には及ばないさ、あはは。チラチラ』
「……ありがとう」
『どういたしまして!んで、洞窟から出たら外は鬱蒼とした森だ。魔物がうじゃうじゃいるけど、洞窟の中ほど強い魔物はいない。むしろ今のヒメノちゃんにとっては、雑魚中の雑魚!問題ないよーん。で、東に少し行った所に人間が建てた監視塔がある』
「人間……」
『そうそう。そこで保護してもらってね。何をされても抵抗しちゃダメだよーん。ましてや殺したりとかしないでね。そうすればきっと、彼らが人間の町へと連れて行ってくれる。あとはもう成り行きに任せておけば、ボクの眷属と出会えるって訳さ!簡単だろう?ほいじゃそろそろ消える時間だから、まったねー!』
早口で説明を終えると、手を振ってカミが消え去った。
嫌に明るいカミの声が聞こえなくなると、静まり返ったみたいで寂しく感じる。
まぁ言葉が通じる相手が他にいないからっていうのが大きいんだろうけどね。
それにしても、人間かぁ。ついに、この世界に来てから初めての接触となる。
「……」
考えたら、家族と医者以外の人間と接触するのって、いつ以来だろう。知らない人との会話が、この先に待ち受けている。そう考えると、今から怖い。
何を隠そう、実は私は人見知りなのでした。カミとは平気じゃんって?カミは人じゃないからカウントされない。
『クゥン?』
そこで、白い魔物が目を覚ました。鼻を鳴らして起き上がると、私に向かって頬を擦り付けて来る。
そういえば、親魔物はどこへ行ったんだろう。この子の兄弟の、黒い方も。周囲を見渡してもどこにもいない。
「家族の下へ行かなくていいの?」
『バウ!』
頭を撫でながら尋ねると、私に向かってお座りをして尻尾を振って来る。
「……もしかして、私について来たいの?」
『バウ!』
意味が分かっているのか分かっていないのか、元気に吠えて返事をして来た。
本当に、そのつもりで返事をしているのだろうか。言葉が通じないので分からない。
「じゃあ、いいよ。気が済むまでついてきて」
それなら名前をつけなくてはいけないな。うーん……えーとこの子の一番の特徴は……。
「貴方の名前、ハクでいい?」
『バウ!』
白い魔物改め、ハクが元気に吠えて喜んでくれた。
その時、突然ステータス画面が開き、スキルを習得したと言うメッセージが流れた。
スキル習得・魔物使い
魔物使い 契約した魔物を従える事が出来る。従えた魔物はストレージに保管しておき、いつでも呼び出せる。
魔物って、ストレージに保管できるんだ……。ゲームにはなかった機能だな。そもそも魔物使いなんていうスキルも存在しなかった。魔物を従える事が出来るって……魔物をペットに出来ると言う事だろうか。
ま、なんでもいい。この世界はまだまだ謎だらけで、出来る事はたくさんあるという事だ。
「よろしくね、ハク」
私は握手代わりに、ハクの頭を抱きしめる。
ふわふわのもふもふで、あったかい。この世界に来てから初めて組んだパーティの相手は、魔物だった。
少し前に倒れていた私を食べた魔物とパーティを組む事になるとか、不思議な縁だ。
その後私はハクの背中に飛び乗ると、洞窟の外を目指して駆け出した。ハクの足はとても速い。それにカミが残してくれた道標のおかげで、迷わず洞窟の外を目指せる。遭遇した魔物とも、ハクの足が速いのでいちいち戦闘をしなくても良い。
それでも一日くらいかかり、ようやく洞窟の外へと辿り着く事が出来た。
洞窟の出入り口は、崖の下に開いたとても大きな穴だった。穴の大きさは縦に神獣5匹分ってくらいの高さがあるかな。横には倍くらい広がっている。本当に大きい洞窟だったんだなと、出入り口の大きさでも感じる。
それにしても、本当に久しぶりの日の光が気持ち良い。外は背の大きな木々に囲まれていて、木々の枝によって太陽の光が遮られ気味ではあるけど、それでも充分なくらいに眩しく感じる。まるで光合成をしているかのような気分だ。
えっと、確かカミは東に行けって言ってたよね。ところで、東ってどっちだろう。普通に考えれば太陽が沈むのと逆方向だけど、この世界も同じなのだろうか。
とりあえずはそういう事にしておくしかない。
「ハク。あっちに向かって歩いて」
『バウ!』
ハクに指示を出すと、私を乗せたまま、ハクがゆっくりと森の中を進み始める。
太陽が沈む方向は、歩きながら判断すれば良い。とりあえずはこの、地上の世界を堪能させてもらう。




